「人手不足倒産」とは何か?中小企業で急増する理由と予防策
日本社会では少子高齢化が進み、企業は人材の確保が年々困難になっています。こうした環境の中で「人手不足倒産」と呼ばれる新たな倒産リスクが注目されています。
今回は、「人手不足倒産」とは何か、そのメカニズムと背景、さらに予防策について考察し、企業が持続可能な経営を続けるためのポイントについてご紹介します。
人手不足倒産とは?
人手不足倒産とは、企業が事業に必要な人材を確保できないため、経営継続が困難になり倒産に至る現象です。背景には少子高齢化のほか、労働市場の変化や新たな法規制の影響も加わり、中小企業を中心に深刻な問題となっています。
帝国データバンクの調査によれば、2024年度上半期(4~9月)において人手不足倒産は163件に達し、前年同期からさらに増加しています。特に建設業や物流業での倒産が多く、全体の45%を占めています。
また、倒産企業の約8割は従業員10人未満の小規模事業者であり、採用難や人材流出の影響が中小企業に集中している状況です。このように特定の業種や企業規模において人手不足倒産が顕著に見られる背景には、労働市場全体の構造的な問題が存在しています。
人手不足倒産のメカニズム
人手不足倒産は、以下のようなパターンで発生することが多いです。
1.後継者難型
企業経営者や幹部が引退や病気により退任する際、後継者が見つからず事業継続が不可能となるケースです。特に地方の中小企業では、後継者不在の問題が深刻で、長年の事業が人手不足により存続できなくなることが少なくありません。
2.求人難型
事業運営に必要な人材を確保できないことで業務が停滞するパターンです。特に専門性が必要な職種や経験を求めるポジションでは、求人に応募者が集まらず、事業運営そのものが滞るリスクが増加しています。
3.従業員退職型
中核となる社員の退職が相次ぎ、業務遂行が困難になるケースです。特定の従業員に業務が集中している企業に多く見られ、その社員が退職することで業務に大きな支障が出ることがあります。離職者が増加すると、残留社員への負担が増し、さらなる人材流出を招く悪循環も発生します。
4.人件費高騰型
人手不足が人件費の高騰を招き、経営収益が圧迫されるケースです。中小企業にとって、限られた予算の中で人件費負担が増大することは大きな経営リスクであり、十分な利益を確保できなくなり、倒産に至ることもあります。
人手不足倒産が増える背景
人手不足倒産の増加には以下の要因が背景として存在します。
1.少子高齢化による労働人口の減少
日本では少子高齢化が進み、労働人口が減少しています。特に地方や特定の業種では若年層が減少し、企業が必要な人材を確保するのが難しくなっています。
2.時間外労働の上限規制(2024年問題)
2024年4月から時間外労働の上限が厳格に規制されるようになりました。従来は長時間労働で業務を補ってきた企業も多かったですが、この規制により従来の方法が通用しなくなり、人手不足倒産のリスクが高まっています。
3.賃上げ機運の高まり
物価上昇とともに賃金上昇の機運が高まっていますが、特に中小企業にとっては人件費の上昇が大きな経営負担となっています。高い賃金を提示できない企業は人材流出に悩まされ、倒産のリスクが高まります。
4.中小企業の労働条件の低さ
労働条件や待遇が首都圏や大企業と比較して相対的に低いため、地方の中小企業では待遇を理由に都市部に人材が流出する傾向があります。
人手不足倒産の予防策
人手不足倒産を防ぐため、企業は以下のような対策を検討することが重要です。
1.労働環境の改善
従業員の離職を防ぎ、定着率を高めるためには、職場環境の改善が欠かせません。賃金の引き上げなど基本的な待遇向上はもちろん、フレックスタイム制度やテレワークの導入、福利厚生の充実など働きやすい職場づくりが労働者の満足度向上につながります。
2.価格転嫁
賃金を引き上げるために、価格転嫁によって利益率を確保する手段も必要です。取引先との交渉を通じて価格に反映させ、企業としての収益性を維持することで、安定した経営基盤を築くことができます。適切な価格設定を行うことで、労働者への賃金支払いを安定させることが可能になります。
3.採用力強化と多様な人材活用
女性や高齢者、外国人など多様な人材を積極的に活用することで、人材確保の幅を広げることができます。外国人労働者向けのサポート体制を整備したり、高齢者の再雇用制度を導入したりすることが考えられます。オンライン採用やリモート勤務の推進により、遠方の人材とも柔軟に働ける体制を整えられます。
4.テクノロジー活用による生産性向上
人手に頼らず生産性を高めるため、AIやロボットなどの技術を活用することが重要です。例えば、事務作業の自動化や倉庫作業のロボット化など、デジタル技術を取り入れることで少人数でも高い効率で業務を遂行することができます。ITシステムの導入により、業務プロセスを簡略化することも有効です。
5.事業モデルの再構築
需要の変化に対応できる柔軟な経営が求められます。依存している特定業種から新たな分野への多角化や、労働集約型からサービス化への転換を図ることも選択肢です。これにより、外部環境の変化に対応した持続可能な事業運営が可能になります。
「属人的な仕事」からの脱却を
このほか、中小企業経営の隠れた問題として「属人的な仕事のやり方」があげられます。これを放置すると、重要な役割を担う社員の退職によって、ただちに業務が滞ったり品質が下がったりするリスクが高まり、従業員の世代交代ができなくなります。
これは一見すると「人手不足倒産」のように見えますが、本当の理由は違うのかもしれません。業務をマニュアル化し、標準手順を確立して誰でも実行できる仕組みを構築することが求められます。情報共有やタスク管理を組織として行うためにも、デジタルツールの活用は欠かせないでしょう。