広がる「フリーアドレス」制は働き方改善につながるか
働き方改革の中で注目を集めている「フリーアドレス」。これは、従来のようにオフィスに決まった席があるのではなく、自由な席で仕事ができるというものです。社員の移動が活発化することで創造性が生まれ、社内のコミュニケーション改善にもつながるという声がある一方、いくつか疑問点や注意点も挙げられています。フリーアドレスでの働き方とはどんなものなのでしょうか。そして、そのメリット・デメリットとは? ご紹介します。
フリーアドレスの働き方とは
ヤフージャパンやカルビーなど大手企業が続々と採用しているフリーアドレス。社員が座る席を毎朝自由に選ぶことができ、部署やグループに縛られずに好きな場所で働くことができます。
このフリーアドレスは、もともと1990年代から日本に普及し始めました。導入当初は、社員分席を用意しなくてよい、営業などの日頃オフィスにいない人の席を固定化しないでスペースを効率化できるなど、オフィス面積を減らす発想から注目されました。オフィスを効率的に利用することで、無駄な賃料を節約することが主たる目的だったのです。
しかし近年、政府が成長戦略として働き方改革に力を入れる中で、勤務形態を変えるものとしてフリーアドレス化は脚光を浴びています。席を自由に選べることで効率的・効果的に仕事ができるようになり、働き方改革が促されるだろうと考えているのです。
また、フリーアドレス制では従来のような画一的なデスクセットが用意されているわけでなく、長机になっていたり、リラクゼーションスペースや一人用の集中席などがあったりするなど、席自体のバリエーションも豊富なことが多いです。
フリーアドレスのメリットとは
では実際、フリーアドレスにはどのようなメリットがあるか確認してみましょう。
・オフィス規模を削減でき、コスト削減が図られる
外勤の多い営業職や出社日数が限られている社員の席を固定席として設けておく必要がないので、オフィス規模を削減できます。省スペースがなされるため、賃料を削減できるというコストメリットがあります。
・部署の壁を超えてコミュニケーションが生まれる
従来型のオフィスでは部署ごとに“島”をつくり、コミュニケーションはその中で行われることがほとんどでした。しかし、フリーアドレスであれば、部署に関係なく交流をすることができます。他の部署のメンバーと顔見知りになることで、新たなプロジェクトを企画しやすかったり、部署異動の際にイメージを持って移ることができたりするメリットがあります。
・これまでになかった交流や集中により、創造性あふれる仕事が生まれる
交流がなかったメンバー同士で話をすることで、コラボレーション企画ができたり、ビジネスチャンスに気づいたりする機会が生まれます。会社をリードするような創造性がそこから生まれてくるかもしれません。また、人によって働きやすい環境は異なるものです。これまでのような無機質なオフィスとは違う就労環境になることで、新たな着想を得られることもあるでしょう。
フリーアドレスの懸念点・注意点
一方で、フリーアドレス制で会社の働き方を改善させるのであれば、以下のようなことに気をつけなければならないという指摘もあります。
・実質上の固定席になりやすい
「フリーアドレスにしたけれども、結局、毎日同じ席に座ってしまう」という方は多いようです。周囲にいつものメンバーがいた方が楽だ、決まった席の方が落ち着くなどの理由から、フリーアドレスをうまく使い切れない社員もいるようです。こうした社員が増え、形骸化しているケースも出てきています。
・「今日はどこに座ったらよいか」というプレッシャーがある
「あえて上司の隣を避けているように思われないか」など、席選びにプレッシャーがかかるという声も挙がっています。逆に、自分の周囲には誰も座らないと、疎外感を抱く人も少なくないといいます。フリーアドレスになり、社内の関係性が軽やかになるどころか、周囲の目が余計に気になるようになっては逆効果でしょう。
・コミュニケーションロス、マネジメント不足などで非効率に陥る
フリーアドレスは、部署のメンバーがバラバラに座るため、業務上必要になるコミュニケーションが不足する可能性もあります。また、それぞれの社員が自立していれば問題はありませんが、上司のマネジメントが必要な状態の社員が多い中でフリーアドレスが導入されれば、逆に業務が非効率化する危険性があります。
いまだ効果を検証中のフリーアドレス。そのメリットを最大限に活かすためには、社員の自律性と会社全体における働き方の意識改革が求められると言えそうです。(ライター:香山とも)