「企業内保育所」の現状と未来 少子高齢化社会の育児支援と企業価値向上策
企業内保育所は、働く親が増える現代において、仕事と育児の両立を支援するための福利厚生です。女性の社会進出や少子高齢化が進む中で、従業員のワークライフバランスを重視する企業が増加しています。
政府は「企業主導型保育事業」を推進し、設置への助成制度を提供していますが、普及には課題が残されています。今回は、企業内保育所の経緯や現状、課題、そして少子高齢化社会における可能性について考察します。
企業内保育所とは?
企業内保育所は、企業が職場に設ける保育施設で、従業員の育児をサポートするための福利厚生の一環です。2016年に内閣府が開始した「企業主導型保育事業」では、企業が独自に設置する保育所に対し、一定の助成金が提供されます。
企業主導型保育所は、認可外保育所でありながらも助成が受けられ、設置条件が緩和されるため、企業にとって導入のハードルが下がっています。こうした支援策の拡充が、企業内保育所の普及を後押ししています。
企業内保育所のメリット
企業内保育所の設置について、企業と従業員それぞれの視点からメリットを整理します。
1.企業側のメリット
コスト面と人材面での効果があります。企業内保育所の設置は、従業員の離職率低下や定着率向上によるコスト削減効果があります。育児中の優秀な人材が継続して勤務できる環境を整えることは、企業の競争力向上にもつながります。
こうした取り組みは、特に少子高齢化が進む現代では、育児支援を行う企業のイメージアップにもつながり、採用面でもプラスの影響が期待できます。
2.従業員側のメリット
従業員が職場近くで子どもを預けられることで、通勤時間の削減や緊急時の対応が容易になり、安心して働くことが可能になります。これは離職率の低下や従業員のモチベーション向上に寄与し、企業にとってもメリットとなります。
また、企業が保育料の一部を負担することで、育児にかかる金銭的負担も軽減される可能性があります。さらに、安心して働ける環境が整うことで、キャリア継続も支援されます。
企業内保育所の普及と現状
次に、企業内保育所の普及状況と、どの業界で導入が進んでいるのかを見ていきます。
1.企業内保育所の設置率
企業内保育所の設置率は依然として低く、2019年発表の東京商工リサーチの調査結果では、全企業のうち98.4%が未設置でした。とはいえ、この数値は中小企業も含む全体の割合であり、大企業や特定の業界に限ると普及率が高まります。
特に、医療・福祉業界やIT・通信業界、製造業など、24時間体制での勤務が必要な職場や女性従業員の割合が高い業界では、保育所設置のニーズが強く、導入も進んでいる傾向にあります。
2.企業主導型保育所の利用状況
企業内保育所の中でも企業主導型保育所は、従業員向けの福利厚生だけでなく、地域の子どもも受け入れる「地域開放型」の役割を果たす事例が増えています。
保育所設置が可能な企業が地域と連携し、他企業や地域住民と協力することで、地域に根ざした保育環境の整備が進んでいます。
企業内保育所の課題とその解決策
企業内保育所の普及を妨げる大きな要因には、コストや保育士の確保、運営上の困難が挙げられます。こうした課題にどのような解決策があるのか、具体例を交えながら解説します。
1.コストと保育士確保の課題
企業内保育所の普及を妨げる最大の課題は、設置や運営にかかるコストの高さです。施設の維持管理や保育士の人件費は大きな負担となり、特に中小企業では導入が難しい場合が多いです。都市部では用地確保が困難であり、保育士不足も深刻です。こうした問題は、企業にとって大きなハードルとなっています。
2.企業間連携等の動き
こうした課題を解決するために、企業間や地域との共同運営が有効と考えられています。複数の企業が協力して共同で保育所を運営するモデルや、地域自治体と提携して設置コストを分担する事例が見られます。企業主導型保育事業の助成金制度を活用することで、経済的負担が軽減され、導入が進みやすくなることもあります。
3.デジタル活用による効率化
デジタル技術を活用することで、保育所の運営を効率化する取り組みも注目されています。保護者との連絡をデジタル化したり、入退室管理を自動化することで、保育士の負担を軽減することができます。こうしたDXの導入は、保育の質を維持しつつ業務負担を軽減する手段として、今後さらに注目されるでしょう。
今後の展望
少子高齢化が進む中で、企業内保育所は企業の枠を超え、地域社会に貢献する役割を担うよう期待されています。
1.保育士配置基準の改定
2024年度から保育士配置基準が改定され、特に4・5歳児クラスの保育士配置が見直されます。これにより保育の質の向上が期待される一方で、保育士確保がより困難になる可能性もあり、企業側にはさらなる工夫が求められます。
2.地域社会との連携
今後、企業内保育所は福利厚生を超え、地域社会と連携した「地域の育児拠点」としての役割を果たす可能性が期待されています。特に企業主導型保育事業を活用した「地域開放型保育所」は、地域の子どもも受け入れることで、地域に根差した保育を実現しています。これにより、地域全体の子育て支援として機能する企業内保育所が増えることが予想されます。
3.労働力不足に向けた企業の役割
少子高齢化や労働力不足が進む日本社会において、企業は多様な働き方を支援し、育児を支援する取り組みをさらに強化していくことが求められています。企業内保育所は、従業員が仕事と育児を両立できる環境を整えると同時に、企業の社会的責任(CSR)としての重要性も高まっています。
企業と社会の持続的成長に向けて
企業内保育所について、見落としてはいけないのは「子どもへの影響と教育面でのメリット」です。企業内保育所では、家庭的な環境や教育の一貫性を保ちながら、安心して過ごせる場が提供される特徴があります。これは子どもの健全な成長にとっても大きなプラスであり、社会性や学びの機会が豊富であることが多いとされています。
企業内保育所は、仕事と育児の両立を支えるために、企業が行う支援策としてますます重要になっています。しかし、運営コストや保育士不足、用地確保の課題も残されています。
少子高齢化が進む中、企業が地域社会と連携し、育児支援を充実させることで、地域と企業が共存しつつ発展できる未来が期待されます。企業にとっても、企業内保育所を戦略的に活用し、従業員の働きやすさを向上させることは、持続的な成長に貢献する施策となるでしょう。