ダブルケアの苦しい現実、求められる支援とは
現在、子育てと親の介護を両方負担する「ダブルケア」に疲弊している人が少なくありません。「子育てだけであれば、仕事も続けられる」と思っていたところに老親の介護も加わり、結局仕事を辞めざるをえないというケースもあることが内閣府の調べでわかってきています。そこで今回は、ダブルケアの実態と、どのようなサポートが求められるかを解説します。
ダブルケアの実態
ダブルケアとは、子育てと親などの介護を同時におこなう状況を指します。高齢化社会の進行にともない、パパ・ママ世代の介護対象者が増えるなかで、ダブルケアは深刻な社会問題になるといわれています。高齢化だけでなく、晩婚化・晩産化(出産の高齢化)もダブルケアに拍車をかけています。かつては20代で第一子を出産していましたが、いまでは30代以上での出産もごく当たり前にみられるようになりました。30代と言えば、ちょうど両親が高齢者になりかかるタイミング。子育てに手のかかる時期に、親の介護が重なり、ダブルケアが起こりやすくなったのです。
現在、ダブルケアをしている人は男性で約8万人、女性で約17万人いるといわれています。この数字は育児をしている人の実に2.5%、介護をしている人の4.5%にあたります。さらに、今後は少子化が進んだ世代が子育て・介護世代となるので、兄弟姉妹が少なく、一人っ子が親の介護を一手に背負わなければならないという状況も進みます。そうすると、さらに1人にかかる負担は増大するといえるのです。
女性とダブルケア
男女共同参画が叫ばれるようになって久しいですが、子育てや介護に関しては、まだまだ女性が担う部分が多いのが現実です。必然的に、ダブルケアによって、女性に過度な負担がかかるケースも増えているのです。
特に、共働き家庭では、女性は仕事と子育て、介護という、息をつくひまもない生活に追われることになります。これにより、自分のキャリアをあきらめてしまうだけでなく、心身のバランスを崩してしまう方も少なくありません。女性の活躍推進といわれている昨今、女性が辞めたくないのに仕事を辞めなければいけないという状況は由々しき問題です。ダブルケアの担い手が、無理なく継続的に活躍できるようなサポートが求められています。
ダブルケアに求められる支援とは
現在のところ、ダブルケアへの対策は十分とはいえません。それは、これまで別のベクトルで考えられていた育児と介護を一緒に考えなければいけなくなったためでもあります。行政においても相談窓口などが分かれており、それぞれで異なるアドバイスを受けることも少なくないのです。育児・介護を管轄する窓口が柔軟に対応をしていく必要があるといえるでしょう。
一方、少ないながらもダブルケアに向けて取り組みを始めている行政の取り組みや民間機関もあります。
・神奈川県横浜市の事例
横浜市では、ダブルケア世帯で介護をされている高齢者が、特別養護老人ホームに入りやすくなるよう指針を改定しました。これまで同居の家族がいる場合は、「介護する者がいる」とみなされ入所の優先順位が低くなってきました。この基準判定をなくし、ダブルケアで介護をされている場合には、一人暮らしの高齢者と同じレベルで扱われることとしたのです。これは、他の自治体にも広がっていく可能性がある有効な対策といえるでしょう。
・NPO法人子ども劇場笠岡センターの事例
民間機関では、これまでバラバラに考えられていた育児と介護を一緒に請け負う組織が登場しました。岡山県の「NPO法人子ども劇場笠岡センター」は、有償ボランティアで未就学児童を預かり、送迎を手伝います。それと同時に、高齢者の外出、家事代行などの支援も実施。ダブルケアで手いっぱいになっている人の助けとなっています。育児と介護を連携させサポートすることで、人員配置も効率的になり、網羅的なケアができると注目が集まっています。
今後、ダブルケアを負担する人はますます増えていくことが懸念されます。そのためにも、行政・民間組織を問わず、支援の輪をより一層広め、育児と介護への理解を深めていく必要性があるでしょう。(ライター:香山とも)