日本でも広がる?「つながらない権利」とは
2017年1月、フランスで「労働者が勤務時間外や休日に仕事上のメールなどへの対応を拒否できる権利」、通称「つながらない権利」を認める法律が施行されました。現在、スマートフォンなどの普及により、いつでもどこでも仕事ができる(あるいは“仕事せざるを得ない”)状況になっています。フランスの動きは、こうした流れに一定の歯止めをかけるものだといえます。
日本でもこうした制度の必要性の声が高まっています。しかし、その一方でリモートワークなど時間や場所にとらわれない働き方が進んでおり、「プライベート問わず、ずっと仕事をしている」ような環境もできつつもあります。「つながらない権利」の成立の背景と、その賛否の声についてご紹介します。
「つながらない権利」とは何か
「つながらない権利」は、2016年5月、フランスの労働法改正の一環として盛り込まれたことにより注目されました。日本では耳慣れない権利ですが、これは社員が勤務時間外や休日に仕事上のメールや電話への対応をしなくてもよい権利のことをいいます。
フランスでは、この法律について「私生活を尊重するためにルールを設定し、それに慣れるべきだ」という議論がなされる一方で、「現実的には難しい」という声も挙がっています。海外各国でもこの「つながらない権利」の必要性を認めつつも、賛否の声に分かれています。
日本における勤務外での連絡の応答の現状
日本において労働時間外の連絡にどのように対応しているか、現状を確認してみましょう。2013年の労働政策研究・研修機構の調査では、始業・終業時間が決まっている一般的な雇用者で、勤務時間意外に仕事関係のメールや電話が「よくある」「ときどきある」と回答した人は3割を超えていました。業務時間外に、連絡の応答を余儀なくされている労働者も決して少なくないという現状があります。
さらに、これを後押しするものとして、「連絡にはすぐに返信するのがマナー」という日本の文化があると考えられます。日本ビジネスメール協会の調査では、約86%のビジネスパーソンが「仕事で送ったメールは24時間以内に返信がほしい」と思っているという結果が出ています。つまり、日本の「即レス」文化が、勤務外であろうともメールの返信をせざるをえない雰囲気をつくり上げているのです。
「つながらない」権利への賛否の声
実際に、日本の従業員は「つながらない権利」に対してどのような思いを抱いているのでしょうか。確認していきましょう。
全国の男女200人に読売新聞が発表した調査では、「休日や勤務時間外における仕事上のやり取りについて」について「つながらない」権利を必要だと答えた人は73.0%、必要ではないと回答した人は27.0%という結果になりました。7割以上のビジネスパーソンが、休日など業務時間外には仕事関係の連絡はとりたくないと考えていることがわかりました。理由としては、下記のような声が挙げられるでしょう。
・仕事とプライベートは、きっちり分けたい
・勤務時間外に対応したところで給料には反映されない
・連絡してきた相手に、勤務時間外でも対応してくれると思わせるのは望ましくない
・勤務中と勤務外の境界線がなくなり、仕事中の生産性がむしろ下がってしまう
一方で、3割弱の人が日本においては「つながらない権利」は不要だと考えていることがわかります。その理由としてはどんなことがあげられるのでしょうか。
・業務時間外であっても、トラブルは発生するので対応は必要だと思う
・会社員である以上、対応せざるを得ない
・対顧客の仕事であるため、自分の休みよりもお客様の都合が優先される
・自分にしかわからない対応があるので、応答せざるを得ない
・リモートワークやフルフレックスの導入で、業務時間がどんどん曖昧化している
以上のように、「つながらざるを得ない」というトーンで考えている社員が多いようです。IT化が進み便利になる中で、業務時間外の連絡にどこまで対応し、どこまで対応しないのか。日本の働き方を考えていく中で、「つながらない」権利の議論も深めていく必要があるといえるでしょう。(ライター:香山とも)