増える事業所内保育所、そのメリットと懸念点
いわゆる「保活」に悩む子育て家庭が増える中、企業が自らの事業所内に託児所を設ける“事業所内保育所”が増えつつあります。開設に際して国から補助金を受けられる制度も始まり、さらなる拡充が期待されています。
待機児童を抱える労働者にとってはありがたい存在ですが、一方でその保育サービスの“質”を懸念する声もあります。事業所内保育所とはどんなものでしょうか。また、事業が拡大している背景とそのメリット・課題点をご紹介します。
事業所内保育所とは
2016年、政府から「企業主導型保育事業」の方針が打ち出されました。この方針では、事業所内保育所とは、「企業内やオフィスの近隣に設置された、従業員向けの保育園など託児施設」と位置付けられています。育児中の従業員が無理なく働けるように、また、保育園に預けられないから職場復帰ができないといったことがないように、会社が子育てをサポートするものです。
一般的な保育園と違い、自治体への届け出なく設置できるものとされています。いわゆる無認可保育園なので、認可保育所より保育士や子どもの定員の基準をゆるいという傾向があります。住んでいるエリアなどに関係なく、自社の従業員であれば子どもを預けられることとされています。一社で運営しているケースもあれば、近隣や提携している企業複数で運営していることもあります。
政府の方針のもと進んでいる事業のため、事業所内保育所を設置する企業向けの補助金が認可保育所並みに設定されており、事業所への負担を減らすなどの工夫がなされています。今後、共働き世帯が増えるに従い、「事業所内保育所を設置している」ということが企業のひとつの魅力として打ち出されていくでしょう。
事業所内保育所が広がる背景
「保育園落ちた、日本死ね!」というブログが話題になったように、日本における保育園不足は深刻なものとなっています。そこで、待機児童への大きな対策として、事業所内保育所の方針が打ち出されました。総計5万人分の受け皿を目指し、設置事業所を募集しています。
これは、現状の認可保育所の数では待機児童の受け皿にはなっていない上に、新設作業も追いつかないことから政府が打ち出したものです。日本の労働力不足が叫ばれる中で、出産・育児で仕事を離れる女性を少しでも減らせるように、事業所内保育所への期待は高まっています。
事業所内保育所のメリット
期待を背負う事業内保育所ですが、育児をする従業員にとってどんなメリットがあるのでしょうか。
・通勤と保育所への送迎が一緒にできて楽
働く保護者の中には、勤め先と保育所がまったく逆方向で非常に手間がかかるという問題があります。さらに、きょうだいで一箇所の保育所に入ることができず、送迎の手間が二重になっているということもあるようです。事業所内保育所ならば、保護者の無駄な手間が省け、育児と仕事の両立がしやすくなります。
・時間の融通が効く
育児と仕事で苦労する点としては、遅くまで子どもを預かってもらえないことです。時間に遅れると延長料金が取られる園も少なくありません。しかし、事業所内保育所であれば仕事終わりにすぐに迎えにいけるので、ギリギリまで働くことができます。また、業務内容に合わせて遅くまで子どもを預かるようなサービスを準備している事業所内保育所もあるようです。
・仕事中でも子どもの様子を見にいける
「今日はちょっとぐずっていたから心配だな」「少し具合が悪そうだったんだけれど大丈夫かな?」など、保護者ならではの不安を抱えたまま子どもを保育園に預けることもあるでしょう。そんな場合にも、職場内に保育所があれば子どもの様子を見ながら仕事をしていくことができます。
・災害時もすぐにお迎え可能
地震などの災害に際に、電車が止まってしまったらどのように子どもを迎えに行ったらよいか頭を抱える保護者の方もいるでしょう。事業所内保育所は近隣に設置されることがほとんどなので、すぐに子どもの元へ駆けつけることができるので、不安が半減します。
事業所内保育所の課題
いいことずくめの事業所内保育所に見えますが、残された課題もあります。
・安全面に不安
事業所内保育所は、法律的には自治体から認可を受けていない無認可保育所と見なされます。保育士の数・質については、保育所ごとにまちまちです。実際、事業所内保育所で預けられた子どもが亡くなる事故もあり、不安を抱く保護者もいるようです。保育士の人数は適切なのか、ビジネス街にあり環境面で問題はないのか、など懸念の声も挙がっています。
・保護者が出勤しないと、子どもを預かってもらえない
冠婚葬祭への出席など、土曜・日曜にプライベートな用事で子どもを預かってほしいこともあるでしょう。しかし、事業所内保育所の場合には、基本的に保護者が出勤しなければ子どもを預けることができません。
働き方の見直しが進む中で、事業所内保育所には大きな期待が寄せられています。課題や懸念の声をどのようにクリアしていくのか、企業・行政を含めた社会全体の協力が求められそうです。(ライター:香山とも)