ブラック企業を生む?「過剰品質」「過剰サービス」とは
多くの企業では「顧客第一」という言葉が金科玉条のように唱えられています。特に小売業やフードサービス、介護サービスなど、一般消費者と接する業界でそれが顕著です。しかし、この顧客第一主義が暴走して“過剰品質”あるいは“過剰サービス”になってしまい、現場で働く人々を苦しめているという声が聞かれるようになりました。ブラック企業問題の背景にあるこの問題について考えてみましょう。
過剰品質・過剰サービスが引き起こす問題
過剰品質という言葉は、もともとは製造業界で取り上げられていた問題です。例えばパソコンや自動車、家電などに、顧客が求める以上の機能・性能をつけてしまうことによりコスト増大を招き、結果的に顧客離れを引き起こしてしまう……。おもにこうした文脈で過剰品質が問題視されていました。
一方、近年のブラック企業問題においては、過剰品質というよりも、過剰サービスという側面で問題になっています。具体的には以下のようなケースが挙げられるでしょう。
・正月の1月1日から初商いのために開店する百貨店
・少しでもニーズがあるからという理由で、深夜に1人で働く牛丼チェーン店
・荷物の再配達のために夜中まで何度も振り回される配送会社
・入居者からの暴言、暴力にも耐えなければならない老人ホーム
もちろん、B to Bのビジネスでもこうした過剰サービスは問題になっています。例えば、「クライアント企業のちゃぶ台返しのため、徹夜で納品物の修正をおこなうWebデザイナー」や「極端な短納期の発注のため、休日出勤せざるを得ない製造現場の従業員」などです。
24時間営業・年中無休、再配達無料、親切丁寧な顧客対応などは、ユーザーにとっては確かにありがたいものです。しかし、そうした要望・ニーズにすべて応えられるほど、豊富なマンパワーや人件費を持つ企業はごくわずかです。また、客離れを警戒して、なかなか値上げに踏み切れない実情もあります。
こうした状態で無理にサービスを提供し続けようとすれば、現場にしわ寄せがいかざるを得ません。結果的に、サービス残業や休日出勤、深夜労働、クレーム対応などが増大し、働く人たちが心身を壊すほど疲弊してしまう……。そんな状況が、日本の労働をむしばんでいるのではないかと指摘されています。
過剰品質・過剰サービスの解消に向けた取り組み
こうした過剰品質・過剰サービスを解消するために、少しずつ働く現場も変わりつつあります。例えば大手ファミレスチェーン「ロイヤルホスト」や「すかいらーく」などでは24時間営業をやめる店舗が増えています。外食ニーズの減少や人手不足のため、従業員に長時間労働を強いても人件費に見合わないというのが、その理由です。そのほかコンビニなどでも24時間営業を見直す動きが出始めているほか、運送会社では専用の宅配ボックスを設置して再配達の手間を軽減しようとしています。
ただし、社会全体で過剰品質・過剰サービスの減少に取り組むのであれば、やはり消費者自身の意識改革が最も必要でしょう。“お客様”であることをかさに着て度を越した要求をしたり、店員や担当者に理不尽なクレームをつけたりする……。こうした態度が、過剰サービスを招き、働く人々を追いつめている側面もあるでしょう。
「お客は神様なんだから、店員はそれに応じるのが当然だ」と考える人もいるかもしれませんが、サービス提供者と顧客は、商品と金銭を等価交換するだけの対等な関係です。「お金を払っている方が偉い」という意識を変えなければ、過剰品質・過剰サービスの根本的解決は望めないでしょう。
過剰な品質・過剰なサービスが当たり前の世の中だと、ブラックな働き方が当たり前のものになってしまい、結局はめぐり巡って労働者全員が苦しむことになります。少しくらい不便でも、それを許容するような余裕と大らかさが、ブラックな働き方の改善につながるのではないでしょうか。