ベーシックインカム導入のメリットと懸念点
2017年1月、フィンランドで国家レベルとしては初めて「ベーシックインカム」という制度の導入実験がスタートしました。ベーシックインカムは、個人が最低限の生活をおくるために必要とされる基本的な所得を、国民誰でも毎月一律の現金給付を受けられるという制度です。同国では、対象となる失業者に対して毎月約6万8000円が支給されるそうです。働き方にも大きく影響するこのベーシックインカムの制度について、その概要とメリット、懸念点についてご紹介します。
ベーシックインカムとは何か
ベーシックインカムとは、個人がその社会で最低限の衣食住の生活を営むために必要とされる基本的な所得です。そして、その所得を現金給付で保障する制度です。年齢やこれまでの所得、勤労意欲などに関係なく、誰にでも毎月一定の現金を給付します。日本において生活保護や失業保険を受給する場合には申請を必要としますが、ベーシックインカムでは、申請をしなくても給付を受け取れます。「自動的にもらえる」ということが特徴です。
また、働いたり収入を得たりすると給付がストップするわけではありません。働けばベーシックインカム分に稼いだ金額の分だけ上乗せされ、収入が増えるという構造です。つまり、制度上は稼ごうと思えば上乗せしていくらでも稼ぐことができるのです。
フィンランドでは、ベーシックインカム導入の実験として、決められた対象者に一律560ユーロ(約6万8000円)を支給する試みが始まりました。対象としたのは、25歳~58歳の失業者2000人です。2018年には、一層の拡大を図っていく考えだといいます。
想定されるベーシックインカムのメリット
日本や諸外国でも、こうしたベーシックインカムを導入すべきだという声が上がりつつあります。もし導入されたら、どのようなメリットがあるでしょうか?
1. 貧困と格差の是正
近年、日本でも貧困層と呼ばれる方々が増えています。貧しさゆえに心身に重大な悪影響が出たり、子どもを養育できなかったりする人々に対して、最低限の生活を保障することができます。また、年齢的に働くことができない、障がいがあって仕事ができないといった人々への救済にもなります。
2. 貧困を原因とした犯罪の減少
貧困が是正されることで、貧困の原因による犯罪が減少することが予測されます。窃盗や恐喝、薬物犯罪など生活の貧しさゆえの犯罪は少なくありません。こうした犯罪が減ることは、社会への大きなインパクトだといえるでしょう。
3. 転職や起業、休暇の促進につながる
キャリア形成に失敗してしまうと、その後なかなか社会復帰ができなくなるということは、日本社会においてもよくあるケースです。しかし、最低限の生活が保障されていれば、自分の本当にしたいことを追求して、転職や起業にチャレンジすることができます。また、ベーシックインカムがあれば休暇も取りやすくなり、ワークライフバランスや育児、介護の現場にプラスの影響があるのではと考えられます。
4. 福祉行政の簡略化
現在、生活保護や失業保険などの申請・受給には多くの手続きが必要です。しかしベーシックインカムはすべての国民に一定額を自動的に給付する制度ですので、申請業務などは不要です。行政側の業務も簡略化され、本当に必要な人に援助が届きやすくなると想定されています。
ベーシックインカム実現への懸念
ベーシックインカムはメリットが大きい一方で、さまざまな懸念点もあります。
1. 財源は確保できるのか
ベーシックインカム制度を導入するにあたり、財源の確保は必要不可欠です。しかし、現在の日本のような低成長社会においては、財政をやりくりするのは至難の技です。一方、上記の「福祉政策の簡略化」と関連しますが、各種の福祉関連財源をベーシックインカムにあたることで解消できるとも言われています。どのように公的資金を分配していくかは、実現に向けた大きな懸念点といえるでしょう。
2. 労働意欲の低下
ベーシックインカムを導入すれば、新たな仕事にチャレンジする意欲が増すと考えられる一方、労働意欲が低下するのではないかと懸念されます。どのように生活保障以外の仕事へのモチベーションを高めていくかがポイントになるでしょう。
3. 企業の解雇が増加するのではないか
最低限の生活が保障されていることで、企業が従業員を解雇することへのハードルが下がるのではないかという懸念があります。企業における、雇用の倫理観をどう担保するかを検討することは欠かせません。
ベーシックインカムに関する議論はまだまだ始まったばかりです。メリットも懸念点も大きな制度であるため、幅広い視点から検討されるべきでしょう。(ライター:香山とも)