• 「すでに早慶でもピンキリなのに」 人事から「学力軽視」入試に懸念の声

    国公立大学の2次試験のあり方が問われている。発端となったのは、今年9月18日に行われた教育再生実行会議の配布資料だ。

    同資料では、現在の大学入試が「知識偏重の1点刻みのテスト」になっていることを指摘。入試に合格することが目的化しているため、主体的に学習する力の軽視や、学生の多様性の減少などが起きていると問題視している。

    これらの問題を解決するため「意欲・適性等を多面的・総合的に評価・判定する選抜に転換」し、「面接(プレゼンテーション、集団討論等)、論文、高校の推薦書、多様な活動・資格」を評価する方針に切り替えるべきと提言したのだ。

    4大進学率50%超「多様化が進んで苦労している」

    この提言が、10月に入ってから「国公立大、2次の学力試験廃止 人物重視、面接や論文に」などとセンセーショナルに取り上げられたため、ツイッターやフェイスブックで拡散し、議論を巻き起こすことになった。

    ネット上の反応を拾ってみると、「日本の大学の知識レベルが下がる」「頭が良くても口下手で物静かな人は落とされるのでは」といった批判的な意見が多く見られた。

    また「ペーパーテストと比べて膨大な手間と人的コストがかかるのではないか」と、面接試験の運用上の困難を懸念する声もあった。そもそも将来性のある多様な人材を評価する能力を、年功序列で居座る大学教授たちが持っているかと厳しい見方もある。

    では、大学生たちを採用する企業側は、この問題をどのように見ているのだろうか? 企業の人事担当者の声を集めてみた。ある出版社で人事担当を勤める男性は「ガリ勉タイプの人を採用したいわけではないが」と前置きした上で、否定的な見解を述べた。

    「うちの会社では、厳しい数値目標に向かって努力できる人を採用したい。しかし、面接試験だと合否基準があいまいになり、当社が求めるような学生を採用しにくくなるのではないか」

    確かに学力テストの上位者ならば、ある程度知能が高いうえに、それなりに努力してきた経験があると想像できる。「学力軽視」の入試によって、学歴のレッテルが分かりにくくなる可能性があるのかもしれない。

    ただ、すでに高校からの内部進学や推薦入学、AO入試などによって、学歴と学力、努力は必ずしも一致しないという声も少なくない。1980年代まで「4人に1人」以下だった4大進学率は、いまや「2人に1人」以上にまで増えている。

    あるメーカーの人事担当者は「早慶と言っても、いまは完全にピンキリ。一人ひとり見極めないと大変なババを引く」と明かし、「すでに多様すぎて苦労している」と嘆いている。

     いっそう問われる大学側の「ビジョン」

    都内のシステム開発会社の採用担当者も、面接試験の導入に否定的だ。ITの世界では、いわゆる「コミュ障」な人が素晴らしいプログラムを書いたりすることがあるが、そうした人は通常の面接では見抜きにくいのだ。

    「例えば人付き合いが下手だけど、四六時中パソコンに向き合って情報技術を交換している人たち。学生の多様性を確保したいそうですが、こういうギーク(コンピュータオタク)な若者が面接試験でフェアに評価されるのか? 個人的には疑わしいですね」

    故スティーブ・ジョブズは、公衆電話で無料通話できる装置を高校生のときに友人と開発している。こういう型破りな人材を評価するのは簡単ではない。

    とはいえ、新しい選抜方法は「面接」だけとは限らず、これまで勘案されなかったアプリ開発や企業とのコラボ実績なども評価の対象となりうる。実際、ウェブサービスを手掛ける会社の採用担当者は「人物評価の方向性には個人的に賛成」と述べている。

    「いまのままの大学教育では、学生は卒業後に活かせる能力の開発ができない。人物評価の導入を通じて大学側が『どのような学生を育て、社会に送り出すのか』をしっかり考えるようになれば、学生も卒業後のビジョンが明確になり、実社会に出てからのことをしっかり考えるようになるのではないだろうか」

    提言が実現して入試における大学の裁量が拡がれば、大学は「歓迎する学生の志向」をアドミッション・ポリシーとして明確に打ち出しやすくなる。意欲の高い入学者とマッチしやすくなれば、企業の新卒採用にとってもプラスに働くかもしれない。

    (最新の記事は twitter.com/kigyo_insiderへ)  

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