“人生100年”時代の働き方はどうなる?
2016年10月に出版された『ライフ・シフト』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳、東洋経済新報社)という書籍で、「人生100年時代」が提唱されました。長寿が進み、退職後の生活がどんどん伸びていく現代では、「20歳までが『教育』、それから『仕事』、60歳で『引退』」という人生設計は時代遅れだといわれます。
そうなってくると当然、働き方も変わってきます。これからの時代を生き抜くビジネスパーソンの踏まえておくべき心構えとはどういったことなのでしょうか。
提唱された「人生100年時代」
日本の平均寿命は1970年には男性69歳、女性74歳でしたが、2015年には男性80歳、女性87歳となりました。また、四分の一を超える人が90歳以上まで生きるようになったとされています。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(2012年)の中位推計によれば、今後も長寿化は進み、日本の平均寿命は2060年には男性84歳、女性90歳になるといわれています。
前述した書籍『ライフ・シフト』では、この超長寿社会では、社会のあり方も個人の生き方も大きく変わっていくだろうと論じています。これまで、一般的な人生モデルは「教育の時代」、「仕事の時代」、「引退後の時代」と3分割された「スリー・ステージ・モデル」だと考えられてきました。しかし、60歳や65歳で仕事を引退するとなると、引退後の人生は20年~30年にもなります。
さらに人生100年と考えると、60歳ではまだ折り返し地点を過ぎたところ。その後の40年をただ引退生活として過ごすのは、やはり現実的ではないでしょう。「人生100年時代」とは、このように人々の生活や働き方、価値観が大きく変わる時代とされているのです。
「人生100年時代」で社会はどう変わるか
現在、政府では働き方改革の検討が進められていますが、高齢者に合った働き方も合わせて考えていく必要があるでしょう。15歳から65歳までの労働人口が減少していく中で、高齢者が労働の担い手になることは社会の要請ともいえます。また、ベテランの知見や経験、人脈を生かし続けられることにメリットを感じる企業も少なくないでしょう。65歳以上が働いていく上で、以下のような点に留意しなければならなくなるでしょう。。
・長期間かつ長時間連続して働き続けることへの対策が必要
・ITスキルの進歩やコミュニケーションについていけなくなる可能性がある
・高齢者が希望する職種や企業が65歳以上の方を雇用するかは不確実
・企業内の世代間ギャップが一層深刻化する
・年を重ねれば重ねるほど、新たな知識や技能が習得しにくくなる
これに対して、どのような企業制度・社会制度の変化が必要でしょうか。
①定年制度の廃止
60歳や65歳などと設けていた定年を撤廃し、個人の状況に合わせて雇用を延長するなどの措置が必要になるでしょう。
②長時間労働の是正
高齢者に限った話ではないですが、心身の健康を保つために、より長時間労働を厳格に管理していく必要があります。
③週休3日制など自由な勤務形態の導入
②と同様、高齢者の健康と業務の両立を図っていくために、個人に合わせた労働形態を整えることが求められます。
④確定拠出年金の年齢延長
第一歩として70歳、続いて75歳まで拠出可能にしていくことが求められるでしょう。
「人生100年時代」に必要な個人の心構えとは
一方、個人が「人生100年時代」に合わせて人生設計を練り直すには、どのようなポイントをおさえたらよいのでしょうか。教育・仕事・引退という「スリー・ステージ・モデル」のままで90歳近くまで生きると、引退後の生活で金銭的余裕がなくなる方が増えると予測されます。厳しい生活に陥らないようにするためには、どういったことが求められるのでしょうか。
・75歳~80歳など、「働けるまで働く」覚悟を決める
お金を稼ぐ意味でも、生きがいを得るためにも、健康な心身が維持できる間は長く働く意思と覚悟を持つ必要があります。
・複数の仕事を掛け持ちし、高齢になってからも働ける道を見極める
同じ会社で同じ仕事をずっと続けていては、高齢になって“つぶし”が利かない可能性があります。そこで、若いうちから多様な仕事を経験し、年をとっても働ける業務を見つけていくことが求められます。
・自分のスキルと健康を維持・増進するために努力と投資を惜しまない
これからの社会は一層、自分の体とスキルが資本になります。若いうちからその意識を持ち、健康増進やスキルアップのために努力と投資をする必要があります。
・将来に備えて貯蓄・投資などを検討する
長く生きるためには、お金が不可欠。「何とかなるさ」ではなく、将来を見据えた計画的な貯金や投資運用をすることが重要でしょう。
これまで以上に労働や健康、ビジネススキルについて個人でしっかり検討することが求められる「人生100年時代」ですが、逆を言えば自分らしく働く余地が増え、社会的なやりがいをもって生活できるチャンスも増えるということです。後悔のない人生を送るためにも、今からその到来に向けて準備しておくことが求められそうです。(ライター:香山とも)