ソフトバンク孫氏が「ニッポンの最高の経営者」というのは本当か 2013年8月8日 仕事のエコノミクス ツイート 週刊現代2013.8.17/24号で「いまニッポンで『最高の経営者』は誰か」という特集を組んでいる。経営者や投資家、学者、ジャーナリストなど43人に「優れた経営者トップ3」を選ばせ、1位3点・2位2点・3位1点で集計したものだ。 結果は、ソフトバンクの孫正義社長が断トツのトップで24点。2位は日本電産の永守重信社長兼CEOの16点、3位は日産自動車のカルロス・ゴーン会長兼社長と、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が11点で並んだ。 いかにも新味のないラインナップだが、おじさん読者を抱える週刊誌としては、やはり大企業の有名人社長の名前を出しておいた方が安心なのだろう。 コメントの中には「ヤフー、ガンホーなどへの投資で巨額利益を得た孫氏は、実業家・投資家としても共に超一流」というのもあるが、好業績の結果だけを見て1位にあげるのならば、機械や素人にだってできる。 ヤフーと取引のあった企業担当者からは、「彼らは自分たちの利益のためなら、平気で相手を裏切る会社」「二度と取引したくない」という声も寄せられている。人気のある会社とはいえないが、16期増収増益のためなら仕方のないことなのだろうか。 一方で、大企業が並ぶのを予想してか、あえて無名の中小企業経営者をあげる人もいる。ノンフィクション作家の山根一眞氏は個別製品や技術の卓越性を評価し、田中鉄工所の田中秀明社長と多摩川精機の萩本範文社長の2人をあげた。 経済評論家の森永卓郎氏の1位は、エーワン精機の林哲也社長。ジャーナリストの志村嘉一郎氏があげたのは、ヤオコーの川野幸夫会長1人だ。しかし彼らのコメントは視野の広さを感じさせず、偏りすぎのような気もする。 もちろん業績や経営者のイメージだけでなく、経営の実態を幅広く見てコメントしていそうな人もいる。政策研究大学院大学の石川和男客員教授は、そのひとり。教授いわく、いま「若い人材から優れた経営者が次々と生まれている」のだという。 若い労働者の参考になりそうな「優れた経営者」もいた 石川教授があげる優れた経営者は、日本介護福祉グループの藤田英明会長と、HASUNAの白木夏子社長、NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事だ。若いビジネスパーソンにとって有益なのは、このような新しい流れを象徴する経営者の情報だろう。 日本介護福祉グループのウェブサイトには、「地域社会の問題を地域で解決していく為の「よりどころ」を草の根から整備する」という熱い経営理念が掲げられている。 HASUNAの白木夏子社長は、劣悪な労働や環境汚染のない採掘現場の貴金属を採用した「エシカル(倫理的な)ジュエリー」を製作、販売しているという。社会意識の高い学生には格好の就職先候補になるのではないか。 作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏が1位にあげたのは、ドワンゴの川上量生会長。「ネットメディアを熟知し、ニコニコ動画やニコニコ生放送を発展させた川上氏の先見性と戦略性は日本の経営者の中では希少」と絶賛している。 ドワンゴという会社が成し遂げたことから考えれば、確かにそう言えるだろう。しかしドワンゴの元従業員からは、会社経営に厳しい声が寄せられているのも確かだ。 「強引なリストラに遭い、抗議したが泣き寝入りさせられた」 「深夜でも会社から携帯に電話が入り罵倒されて疲れ果てた」 「(会長は)自分で契約社員のクビを切っておいて、ツイッターで『ぼくはやはり解雇は やりにくい日本のほうが好きだな』と白々しく書いてるところが超ムカツク」 彼らはきっと、川上氏を「最高の経営者」とは感じなかったに違いない。 この特集には「ビジネスマン必読」と書かれているが、それは誰のことを指すのか。視点が投資家なのかジャーナリストなのか、あるいは若い労働者なのか、働き盛りを過ぎたおっさんなのかによって「最高の経営者」がこうも違うのかということを思い知らされる。 【その他の仕事のエコノミクスの記事はこちら】
ソフトバンク孫氏が「ニッポンの最高の経営者」というのは本当か
週刊現代2013.8.17/24号で「いまニッポンで『最高の経営者』は誰か」という特集を組んでいる。経営者や投資家、学者、ジャーナリストなど43人に「優れた経営者トップ3」を選ばせ、1位3点・2位2点・3位1点で集計したものだ。
結果は、ソフトバンクの孫正義社長が断トツのトップで24点。2位は日本電産の永守重信社長兼CEOの16点、3位は日産自動車のカルロス・ゴーン会長兼社長と、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が11点で並んだ。
いかにも新味のないラインナップだが、おじさん読者を抱える週刊誌としては、やはり大企業の有名人社長の名前を出しておいた方が安心なのだろう。
コメントの中には「ヤフー、ガンホーなどへの投資で巨額利益を得た孫氏は、実業家・投資家としても共に超一流」というのもあるが、好業績の結果だけを見て1位にあげるのならば、機械や素人にだってできる。
ヤフーと取引のあった企業担当者からは、「彼らは自分たちの利益のためなら、平気で相手を裏切る会社」「二度と取引したくない」という声も寄せられている。人気のある会社とはいえないが、16期増収増益のためなら仕方のないことなのだろうか。
一方で、大企業が並ぶのを予想してか、あえて無名の中小企業経営者をあげる人もいる。ノンフィクション作家の山根一眞氏は個別製品や技術の卓越性を評価し、田中鉄工所の田中秀明社長と多摩川精機の萩本範文社長の2人をあげた。
経済評論家の森永卓郎氏の1位は、エーワン精機の林哲也社長。ジャーナリストの志村嘉一郎氏があげたのは、ヤオコーの川野幸夫会長1人だ。しかし彼らのコメントは視野の広さを感じさせず、偏りすぎのような気もする。
もちろん業績や経営者のイメージだけでなく、経営の実態を幅広く見てコメントしていそうな人もいる。政策研究大学院大学の石川和男客員教授は、そのひとり。教授いわく、いま「若い人材から優れた経営者が次々と生まれている」のだという。
若い労働者の参考になりそうな「優れた経営者」もいた
石川教授があげる優れた経営者は、日本介護福祉グループの藤田英明会長と、HASUNAの白木夏子社長、NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事だ。若いビジネスパーソンにとって有益なのは、このような新しい流れを象徴する経営者の情報だろう。
日本介護福祉グループのウェブサイトには、「地域社会の問題を地域で解決していく為の「よりどころ」を草の根から整備する」という熱い経営理念が掲げられている。
HASUNAの白木夏子社長は、劣悪な労働や環境汚染のない採掘現場の貴金属を採用した「エシカル(倫理的な)ジュエリー」を製作、販売しているという。社会意識の高い学生には格好の就職先候補になるのではないか。
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏が1位にあげたのは、ドワンゴの川上量生会長。「ネットメディアを熟知し、ニコニコ動画やニコニコ生放送を発展させた川上氏の先見性と戦略性は日本の経営者の中では希少」と絶賛している。
ドワンゴという会社が成し遂げたことから考えれば、確かにそう言えるだろう。しかしドワンゴの元従業員からは、会社経営に厳しい声が寄せられているのも確かだ。
「強引なリストラに遭い、抗議したが泣き寝入りさせられた」
「深夜でも会社から携帯に電話が入り罵倒されて疲れ果てた」
「(会長は)自分で契約社員のクビを切っておいて、ツイッターで『ぼくはやはり解雇は やりにくい日本のほうが好きだな』と白々しく書いてるところが超ムカツク」
彼らはきっと、川上氏を「最高の経営者」とは感じなかったに違いない。
この特集には「ビジネスマン必読」と書かれているが、それは誰のことを指すのか。視点が投資家なのかジャーナリストなのか、あるいは若い労働者なのか、働き盛りを過ぎたおっさんなのかによって「最高の経営者」がこうも違うのかということを思い知らされる。
【その他の仕事のエコノミクスの記事はこちら】