「プレミアムフライデー」を超えて 現代の新しい「早帰り」とは?
「プレミアムフライデー」は2017年に政府と経済界が推進した、働き方改革の象徴的な取り組みでした。月末の金曜日の早帰りを推奨し、ワークライフバランスの向上と経済活性化を目指しましたが、コロナ禍を経て、2023年8月に公式サイトが閉鎖されました。
働き方改革の進展やテレワークの普及といった社会背景が大きく変化した今、「早帰り」の精神を再解釈し、現代の働き方に適応させることは重要といえるでしょう。今回は、プレミアムフライデーの狙い、課題、そして新しい「早帰り」の形を提案し、より良い働き方の実現に向けた可能性を探ります。
「プレミアムフライデー」とは?
プレミアムフライデーは、月末金曜日の午後3時に退社することを奨励し、経済活性化と働き方改革の一環として実施されました。
当時、長時間労働が常態化していた日本では、労働時間の削減とワークライフバランスの向上が重要課題でした。同時に、内需を刺激するため、旅行や外食、ショッピングといった消費拡大を狙ったのが導入の背景です。
プレミアムフライデーを実現するために、経済界では飲食店の割引やイベント開催など、消費促進のための施策が展開され、特に観光地や百貨店などでのキャンペーンが目立ちました。
この取り組みは「働き方改革」の象徴として位置づけられ、単なる「早帰り」だけでなく、余暇の充実や家庭との時間確保といった広範な影響を期待されました。また、消費活動の促進によってGDP向上への寄与も期待されていました。
当時の課題と失敗要因
しかし導入後、期待に反してプレミアムフライデーは十分に浸透せず、様々な課題が浮き彫りとなりました。
1.対応できる企業が限られた
1つ目は「一部の企業や職種」しか対応できなかったこと。サービス業や医療現場など、顧客対応が必要な業種では早帰りの実現が難しく、結果的に対応できる企業が限られました。中小企業では人員不足の問題もあり、現実的な運用が困難でした。
2.タイミングが悪かった
2つ目は「月末の金曜日」というタイミングの問題。欧米では金曜日の午後は仕事を早めに切り上げる習慣がある人たちがいたようですが、多くの日本企業では月末は締め作業や請求処理が集中する繁忙期です。そのため、経理部門や営業部門などでは、早帰りを実施する余裕がなかったという声が多く聞かれました。
3.認知度・浸透度が低かった
3つ目は「認知度」や「浸透度」の低さ。導入企業の割合は低く、実際に早帰りを経験できた従業員は一部に限られていました。企業側にとってのメリットが感じられなかったために取り組みが不十分であったことや、従業員自身がこの制度を有効に活用する意識を持てなかった点も課題でした。
4.経済効果が限られた
4つ目は「経済効果」への疑問。期待された消費拡大はデータとして顕著に表れず、外食や観光需要の増加も一時的なものに留まりました。導入企業が少ないことで、全体の経済効果にはつながりませんでした。
変化した働き方
しかし、プレミアムフライデー導入から現在に至るまで、働き方を取り巻く環境は大きく変化しました。
1.「働き方改革」の進展
2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」により、残業時間の上限規制や有給休暇取得の義務化が進みました。企業側も生産性を重視する方向にシフトし、効率化への意識が高まっています。
2.柔軟な時間活用
コロナ禍の影響も大きいです。感染拡大を防止するための「テレワーク」が普及し、通勤時間削減やリモートワークの柔軟性により、従来のような物理的な早帰りにこだわらない働き方が一般化しました。
また、「フレックスタイム制」や「裁量労働制」など、労働時間を個人で調整できる仕組みが広がり、働き方の選択肢が多様化しています。
新しい「早帰り」の形
このような社会背景を踏まえると、現在ではプレミアムフライデーを超えた柔軟な「早帰り」の形が十分に考えられます。
1.個人の予定に合わせた柔軟性
月末や特定の曜日に限定せず、業務の状況や個人の予定に合わせて早帰りや休暇を自由に調整できる制度を導入します。たとえば、閑散期にチーム単位で早帰りを実施したり、プロジェクト完了後に休暇を取得したりと、状況に応じた対応が可能です。
2.テレワークのさらなる推進
テレワークを活用して仕事の効率を高めた上で、空いた時間を自己啓発や副業に使うことで、時間の有効活用を促進します。また、消費活動を促す仕組みとして、地元商店街との連携や地域イベントを支援する取り組みも効果的かもしれません。
3.個人の充実と生産性向上の両立
効率化された業務プロセスによって生まれた時間を、趣味や家族との時間に充てることで、ワークライフバランスを向上させます。このような取り組みは、従業員のモチベーションや生産性の向上にもつながるでしょう。
「時間の使い方改革」に向けて
新しい「早上がり」を成功させるためには、中小企業やサービス業などの導入が難しい業界でも活用できる仕組み作りが欠かせません。
そのためには、業務効率化ツールの導入支援や、管理職向けの研修、時間管理のノウハウ共有など、現場で実践しやすい取り組みが求められるでしょう。
経営層が率先して柔軟な働き方を実践し、管理職が現場のサポート役を担うことで、制度の浸透を図ることが重要です。
「早上がり」の導入は、従業員の生活の質を向上させるだけでなく、企業全体の生産性向上にもつながる可能性があります。働き方改革の次のステップとして、新たな「時間の使い方改革」を進めていくことが求められています。