「パタハラ」とは何か?男性社員の育児参加を阻む壁
男性の育児参加は近年、社会的にも重要視されていますが、職場では依然として「パタハラ」(パタニティ・ハラスメント)が発生しています。
パタハラとは「パタニティー・ハラスメント」の略で、パタニティー(Paternity)の意味は父であること。男性労働者が育児休業などを利用しようとする際に、嫌がらせや不利益な扱いを受けることを指します。この問題は、育児をする権利だけでなく、男女平等の実現にも影響を及ぼすため、早急な対応が求められています。
パタハラの特徴
パタハラとは、男性が育児関連の制度を利用する際に、職場で嫌がらせや不利益な扱いを受ける現象です。具体例としては「育休申請の拒否」「降格」「減給」のほか、「男性が育休を取るなんてあり得ない」といった発言や、仕事を意図的に減らされることなどが挙げられます。
パタハラの違法性
パタハラの法的側面と罰則の詳細について解説します。
1.育児・介護休業法
育児・介護休業法は、労働者が育児休業を取得する権利を保障しています。企業が労働者の育休取得を不当な理由で拒否した場合、法律違反とされ、罰金が科される可能性があります。
具体的な違反行為として、業務に支障が出るという理由で育休申請を拒否することや、育休取得を理由に降格、減給、解雇などの不利益な扱いをすることが挙げられます。最大30万円の罰金が科されることもあり、これは行政の是正指導を無視した場合に適用されます。
2.男女雇用機会均等法
育児休業を取ろうとする男性労働者への差別や嫌がらせは、男女雇用機会均等法にも違反する可能性があります。特に、不利益取扱いが明確な場合、企業は厳しい是正指導を受けることになります。
労働局による是正勧告に従わなかった場合、企業名が公表されるなど、社会的制裁が加えられるリスクもあります。
3.損害賠償請求の訴訟リスク
パタハラを受けた労働者が損害賠償請求を起こす可能性もあります。企業は、労働者個人からの訴訟に直面するリスクを抱えています。さらに、企業イメージの低下や採用力の低下など、社会的評価にも悪影響を及ぼします。
パタハラの背景・原因
パタハラが発生する背景には、複数の要因が複雑に絡んでいます。以下、それぞれの要因を詳しく解説します。
1.性別役割意識
日本社会では「男性は仕事、女性は家庭を支える」という性別役割分担の考え方が根強く残っています。このような固定観念が、特に中高年層の男性に強く見られ、若い男性が育児参加を希望することに対して批判的な態度が取られることがあります。こうした意識が、結果的に育児を担う男性へのハラスメント行為を助長しています。
2.育休取得と復帰の支援不足
企業が育休取得の支援体制を整備していない場合、育休を取る労働者が他の同僚の負担になるという懸念が生じやすくなります。特に、中小企業では、育休取得者がいなくても業務が回るような余裕がない場合が多く、制度利用を妨げる雰囲気が生まれがちです。これにより、育休を希望する男性が職場で孤立することや、同僚からの不満の矛先が彼に向かうことがあります。
3.上司や同僚の理解不足
育児休業制度が法的権利であることを認識していない上司や同僚が多い場合、パタハラが発生しやすくなります。具体的には「男性が育休を取るのは甘えだ」という誤解や、「育休を取るなら仕事ができなくなる」といった偏見が生まれ、男性が制度を利用することが難しくなります。
4.男女間の育休取得率と収入差
男性の育休取得率が低い背景には、収入の差が影響しています。男性の方が女性よりも平均年収が高い場合、育休取得による収入減少を懸念して育休を取らない選択をするケースが多いです。このため、男性が育休を取ることに対して社会的な理解が不足し、パタハラの温床となる可能性があります。
パタハラを放置する影響
パタハラは、個人だけでなく職場全体にも多大な影響を及ぼします。以下にその具体的な影響を詳しく解説します。
1.従業員のストレス
パタハラを受けた男性労働者は、自分の育児参加が認められないことや職場での不公平感を感じ、強い心理的ストレスを抱えます。これにより、職場に対する不満が募り、仕事への意欲や集中力が低下する可能性が高くなります。
2.離職率の上昇
パタハラが原因で、男性労働者が育児とキャリアを両立できないと感じ、退職を選ぶケースが増加しています。特に、家庭での育児参加を優先せざるを得ない状況にある労働者にとって、育児休業制度の利用が事実上困難な場合、転職やフリーランスとしての働き方を選ぶことが多くなります。
3.生産性の低下
パタハラの存在が職場に知れ渡ると、他の労働者にも「育休を取ることはリスクがある」というメッセージが伝わり、育休を申請する意欲が低下します。この結果、育児休業を利用したい労働者が減り、職場全体のモチベーションや生産性が下がる可能性があります。
4.企業イメージの悪化
パタハラが明るみに出た場合、企業の評判は急速に悪化し、社会的信用を失うことになります。特に、パタハラ事例が公に報じられた場合、採用力や取引先との関係に影響を及ぼし、長期的な経営リスクにつながります。
パタハラの防止策
パタハラを防ぐためには、企業側が積極的に取り組むべき具体的な対策があります。
1.育休制度の整備と周知
育児休業の制度を就業規則に明記し、全従業員に周知徹底することが重要です。企業は、従業員に対して育休取得の権利を明確に説明し、育休取得者への不利益取扱いを厳しく禁止する姿勢を示す必要があります。
2.社内理解の促進
上司や同僚を対象に、育児休業制度の内容やパタハラの具体例を取り上げた研修を定期的に実施することが効果的です。これにより、男性の育児参加の重要性を理解し、パタハラの発生を防ぐ土壌が育まれます。
また、経営者自らが男性社員の育休取得を積極的に奨励し、模範となることで、職場全体の理解が深まりやすくなります。
3.業務内容や分担の見直し
育休を取る男性労働者の負担を軽減するため、業務内容や分担を見直すことが必要です。これにより、育休取得者が職場に復帰した際のスムーズな業務再開を支援できます。
また、管理職が自ら育休を取得し、男性労働者にも取得しやすい環境を示すことで、育児とキャリアの両立が可能であることを職場全体に示すことができます。
4.相談窓口の設置と再発防止策
パタハラに関する相談窓口を設け、従業員が安心して相談できる体制を整えることが重要です。また、プライバシーに配慮した形で相談ができる環境を整えることで、早期対応が可能になります。
また、パタハラが発生した場合、原因分析を行い、再発防止のための具体的な措置を講じる必要があります。例えば、被害者へのサポート体制を強化し、上司や同僚への再教育を行うなどの対応が求められます。
「育休制度の周知」が第一歩に
パタハラは、男性の育児参加を阻むだけでなく、職場全体の健全性を損なう大きな問題です。パタハラへの対応を怠って放置していると、労働者個人からの損害賠償請求を含む法的問題に発展しかねません。
パタハラ問題が大きくなると、会社のイメージが大きくダウンし、それによって社員の定着が低下し、求職者が集まりにくくなります。
企業が育休制度の周知や風土改善に積極的に取り組むことで、男性がより育児に関わりやすい環境が整い、パタハラの減少につながります。男女平等の実現と働きやすい職場づくりに向けた一歩として、社内啓発に努めましょう。