• 「渡邉美樹は嫌い」でも、ワタミ労働で「得られたもの」もある【ブラック企業のいいところ(3)】

    ブラックだと批判される企業は多数あるが、果たして実態はどうなのか。その企業で働いた人にしかわからない「長所」や「メリット」もあるのではないか? 最終回となる第3回に登場するのは、ワタミフードサービスで約2年半、アルバイトと正社員(店長候補)で勤めていたCさん(20代・男性)だ

    (第2回:ユニクロはこちら)

    やっぱり激務・サービス残業は当たり前だった!

    外食事業や介護事業、農業事業などを手掛けるワタミグループ。飲食店の店舗数は600店以上、売上高も760億円超(2012年3月実績)に上る業界最大手だ。

    しかし、バイトスタッフに対する賃金未払いや従業員の過労死問題などから、ブラック企業大賞に2年連続でノミネートされている。また、従業員に対し「365日24時間死ぬまで働け」と記載された理念集を配布したり、渡邉美樹前会長の発言がネットで炎上したりと、何かと物議を醸すことも多い。

    Cさんの勤めていたワタミフードサービスは、2006年にワタミの子会社として設立された。居食屋「和民」などの外食分野を担っており、いわばワタミグループの“顔”といえる存在だ。

    Cさんはかつてアルバイトで1年、正社員として1年半、関東近郊の店舗で働いていた。収入はバイト時で時給1050円程度、正社員当時の年収は280万円ほどだったという。異動はなかった。

    「店舗の立地にもよりますが、基本的にヒマなときはなかったです。バイトのときでも8~9時間連続勤務がありましたし、正社員になってからは病欠したバイトの穴埋めとして何度も休日出勤しました」

    バイト時代の主な業務は接客やテーブルセッティングなど。そのときから、ワタミの正社員がきついことは知っていた。だが自身は就活を失敗してしまった。アルバイトで稼げる額には限界がある。

    「きつかったら辞めればいい」

    そう思って期待せずに、社員登用試験を受けて正社員になったという。

    正社員として店長候補になってからはスタッフの勤怠管理や教育、採用募集、仕入・発注管理、予算管理、報告書作成なども担当していた。マニュアルがあるので、そうしたノウハウは自然と身につく。

    「サービス残業が多いというのもウワサ通り。正社員登用後の平均的な残業時間は、月120時間ほど。忘年会シーズンは月150時間を超すこともありました。それでも各店舗に割り当てられる予算が決まっているので、実態より少なく申告していましたね」

    バイトの残業代はしっかり支払われるため、時給換算するとバイトスタッフより正社員のほうが低賃金だという。Cさんが退社したのも、苦労の割には報われない給与の低さが原因だ。

    渡邉前会長のお説教を「スルーする能力」が必要

    こうした待遇の悪さから、Cさんは

    「ワタミグループはブラック企業だと思うし、ぶっちゃけ渡邉さんのことも嫌いです。と言うか、そもそも最初から気に食わなかった」

    と眉をひそめる。

    しかし、だからと言って長所や得られるスキルがない会社だとは考えていない。入社1年目でも、やる気があればやりたいことができる。Cさんの場合、地域のお祭りに合わせてキャンペーンを行う、予算をやりくりして季節ごとの格安プランを企画するなど、裁量権は大きかった。

    「また、どの店舗にもバイトスタッフは20~40名ほどいるので、特に実践的なチームマネジメント能力を伸ばすには最適。私の場合は、空き時間を見つけて困っていることをヒアリングしたり、業務改善のアイデアを募集したりして、『チームで店を盛り上げていこう!』というムード作りを行いました。リーダーやマネージャーを目指す人には、必ずプラスになるはず」

    ワタミのバイトスタッフは、学生など年齢が若い。性格もやる気もばらばらなので、的確なモチベーションマネジメントが必要だ。ちょっとした声かけで真面目に働くようになったりと、工夫がすぐに結果として現れる魅力があった。

    ただ、「まじめすぎる人はワタミグループには向いていない」という。「クレームや本社からのお叱りなど、ストレスを適当に受け流すスルー能力が必要」とCさんはアドバイスする。

    「たとえば、渡邉前会長のビデオレター。『営業中にメシを食える店長は二流』『24時間死ぬまで働け』とか言うわけですが、たいていの人間はマジメに見ていません」

    現在、Cさんはデザイン会社の営業主任を勤めているが、部下を指導する際やチームで大口案件を獲得する際などに、ワタミで得たチームマネジメントの経験を生かしているそうだ。

    待遇は悪い。ストレス度も高い。だがCさんはワタミで働いて「良かったこと」についてこう語っている。

    「若いうちに人を動かすポジションに就けたのは大きい。リーダーシップの取り方、チームの盛り上げ方などが学べたので、現在の会社でも管理職になるためのイメージが持てた」

    ワタミのアルバイトからあえて、正社員の道を歩んだCさん。この生き方をどう思うだろうか。

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