教職員の働き方改革の現状と課題
全国的に働き方改革が進んでいますが、教職員の働き方改革についての取り組みも始まりました。これまで教職員は日々の授業だけでなく、部活動や年中行事、保護者対応などで疲弊してしまいがちでした。
そうした働き方を見直そうという動きが各地で出始めているのです。教職員の働き方が叫ばれるようになった背景、どういう改善策が出てきているか、今後の課題などをお伝えします。
教職員の働き方改革の背景
電通の過労死の問題などもあり、民間企業での労働時間の見直しが進められて久しいです。現在も、休日労働が含まれていないなどの問題も指摘されていますが、少しずつ改善はしていると見られています。
一方で、公立小中学校の教員の過労への対応は民間企業以下とされています。例えば、文部科学省の2016年度調査においては、国が示す「過労死ライン」(月80時間超の残業)に相当する「週60時間以上勤務」は、公立中学校教員で57.7%、公立小学校教員では33.5%にも上ると発表されました。
この業務時間数は、10年前と比較し、週の勤務時間が中学校で約5時間、小学校で約4時間も増えたということを意味します。これには、授業内容の増大や事務処理の増加など様々な要因があるといわれています。
加えて、公立小中学校の教職員の時間外の勤務には、校外実習や修学旅行など4種類しか認められていません。実際には、勤務時間終了後にも部活動や教材研究、生徒対応・保護者対応などがあります。しかしながら、こうした“業務”には時間外勤務手当は支払われません。こうした状況から、過労死する教師やメンタルの疾患を抱える教師も増えており、教員の時間外労働の是正が求められるようになっていきました。
教職員の働き方改革の取り組み
文科省は、「教員の業務負担の軽減が喫緊の課題」と通知を出しました。そして、「教員の長時間勤務を見直すことで、教員が自らを研鑽できる機会を持ち、意欲と能力を最大限発揮して教員自身が誇りをもって働くことができるようになる」と示されました。
教員の勤務時間は見えにくいものです。そのため、勤務時間の適正把握も重視されたのです。また、これまで民間企業からかなり遅れを取っていた労働安全衛生管理体制の整備も図る方向が出されました。こうした国の動きも相まって、各自治体や学校において、教員の働き方改革は進行しつつあります。
埼玉県戸田市では、勤務時間外の在校時間の把握など、現状認識に努めた上で、業務の「可視化」「共有化」「効率化」を果たすべく取り組みを進めています。各教員がどんな働き方をしているのか見える化し、共通フォームを作り他の教師と協働することで仕事の手間を省き、民間企業の視点なども入れつつ効率化を図っていく方針です。ただ単に、教師の業務量を減らすだけでなく、すべき仕事かを吟味した上で、児童・生徒と触れ合う教師の本分の時間を捻出していくことを狙っているのです。
さらに、各学校においても草の根的に教員の働き方改革はスタートしています。例えば、夏休みや冬休みなどの長期休業期間中は、定時退勤を教師に勧めている学校が出てきています。また、教員の長時間労働の大きな原因の一つとなる部活動においても、「部活動休養日」を設けるなどして、教員を定時に帰す取り組みが始められています。
今後の課題
教員の働き方改革の今後の課題として3つがあると考えられます。
一つ目は、各教員がどれだけ働いているかが見えにくいということ。学校にいながらする業務ももちろん多いのですが、授業準備や教材研究などは、自宅に持ち帰って行うこともしばしば。そのため、教員が通算どれだけ仕事に時間を当てているかを「見える化」する必要があるでしょう。
二つ目は、教員自身に問題意識がない場合も少なくないということ。部活動などは、「生徒たちを強くしたい」という一心で頑張りすぎて、結果的に過労に陥っている教師も多いといいます。組織や体制的に、教員の働く時間を規定したり、学校外部の力を上手に活用したりするなどして、こうした“頑張りすぎる先生”のケアをしていく必要があります。
三つ目は、教員がマルチプレイヤーとなることを求められすぎること。教員は、クラス担任であり、部活動の顧問であり、生徒指導部などの校務分掌担当者でもあります。教員の中での役割分担や部活動顧問の専門家など、教員以外の方が担える部分のアウトソーシングなどが求められていくでしょう。
教職員が「ブラック労働」となってしまえば、子どもたちの教育を担う人がいなくなってしまうことも考えられます。今後、教員の働き方改革も推進させ、教職員にとっても児童・生徒にとってもプラスになるような改善が実現することが望まれるでしょう。(ライター:香山とも)