進む大手企業の「副業解禁」、その背景にあるものは?
近年、社員の副業を解禁する企業が増えています。これまでは、「本業に集中してほしい」「新たな仕事をすると、これまでの業務がおろそかになるのでは」などの理由から副業を禁止する企業が少なくありませんでした。なぜ今、副業OKの企業が増加しているのでしょうか? その背景とメリットを紹介します。
副業解禁の背景とは
これまで多くの企業が副業を禁止してきましたが、現在その方針を転換し、副業OKとする大手企業が増えつつあります。近年だとロート製薬、日産自動車、富士通などが社員の副業を認めています。
この背景には、大手企業への就職が生涯安泰を約束しなくなったことと、それにともな副業への意欲向上が挙げられるでしょう。大企業であっても、大幅な赤字や大規模リストラが珍しくない時代です。退職金への不安や、将来きちんと年金が支払われるのかといった懸念など、社会人にとって将来的な心配が大きくもなっています。
こうした社会情勢から、副業を考える人が増加しています。2015年にシンクタンクのMDD研究所がビジネスパーソン7724人に調査をしたところ、14%が「副業をしている」と回答しました。また、「副業をしたい」と思っている人も約25%回答しました。ビジネスパーソンの多くが副業に注目をしているのです。
企業にとっての副業解禁の狙い
では、企業側はなぜ副業希望を受け入れる方向に転換していったのでしょうか。
(1) 自社に新な知見を入れたい
新入社員時代から同じ企業で勤め続けていると、思考や発想が一元化される傾向にあります。現在大企業であっても、大きく事業を転換する時代。たとえば、富士フイルムがカメラ事業から化粧品事業に大きく舵を切ったことはその代表例です。もちろん、これまでにあった自社のソリューションを活用して新な事業に乗り出すことがほとんどです。しかし、それには、これまでの価値観にしばられないような発想ができる社員が不可欠です。また、新規事業を軌道に乗せるのも、多様な知見を有する人が必要でしょう。
こうした人材を、外部から招くのではなく、社内で自主的に育てることができれば大変効果的です。副業を解禁すれば、自社の文化や考え方にこだわらず、自ら積極的にビジネスに取り組む人材を育てることもにつながります。
(2) ダイバーシティを促進したい
現在、多くの企業でダイバーシティ(多様性)が促されています。女性、外国国籍の方、障がいを持った方、高齢者など多様な社員を雇用することで、企業と社会全体を活性化していくことができます。こうしたダイバーシティ確保の観点から、副業を解禁する企業も少なくありません。一社の文化に染まらない、多様なバックグラウンドを持つ社員を増やすことは、企業にとってもプラスだと考えているわけです。
(3) 人脈を増やしたい
副業をすれば、仕事上の人脈が急増します。ひょんな出会いをした人が仕事のアドバイスをくれたり、ピンチを切り抜けさせてくれたりするもの。そのため、企業としても一人ひとりが持つ多様な人脈に期待しているのです。本業、プライベート以外に大きく人脈を構築できる副業は企業にとってもメリットがあるものとなっているのです。
(4) 企業に依存しない人材がほしい
前述した通り、大手企業であってもいつ業績が悪化するかわからない時代です。自らビジネスを開拓できる社員は、そうした意味で企業にとってとてもたのもしい存在です。逆に、組織に依存する社員が多いと、企業としても大きなチャレンジをしにくくなります。会社に依存しない、自立した働き方ができる社員を企業側も求めているのです。
(5) 優秀な人材の流出を防ぎたい
仕事が多様化している現在、優秀な社員は引く手数多の状態です。より条件がよい企業に転職していくというビジネスパーソンは少なくないでしょう。社員としては、そんな優秀な社員を逃したくないもの。副業を解禁することで、個人の力を生かす場を設け、人材の流出を防ごうと考えているのです。
このように、副業解禁には企業にもメリットがあると言えます。今後、多様な働き方が許容されるにしたがって、多くの企業で副業を認める動きが進んでいくでしょう。(ライター:香山とも)