他人ごとではない人手不足倒産、その実態と原因
帝国データバンクは、人員確保ができないことを理由に倒産した企業が2017年度上半期に49件あったことを明らかにしました。人手不足を理由にした倒産件数が40件を超えたのは、調査を開始した2013年以来初めてとのことで、「人手不足倒産」が多くの会社にとって現実のものとなりつつあります。人手不足倒産の実態と原因を解説します。
人手不足倒産とその実態
人手不足倒産とは、従業員の離職や採用難などで、人手が確保できず、結果的に企業が倒産にまで追い込まれることをいいます。負債1000万円以上から個人事業主含む、幅広い範囲でこうした状況が起こっています。
帝国データバンクが2017年7月10日に発表した結果によると、2013年に発生した人手不足倒産は17件。それに対して、2017年になると、49件にまで増加していました。実に4年間で2.9倍にまで増加したのです。倒産件数全体の中では、まだ少ないものの、少子高齢化による人手不足が少しずつ現実のものとなってきているという見方もなされています。
この4年間で人手不足倒産した企業の詳細を見ていくと、「1億円未満」の小規模企業の倒産が最多。業種別では、最も多かったのが建設業(36.2%)、続いてサービス業(31.7%)となりました。サービス業の中では、老人福祉事業の倒産が目立ち、低賃金、重労働、不規則労働などから介護スタッフの定着率が低いという問題がそのまま表れていると見ることができそうです。他にも、IT系や農業系、警備などの仕事で人手不足が加速するとみられています。
人手不足倒産の原因とは
続いて、人手不足倒産の原因を確認していきましょう。
1. 労働人口の減少
社会的な要因としては、少子高齢化が挙げられます。15~64 歳の生産年齢人口は1995年の8,726万人をピークに減少を続けていき、2025年には7,000万人にまで減少するといわれています。こうした社会的に仕事の担い手が減ることで、人手不足倒産は引き起こされているといえるでしょう。
2. 労働者にとって魅力的ではない労働環境
人手不足=労働者有利の売り手市場ということでもあります。経営状況のよい企業は好待遇で求職者を迎えることができますが、相対的に他の企業の待遇は低くなります。「給料が安い」「業務時間が長い」「人間関係が良好ではない」「キャリアアップしにくい」などの理由から、従業員が離れていったり悪評から採用がしにくくなったりしていることも要因となっています。
3. 採用する従業員に高い能力を求めすぎる
複雑化・高度化するビジネス環境の中で、「即戦力が欲しい」「英語に長けて、営業力もある人材を求めている」など従業員に高い能力を求めている企業は少なくありません。労働者にとって好条件を提示できる大企業などであれば、そうした採用基準を設けても人は集まるかもしれません。しかし、中小規模の企業では厳しいことが予測されます。即戦力や能力が高い人材を求めるだけでは、人手不足倒産を招く危険があります。入社してから育てる意識への転換が必要といえるでしょう。
4. 社員が定着・成長するような教育がなされていない
教育が行き届かず次世代を担うような人材が育っていないと、会社は組織として立ち行かなくなります。ベテランがいくら優秀でも、若手を育て、定着していきたいと思えるような職場を作っていなければ未来はありません。後継者が育たず、新たな優秀な人材も雇えずに、人手不足倒産になるケースもあるのです。
5. 売上減で人件費が回収できなくなる
売上がガクッと落ちることにより、人件費を十分に確保できず、労働者が離れていくことは多いです。人手が少なくなれば、下がった売上を引き上げることも難しくなってしまいます。結果的に、倒産を余儀なくされるのです。また、売上が下がったのは一時期のことで、その後回復したとしても、一度未払いを起こしてしまうと悪評が広がり、人員を雇うのが難しくなってしまうということもあります。
このように、人手不足倒産にはいくつかの要因があります。社会的な労働人口の減少を考えると、決して他人事ではありませんし、遠い未来の話でもないといえるでしょう。個々の企業には、これから訪れる労働人口減少時代に向けて対策が求められるようになってきているといえます。(ライター:香山とも)