注目を集める「健康経営」、その背景と課題
働き方改革が進む中、過重労働改善や職場ストレス改善につながる「健康経営」が注目されています。これは“社員の健康を積極的に管理・維持することが、会社の持続的成長につながる”とする考え方です。
こうした流れを受けて、日ごろの運動や健康維持に努める社員にインセンティブを与えたり、社内での健康教育を推進したりする企業が登場しています。一方、未だ健康管理を社員任せにしていたり、そもそも健康経営そのものが知られていなかったりという課題もあります。健康経営とその普及の背景、さらに今後の課題について解説します。
そもそも健康経営とは?
近年、新聞などで目にするようになった「健康経営」。これは、アメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが提唱したもので、企業の持続的成長を図るねらいから、従業員の健康を担保しようとする経営の手法を指します。
例えば定期的な健康診断やがん検診のほか、健康増進に取り組む社員に対する特別手当、管理職向けのメンタルヘルス研修などが挙げられるでしょう。従業員の健康こそが、企業にとっても社会にとっても不可欠なものであることを念頭に置いた経営理念です。
日本においては最近知られるようになった概念ですが、アメリカでは1980年代以降に積極的に取り組む企業が増えてきました。GEやテネコ石油、GMなど多くの企業が健康経営の考え方を取り入れてきた歴史があります。健康経営をすることで、従業員のパフォーマンスやモチベーションを高く維持し、医療費を抑えることができます。従業員の健康を重んじることで結果的に、企業の収益の向上を目指していけるのです。
健康経営普及の背景
アメリカだけでなく、日本においても従業員の健康を守り、増進する健康経営に注目が集まるようになりました。その背景には、高齢者雇用の必要性や過労、メンタルヘルスの問題を企業が抱えているということが挙げられます。さらに、社会的な問題としては医療費などの社会保障負担の増大もあります。これはグローバル化が進む中で、日本経済が競争力を失う原因になりうると懸念されています。
このような流れを受けて、2007年には経済産業省産業構造審議会により「個人・企業の健康投資の充実を促すしくみづくりを進め、企業や社会における健康経営・健康増進の取組を促進する」という答申が出されました。政府も健康経営を後押ししていると見ることができます。
今後、日本社会の一層の少子高齢化が進み、労働力人口が減少していけばさらに健康経営は重要になってきます。平均年齢が高い企業においては従業員の健康状態が経営戦略に直結する問題になるでしょう。さらに、人材不足となれば、従業員の健康を保てない会社は求職者から選ばれなくなります。採用の観点からも、健康経営を進めることは欠かせないのです。
今後の課題
注目を集めつつある健康経営ですが、残された課題はいくつかあります。その一部を紹介しましょう。
・健康経営への理解の低さ
東京商工会議所が行った「健康経営に関する実態調査」(東京都内の中小企業〔従業員300人以下〕を対象に、健康経営の認知度課題を明らかにするために実施)の結果、健康経営を認知しているのは27.4%。一方で、「聞いたことがない」と回答する企業は40%もいました。「いずれ実践したい」と回答する企業も67.1%はいるものの、認知度の低さは大きな課題だといえるでしょう。
・多様な観点で従業員の健康を考える必要がある
健康経営と一言でいっても、企業の業態や社員の状況などでアプローチの仕方は変わってくるはずです。近年増加しているメンタルヘルス問題の予防など、健康の定義はどんどん広くなっています。各企業がどのように健康経営を図っていくかという課題は考え続けていかなければいけない課題でしょう。
・従業員の認知度と意識の低さ
従業員自身が健康経営を認知していない可能性もまだ高い状況です。従業員が健康経営を理解し、施策を積極的に利用できるように意識を促していく必要があります。
日本でもその重要性が広がりつつある健康経営。これから、どう課題を解決していくかがポイントになりそうです。(ライター:香山とも)