何が変わる? 2017年からの「介護休業制度改正」
親族や配偶者の介護のために、労働者が休みを取得することができる介護休業制度。2017年1月から、この介護休業制度が変わります。例えば、まとめて93日間取得せざるを得なかった介護に関する休暇を、改正後は3分割して取得できるようになります。また、介護休業制度の対象となる介護サービスの必要度も、緩和されることとなりました。
介護休業制度を改正し、仕事と介護を両立する人にとって、どのような影響があるのでしょうか。また、積み残されている課題とはどんなことでしょうか。解説します。
現在の介護休業制度
現行の介護休業制度では、介護を必要とする家族1人につき最大で93日連続して休みを取ることができます。例えば父親の介護で93日休み、さらに母親の介護が必要になれば、また93日休むことができるのです。従業員から介護休業の申請があった場合には、事業主は原則として拒むことはできません。休み始める2週間前までに事業主に申し出ることとされています。この休みは“連続して”取らなければいけません。
また、この最大93日間の休日とは別に、1日単位で取れる休みも設けられています。これは、介護者1人当たり年に5日取得できることとされています。つまり、2人以上の介護者が家族にいた場合には、年に最大10日間取ることができます。原則として、介護休業は雇用期間が1年以上で、介護休暇は雇用期間が6か月以上の者と定められています。なお、正社員だけでなくパートやアルバイト、派遣労働などの非正規雇用で働いている人も対象となります。
現在の介護休業制度課題
これまでの介護休業制度を解説すると、十分な制度が存在すると感じる方もいるかもしれませんが、実のところ現在の介護休業制度は3.2%しか利用されていません。理由は、介護休業が介護者1人に対して1回しか取れないためです。終わりが見えない介護の現場では、1度仕事を休めば解決するというものではありません。
さらに、初めて介護する人には介護にどれだけの労力を費やすものかもわかりません。「いきなり93日間の長期休暇を取得していいのだろうか?」と不安にもなるでしょう。そのため、制度が実態に合っていないという課題が指摘されていたのです。
2017年1月施行の介護休業制度のポイント
上述したような課題等を受け、今年、介護休業制度の改正が行われました。2017年1月より施行されます。最大の変更ポイントは、介護休業の期間を最高3回まで分割取得できるようになったことです。
例えば最初に31日間の休みを取得して、介護にどれくらい時間・費用がかかるかを調べる。その後、31日間で入所できる施設を探し、残りの31日間は予備としてとっておく、といったこともできます。取得限度は、これまでと同様93日間と定められていますが、これまでの一括取得と比較して、格段に活用しやすくなったといえるでしょう。
この制度改正の背景は、介護によって仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれる介護離職を防ぐという狙いがあります。家族の介護の必要度が上がった時点で会社を休むことができるようにし、それ以外の時には勤務する。この柔軟な働き方を可能にすることで、仕事と介護を両立できるようにしようと考えています。
さらに、これまでは要介護2から3程度にならなければ、介護休業の対象にはなりませんでした。改正後は、要介護1以下でも一定の介助が必要であれば、取得できるようになっています。
加えて、以下の変更もおこなわれています。
・時短勤務、フレックスタイム、時差出勤なども取得できる
・年5回取得できる介護休暇を、半日単位でも取得できることとする
なお、家族の介護に従事している従業員への深夜労働や時間外労働の制限などは、改正前に引き続き盛り込まれています。
介護休業制度に残された課題
2017年から新たに施行される介護制度ですが、現段階で課題も指摘されています。
・介護制度を活用できるようにするための周知徹底
運用を企業任せにしておけば、利用率は上がらず、介護離職者減少にはつながりません。そこで、国や自治体からの事業主への周知徹底が欠かせません。制度利用を促進する働きかけ施策を講じていくことが重要でしょう。
・相談窓口の設置
企業や自治体に、仕事と介護が両立できるようにするためにはどうしたらよいかを相談するための窓口を設ける必要があります。介護に当たっている人の中には、一人で追い詰められて、悩みを抱え込んでしまう方も少なくありません。そんな方を、精神的、制度的に支援できる窓口を設置し、その存在をきちんと告知していくことが欠かせないでしょう。
2017年1月からの介護休業制度で、実際に仕事と介護を両立する人たちの生活はどう変わるのでしょうか。注目していく必要がありそうです。(ライター:香山とも)