政府主導の「残業規制」は実現するのか?
日本の企業の長時間労働の悪習は、大手企業にもはびこっています。昨年の12月、大手広告代理店の新入社員が自殺をした事件についてお、長時間労働の過重労働が原因だったと労災が認められました。
加藤勝信働き方改革担当相は、8月28日、政府主導の「働き方改革実現会議」で残業時間の上限規制の導入を検討する考えを示したことが報じられました。そもそも残業自体が労働基準法で禁止されていますが、「36協定」や特別の例外事項などがあるのが現状です。政府主導による残業規制の内容とは? その課題と併せて考えてみましょう。
政府が主導する「残業規制」
そもそも残業は、労働基準法で原則禁止されています。労働基準法32条2項では「一日について八時間を超えて、労働させてはならない」と定められているのです。しかし、例外として「1か月45時間」という上限のもと、労働者側と「36協定(さぶろくきょうてい)」を締結すれば残業させることができるのです。
ただし、この上限も納期の締め切りや機械トラブルといった「特別の事情」があれば、それを超えて働かせることができます。そのため、過労死ラインとされる月80時間以上の残業を行わせる会社が後を絶たないのです。そんな中、今回の政府の見直しは、その「特別の事情」を厳格化しようとするものです。新たな労働時間の上限を設けた上で、罰則規制も新設されると見られています。つまり、新しく強制的に残業時間の規制を設けてしまおうという議論が持ち上がっているのです。
政府の検討会では、年内にも残業の実情を踏まえて論点を整理する見込みです。これを受け、今年度中にも具体策を打ち出す見通しとのことです。政府は、秋の臨時国会へ労働基準法改正案提出を目指していると見られます。ただし、前回の労基法改正に向けた議論においても、上限規制が議題となりましたが、合意に至らなかった経緯があり、実現には様々なハードルがあると言えそうです。
今回の見直しの課題とは
この改革を賞賛する声も聞かれる一方で、課題も指摘されています。どんなネガティブな意見が出されているのか、ご紹介しましょう。
・サービス残業を助長するのではないか
残業是正を訴えたところで、実際に仕事量が減るわけではないため、残業時間を申告しないなどでサービス残業が増えるだけではないかと指摘されています。サービス残業では、企業側も労働基準監督署も実際に労働者がどれだけ残業をしているかを把握できなくなります。実際の労働時間が見えなくなることで、過重労働化がむしろ加速するのではないかと懸念されています。
・持ち帰り仕事などが増えるのではないか
「オフィスで仕事ができないとなると、持ち帰るしかない」という発想から、仕事を家に持ち帰る人が増えることが不安視されています。会社側が社員どれだけの仕事量をこなしているのかを把握できなくなるという課題があるでしょう。また、こっそり仕事を持ち帰ることで、企業内の情報が漏洩するなどの副次的な問題もあります。
・残業代がなくなることで、生活が厳しくなる
会社員の中には、残業代込みで生活設計を立てている人もいます。そんな人たちにとっては、残業時間是正化の流れは歓迎されていません。「生活はどうなるのか」「残業代を見越して、この業界で働いているのに」など、インターネットでもマイナスの意見が出されています。
・企業風土、早く帰ることを許さない雰囲気
「残業時間を減らす」という方針を立てても、社員の意識が変わらなければその実現は難しいです。「上司が残っていたら先に帰るわけにはいかない」という企業風土も、まだまだ根強くあります。さらに、「俺が若い頃は毎日終電だったから、お前らもまだまだ大丈夫だ」という年配者がいる場合もあるでしょう。規定を設けるだけでなく、働く人々の意識を変えていくことも重要だといえるでしょう。
残業規制の社会的必要性は認めつつも、クリアしなければいけない問題、変えていかなければいけない風土もあります。多様な業種、働き方、企業の特徴があるということを意識して、残業時間是正の規定を整備していくことが必要といえるでしょう。(ライター:香山とも)