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    「ダブルケア」問題の深刻さ増す 育児と介護の挟み撃ちをどう解消するか

    2025年1月17日 転職の基本  -  転職ニュース

    ダブルケア少子高齢化が進む日本社会で、よりいっそう深刻な問題として浮上しているのが「ダブルケア」問題です。子育てと親の介護を同時に担う状況は、かつては珍しいケースでした。

    しかし、晩婚化・晩産化の進行と高齢化社会の深刻化により、今や多くの家庭が直面する可能性のある課題となっています。今回は、ダブルケアの実態と問題点、そして社会全体でこの課題にどう向き合っていくべきかを考察します。

    「ダブルケア」とは?

    ダブルケアとは、「子育て」と、親や親族の「介護」を同時に行う状態を指します。

    2024年1月発表の毎日新聞の独自調査によると、ダブルケアに直面している人は全国で少なくとも29万3700人に上ることが判明しました。このうち、女性が約17万人、男性が約8万人と、女性が男性の2倍以上となっています。この数字は、2016年の内閣府の調査で示された約25万人から増加しています。

    また、2024年に実施されたソニー生命の調査によると、大学生以下の子どもを持つ30歳〜59歳の男女のうち、22.5%が「数年先にダブルケアに直面する見込みがある」と回答しています。

    「ダブルケア」増加の背景

    「ダブルケア」増加の背景には、社会構造の変化と制度的要因があります。

    少子高齢化の進行

    日本社会は急速な少子高齢化に直面しています。高齢者人口の増加により、介護を必要とする親が増加しています。同時に、少子化により、介護を担う世代の兄弟姉妹が減少しています。これにより、一人あたりの介護負担が増大しています。

    晩婚化・晩産化の進行

    晩婚化・晩産化の傾向が顕著になっています。厚生労働省の「人口動態統計月報年計」(2023年)によると、女性の平均初婚年齢は1975年の24.7歳から2019年には29.6歳に上昇しました。また、第一子出産時の母親の平均年齢も1975年の25.7歳から2019年には30.7歳に上昇しています。この結果、子育て期と親の介護が必要な時期が重なりやすくなっています。

    核家族化と地域関係の希薄化

    三世代同居の減少と核家族の増加が進んでいます。また、都市化や個人主義の浸透により、親戚関係や地域との関わりが希薄化しています。これにより、家族内や地域内での相互扶助機能が弱まり、ダブルケアの負担が個人や核家族に集中しやすくなっています。

    女性の社会進出

    女性の社会進出が進み、仕事を持つ女性が増加しています。これにより、育児・介護・仕事の三重負担の可能性が増加しています。特に、管理職など責任ある立場に就く女性が増えることで、仕事と家庭の両立がより困難になるケースも見られます。旧来型のジェンダーロール(性役割)を残したままでよいか、という問題もあります。

    制度的要因

    子育て支援策と高齢者介護政策が別々に構築され、連携が不足しています。これにより、ダブルケアを行う人々が複数の窓口を訪れる必要があり、効率的な支援を受けにくい状況が生まれています。また、現行の年金制度や介護保険制度では、ダブルケアの実態に十分に対応できていません。特に、介護保険制度は高齢者のケアを主に想定しており、育児との両立を前提とした制度設計になっていません。

    「ダブルケア」の問題事象

    「ダブルケア」の状態は以下のような問題を引き起こします。

    心身への負担

    ソニー生命の「ダブルケアに関する調査2024」によると、ダブルケアラーの55.2%が精神的負担を感じています。育児と介護の両方に対する責任感、時間的制約、将来への不安などが重なり、強い精神的ストレスを引き起こしています。また、慢性的な睡眠不足により、うつ病などの精神疾患リスクが増加しています。

    また、同調査によれば、ダブルケアラーの30.7%が体力的負担を感じています。育児と介護の両方に携わることで、休息時間が十分に取れず、慢性的な疲労状態に陥りやすくなっています。特に、夜間の授乳や介護が必要な場合、十分な睡眠が取れないことで身体的負担がさらに増大します。

    経済的負担

    2017年の調査によると、ダブルケアの1カ月当たりの平均負担額は81,848円にも上ります。これには、子どもの教育費、介護用品の購入費、医療費などが含まれます。ダブルケア経験者の約80%が親の医療費と介護費用の一部を負担しており、家計を圧迫しています。

    就労面では、内閣府の調査によれば、ダブルケアの状況下で業務量や労働時間を減らした人は、男性が約2割、女性が約4割に上ります。さらに深刻なのは、仕事を辞めて無職になった人が男性で2.6%、女性で17.5%いることです。これにより、収入が減少し、経済的負担がさらに増大するという悪循環に陥りやすくなっています。

    支援不足と孤立

    ダブルケア経験者の約3割が「家族の支援を受けられなかった」と回答しています。核家族化や家族間の関係性の変化により、家族内でのサポート体制が弱くなっています。これにより、ダブルケアラーが孤立感を感じやすくなっています。

    ダブルケア専門の窓口が設置されている自治体はほとんどありません。育児支援と介護支援が別々の窓口で行われることが多く、ダブルケアラーにとっては利用しにくい状況があります。また、ダブルケアに特化したサービスや支援制度も不足しており、適切な支援を受けられないケースが多く見られます。

    子どもへの影響

    親がダブルケアに追われることで、子どもに注ぐべき愛情や時間が十分に確保できない可能性があります。これにより、子どもの心身の発達に悪影響を及ぼす恐れがあります。また、親のストレスや疲労が子どもに伝わり、子どもも精神的なストレスを感じる可能性があります。さらに、子どもが親の介護を手伝うことで、自身の学業や社会生活に支障が出るケースも報告されています。

    「ダブルケア」問題の対策

    ダブルケア問題に対し、国や地方自治体、企業などでは以下のような取り組みを行っています。

    法整備の動き

    2024年4月、国民民主党が「ダブルケアラー支援法案」(育児・介護二重負担者の支援に関する施策の推進に関する法律案)を参議院に提出しました。この法案は、政府にダブルケアの実態把握のための調査を義務付け、支援に向けた施策を求めるものとして注目されます。

    厚生労働省の「重層的支援体制整備事業」

    2021年4月から始まったこの事業は、ダブルケア支援の中核と位置付けられています。「行政の縦割り」を見直し、ダブルケアラーが抱える複合的な悩みをまとめて対応できる枠組みの創設や地域ぐるみの支援強化に取り組む自治体に交付金を出しています。ただし、2024年度時点で参加しているのは全国1741の自治体のうち346市区町村(20%)にとどまっています。

    地方自治体の取り組み

    大阪府堺市では、2016年10月に全国初のダブルケア専用相談窓口を設置しました。各区役所の包括支援センターに「ダブルケア相談窓口」を設け、ケアマネジャーや看護師、子育て支援に精通する保健師などの専門職員が連携してダブルケアラーの悩みに対応しています。2023年度には136件の相談が寄せられ、多くのケースで公的支援につながっています。

    このほか、横浜市では「ダブルケアサポーター」の養成講座を開き、ダブルケアの認知度向上や理解を深める取り組みを実施しています。京都府では介護と育児問題を相談できる適切なサービス紹介を行える態勢を構築しています。

    民間企業による支援

    企業において「両立支援制度」の整備が進んでいます。ソニー生命の調査によると、例えば、多くの企業が育児休業制度(87.0%)や介護休業制度(78.6%)を導入しており、柔軟な働き方の推進(64.1%)も進んでいます。

    また、同調査では、育児に関する相談窓口を設置している企業が40.5%あります。ただし、介護に関する相談窓口の設置はまだ少ない状況です。

    加えて、2025年4月から施行される改正育児・介護休業法により、介護に直面する前の従業員に対する情報提供が義務付けられます。これにより、企業による情報提供が強化されると期待されています。

    NPO等の取り組み

    ダブルケア当事者が育児や介護の体験談や悩みを共有できる「ダブルケアカフェ」を開催する地域が増えています。例えば、名古屋市では2ヶ月に一度の頻度で開催され、平均10名前後が参加しています。

    また、名古屋学院大学と共同で、毎年4月から12月まで個別相談事業を実施している団体もあります。ダブルケアカフェが苦手な方や、じっくりと話を聞いてほしい方のニーズに応えています。

    「ダブルケア」の残された課題

    さまざまな取り組みが行われる一方、残された課題も存在します。

    2040年問題への対応

    高齢者人口がピークに達する2040年に向けて、特に40〜50代を迎える団塊ジュニア世代に、ダブルケアを担う人が一気に増加すると予測されています。この将来的な課題に対する準備や対策の必要性が指摘されていますが、具体的な長期的戦略はまだ十分に整備されていません。

    経済的支援の拡充

    ダブルケアによる経済的負担の軽減策が求められています。ソニー生命の調査によると、ダブルケアで不安に思っていることの1位は「家計・経済状況」(49.0%)となっています。育児費用と介護費用の二重負担に加え、就労時間の減少による収入減少も大きな問題となっています。

    柔軟な働き方の推進

    企業においてはテレワークの導入など、ダブルケアと仕事の両立を可能にする環境整備が課題です。ソニー生命の調査では、「子育て+親のケア+仕事をバランスよくしたい」という理想(42%)と、実際に「バランスよくしている」現実(28%)との間にギャップが存在します。

    包括的な相談窓口の拡充

    育児と介護の両方に対応できる総合的な相談体制の整備が求められています。ソニー生命の調査によると、ダブルケアラーの31%が「ダブルケアへの備えを行っていない・行っていなかった」と回答しています。これは、適切な情報や支援を得る機会が不足していることを示唆しています。

    支援の地域格差

    前述の重層的支援体制整備事業に参加する自治体は限られており、多くの地域でダブルケアに特化した支援体制が整っていません。堺市のような先進的な取り組みを行っている自治体はまだ少数派であり、多くの地域では包括的な支援を受けることが困難な状況が続いています。

    社会的認知度の向上

    ソニー生命の調査によると、ダブルケアという言葉の認知度は約2割にとどまっており、さらなる啓発が必要です。社会全体でダブルケアの問題を理解し、支援する体制を構築するためには、まず認知度を高めることが不可欠です。特に、企業や職場における理解促進が重要です。

    「支え合う社会」に向けて

    ダブルケア問題は、個人や家族の努力だけでは解決が難しい社会的課題です。行政、企業、地域社会が一体となって、多様なケア責任を抱える人々を支える体制を構築していく必要があります。同時に、ケアの担い手の偏りを解消し、性別や年齢を問わず、誰もが自分らしく生きられる社会を目指すことが重要です。

    ダブルケアという課題を通じて、私たちは改めて「支え合う社会」の在り方を問われているのです。今後、高齢化がさらに進む日本社会において、ダブルケアの問題は避けて通れない課題となるでしょう。一人ひとりがこの問題に関心を持ち、社会全体で解決に向けて取り組んでいくことが求められています。

     

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