動き出す政府の「働き方改革」、そのポイントと課題とは
2016年8月、安倍内閣は「働き方改革」を最大のチャレンジと掲げ、「働き方改革担当相」を設けることや、「同一労働同一賃金」の実現、非正規雇用者の格差是正、過剰な時間外労働の規制などに取り組むことを発表しました。本格的に動き始めた政府主導による「働き方改革」。そのポイントと課題をご紹介します。
政府主導の「働き方改革」導入の背景
政府は、閣議決定した事業規模約28兆1000億円の「未来への投資を実現する経済対策」に、経済界から特に要望の強い「働き方改革」を盛り込みました。安倍首相は、この事業について「最大のチャレンジ」と言い、改革に対して強い意欲をうかがわせています。また、これを受けて、「働き方改革担当相」を新設することが発表されました。
働き方改革担当相は、問題が多い日本の雇用についてメスを入れることを目的としています。これにより、労働力の確保・向上や経済活動をさらに高めていくことをねらっています。働き方を見直していくことで、1億総活躍社会、つまりダイバーシティを実現させる社会にする方針です。具体的には、正規・非正規雇用の賃金格差の解消や、時間外労働規制の見直しなどに着手するとされています。一方で、同一労働同一賃金は、「人件費の上昇につながる可能性がある」などと、経済界を中心に反対の声もあがっています。
「働き方改革」のポイント
政府が進めようとしている「働き方改革」のポイントは大きく6つです。
1. 非正規社員雇用の見直し
非正規雇用社員の見直しのために、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法などの運用を見直すこととしています。正社員と非正規社員で、どのような待遇差が合理的であるか、逆に不合理であるかの事例をガイドライン化するとしています。
2. 同一労働同一賃金の実現へ
同一の仕事に従事するのであれば同じ水準の賃金を支払うべきだとする、同一労働同一賃金の実現に向けた多様な法改正を検討するとしています。
3. 長時間労働の是正
長時間労働は、日本において長きに渡って問題になっています。現在は労使で合意すれば、上限なく時間外労働が認められるということになっています。これは、「サブロク協定」で定められていますが、この制度の見直しにより時間外労働規制につなげていきたいと考えています。
4. 技術力を駆使して長時間労働の是正を図る
IT技術の進歩などにより、オフィスでなくとも働けるようになりました。テレワークを推進することで、長時間労働の是正を目指すものとしています。また、女性活躍推進法、次世代育成支援対策推進法などの見直しを進めていくことを掲げています。
5. 高齢者活用
超高齢化社会の本格化を見据えて、高齢者の就労を促進するための制度設計が必要となります。政府が再就職支援を進めるだけでなく、企業が自主的に高齢者雇用を広げられるよう促す考えです。具体的には、65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年延長を行う企業への支援を実施していくこととしています。
6. 外国人の活用を促進し、ダイバーシティを実現する
日本における労働人口の減少により、外国人人材の活用が注目されています。外国人人材が本当に必要な分野とはどこかを吟味して、受入れのあり方を慎重かつ具体的に検討することとしています。
「働き方改革」の今後の課題
動き出した「働き方改革」を歓迎する声もある一方、不安や課題も投げかけられています。以下におもな指摘をご紹介しましょう。
・同一労働同一賃金を行えば、企業の負担が大きくなる。それに対する行政からの支援はあるのか
・同一労働同一賃金により、正社員と非正規雇用との差をなくすというが、正社員の間にも格差が生じている。このことについて、対策はなされないのか
・個人の能力によって賃金を定まるとされているが、欧米並みの評価制度が必要となる。果たして各企業で整備できるか
・新たに雇用された高齢者が、企業内でその職能をきちんと生かせるか
・長時間労働の是正が強まった結果、サービス残業や持ち帰り残業など“見えない残業”が増えるのではないか。
・長時間働くことで稼ぎ、生活を維持している人もいるのではないか
投げかけられた疑問をどのようにクリアし、どのように「働き方改革」が実現していくのか。働く人それぞれが自己の問題だととらえつつ、その行く末をしっかりチェックしていくことが求められそうです。(ライター:香山とも)