転機を迎える複写機ビジネス…リコー、富士ゼロックス、キヤノンMJは変われるか? 2012年3月22日 企業徹底研究 ツイート 日本メーカーが海外メーカーと比べ圧倒的に強い分野に複写機を中心としたOA機器(事務機器)がある。OA機器の市場は2003年から2007年までは増加を続けてきた。 しかし、07年からは減少に転じ、さらにここへ来て異変が生じている。デジタル技術で高機能化が進み、機器単体の性能でメーカーごとの差がなくなってきたからだ。 特に複写機ビジネスは、製品を販売して、トナーなどの消耗品需要に頼る従来のビジネスモデルから転換し、運用や管理を一括で請け負うサービスで各社が競う、新しい段階に入ったと言われている。 複写機ビジネスで激しい競争を繰り広げているのが、市場シェア上位のリコー、富士ゼロックス、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の3社だ。トップの3社の社員は、急速に進む市場の構造転換と自社の対応について、どう見ているのか。キャリコネの口コミから追ってみた。 ◇ リコー 社員は複写機偏重の事業構造に不安感 シェアトップのリコーは2012年3月期に初めて連結最終赤字に転落する見通しだ。主な要因は、米国での販売の苦戦だ。そのため、昨年5月から3年間で1万人以上という過去最大の人員削減に着手。生産面でも国内工場の集約・統合の検討を始めている。 口コミを見ると、リコーの社員が口を揃えて言うのが、複写機に依存しすぎている経営体制への不安だ。さらに、社員が先行きを見通すという点で経営者より的確に状況を把握している印象を受ける。 例えば、30代前半の男性社員は「事業の柱が複写機一本で、ビジネスポートフォリオが偏っている」と指摘している。この男性社員の話が続く。 「近年のペーパーレスの流れもあり、将来的にこのままではまずい状況になることが予想される。会社も新規事業に力を入れているが、収益の柱となる事業とまでは成長する見込みが今のところはなく、先行きが不安な状況」 しかし、会社の将来を心配する社員がいる一方で、大企業ということもあり、現状に安穏とする社員もいるようだ。 「過去のビジネスモデルに依存しているため、社内には危機感の感じられない人間も多い」 と、プログラマーの男性社員(29)は言う。この男性社員は、会社を変えるためには、中高年の処遇を中心とした改革が必要だと訴えている。 「社員数が多いため、必要のないと思われる仕事も結構あり、そのような仕事に就いている中高年が高い報酬を得ている。今後、企業としての成長を考えるには、社内の組織変革、人事制度見直しが必要だと思う」 ◇ 富士ゼロックスも複写機頼み 危機感広がるがチャンスと見る社員も 英ランク・ゼロックス社と富士フイルムの合弁企業で、「日本で最も成功した合弁企業」と言われた富士ゼロックス。シェア2位で優良企業の呼び声が高い。こちらも複写機ビジネスの環境が変化してるにもかかわらず、会社が複写機事業の“一本足打法”になっていることに、社員は戸惑っているようだ。20代後半の男性社員が言う。 「とにかくコピー機を売った人だけが評価される」 この男性の話が続く。 「会社全体ではソリューション営業への変革をキーとしているようだが、結局はコピー機の販売台数や、それに伴い他社機を市場から排除した数だけが評価される」 別の20代後半の男性社員も「ゼログラフィーに依存した経営体質から抜け出せていない」と、同様の意見を寄せている。さらに、こう続けている。 「経営者も本腰を入れてサービス中心の収益構造に転換を図っているが、まだ道半ば。会社設立以来の大転換だと思うので簡単ではないが、複写機以外の収益の柱を築けなければ未来は危うい」 一方で、この男性社員は、こうした状況を「反面、自分たちにとってはチャンスでもある」と前向きに捉えており、新たなビジネスを模索することに意欲的だ。 ◇ キャノンMJ 現状に満足で新規事業への足並みそろわず キヤノンの製品販売を一手に手がけるキヤノンMJはどうだろうか。男性社員(37)は、自信たっぷりに自分の会社について言う。 「安定した収益を上げている製品があり、現時点では問題はないように見える。また、販売会社として販売網・個々の営業力どれをとっても一流であると思われる」 ただ、現状では好調な製品が、今後も安定した利益を生み出すとは限らない。セールスエンジニアの男性社員(39)は、こうした状況に危機感を抱いていると言う。 「収益の多くが既存分野に偏っており、キヤノン製品の商品力が低下した場合のリスクヘッジがされていない」 この点は、どの社員も不安に思っているようで、前出の自社について胸を張っていた37歳の男性社員も「新規製品の開発が喫緊の課題である」と話している。 将来に目を向ければ、新たな製品やサービスの展開は当然のことだろう。しかし、同社ではそうした意欲が低く、足並みもそろっていないようだ。このセールスエンジニアの男性社員は、こう嘆いている。 「新規分野への挑戦力が低い。挑戦は行っているが、会社として統合された動きではなく企業や組織としてサポートする力に欠ける」 1960年代からキヤノン、リコー、旧コニカ、旧ミノルタなど日本の精密機器メーカーは圧倒的な技術を誇った米ゼロックスに追いつき追い越せと製品開発に注力。1990年代には小型・高性能機を中心にゼロックスと肩を並べるまでになった。しかし、現在は複写機の差別化が図りにくくなり、「とりあえず事務機が売れれば収益は安泰」とは言えなくなって来ている。 複写機メーカー3社の口コミからは、こうした変わる事業環境に対して、既存のビジネスから抜け切れずにいる会社に警鐘を鳴らしたり、前向きに取り組もうとする社員の声を聞くことができた。ただ、市場が変革を迫るのはこれからが本番。各社の戦略転換は本格化するが、新たな収益基盤を築き、社員の不安を取り除くことができるのか。その行方は平坦ではない。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年2月末現在、45万社、16万6000件の口コミが登録されています。
転機を迎える複写機ビジネス…リコー、富士ゼロックス、キヤノンMJは変われるか?
日本メーカーが海外メーカーと比べ圧倒的に強い分野に複写機を中心としたOA機器(事務機器)がある。OA機器の市場は2003年から2007年までは増加を続けてきた。
しかし、07年からは減少に転じ、さらにここへ来て異変が生じている。デジタル技術で高機能化が進み、機器単体の性能でメーカーごとの差がなくなってきたからだ。
特に複写機ビジネスは、製品を販売して、トナーなどの消耗品需要に頼る従来のビジネスモデルから転換し、運用や管理を一括で請け負うサービスで各社が競う、新しい段階に入ったと言われている。
複写機ビジネスで激しい競争を繰り広げているのが、市場シェア上位のリコー、富士ゼロックス、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の3社だ。トップの3社の社員は、急速に進む市場の構造転換と自社の対応について、どう見ているのか。キャリコネの口コミから追ってみた。
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リコー 社員は複写機偏重の事業構造に不安感
シェアトップのリコーは2012年3月期に初めて連結最終赤字に転落する見通しだ。主な要因は、米国での販売の苦戦だ。そのため、昨年5月から3年間で1万人以上という過去最大の人員削減に着手。生産面でも国内工場の集約・統合の検討を始めている。
口コミを見ると、リコーの社員が口を揃えて言うのが、複写機に依存しすぎている経営体制への不安だ。さらに、社員が先行きを見通すという点で経営者より的確に状況を把握している印象を受ける。
例えば、30代前半の男性社員は「事業の柱が複写機一本で、ビジネスポートフォリオが偏っている」と指摘している。この男性社員の話が続く。
「近年のペーパーレスの流れもあり、将来的にこのままではまずい状況になることが予想される。会社も新規事業に力を入れているが、収益の柱となる事業とまでは成長する見込みが今のところはなく、先行きが不安な状況」
しかし、会社の将来を心配する社員がいる一方で、大企業ということもあり、現状に安穏とする社員もいるようだ。
「過去のビジネスモデルに依存しているため、社内には危機感の感じられない人間も多い」
と、プログラマーの男性社員(29)は言う。この男性社員は、会社を変えるためには、中高年の処遇を中心とした改革が必要だと訴えている。
「社員数が多いため、必要のないと思われる仕事も結構あり、そのような仕事に就いている中高年が高い報酬を得ている。今後、企業としての成長を考えるには、社内の組織変革、人事制度見直しが必要だと思う」
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富士ゼロックスも複写機頼み 危機感広がるがチャンスと見る社員も
英ランク・ゼロックス社と富士フイルムの合弁企業で、「日本で最も成功した合弁企業」と言われた富士ゼロックス。シェア2位で優良企業の呼び声が高い。こちらも複写機ビジネスの環境が変化してるにもかかわらず、会社が複写機事業の“一本足打法”になっていることに、社員は戸惑っているようだ。20代後半の男性社員が言う。
「とにかくコピー機を売った人だけが評価される」
この男性の話が続く。
「会社全体ではソリューション営業への変革をキーとしているようだが、結局はコピー機の販売台数や、それに伴い他社機を市場から排除した数だけが評価される」
別の20代後半の男性社員も「ゼログラフィーに依存した経営体質から抜け出せていない」と、同様の意見を寄せている。さらに、こう続けている。
「経営者も本腰を入れてサービス中心の収益構造に転換を図っているが、まだ道半ば。会社設立以来の大転換だと思うので簡単ではないが、複写機以外の収益の柱を築けなければ未来は危うい」
一方で、この男性社員は、こうした状況を「反面、自分たちにとってはチャンスでもある」と前向きに捉えており、新たなビジネスを模索することに意欲的だ。
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キャノンMJ 現状に満足で新規事業への足並みそろわず
キヤノンの製品販売を一手に手がけるキヤノンMJはどうだろうか。男性社員(37)は、自信たっぷりに自分の会社について言う。
「安定した収益を上げている製品があり、現時点では問題はないように見える。また、販売会社として販売網・個々の営業力どれをとっても一流であると思われる」
ただ、現状では好調な製品が、今後も安定した利益を生み出すとは限らない。セールスエンジニアの男性社員(39)は、こうした状況に危機感を抱いていると言う。
「収益の多くが既存分野に偏っており、キヤノン製品の商品力が低下した場合のリスクヘッジがされていない」
この点は、どの社員も不安に思っているようで、前出の自社について胸を張っていた37歳の男性社員も「新規製品の開発が喫緊の課題である」と話している。
将来に目を向ければ、新たな製品やサービスの展開は当然のことだろう。しかし、同社ではそうした意欲が低く、足並みもそろっていないようだ。このセールスエンジニアの男性社員は、こう嘆いている。
「新規分野への挑戦力が低い。挑戦は行っているが、会社として統合された動きではなく企業や組織としてサポートする力に欠ける」
1960年代からキヤノン、リコー、旧コニカ、旧ミノルタなど日本の精密機器メーカーは圧倒的な技術を誇った米ゼロックスに追いつき追い越せと製品開発に注力。1990年代には小型・高性能機を中心にゼロックスと肩を並べるまでになった。しかし、現在は複写機の差別化が図りにくくなり、「とりあえず事務機が売れれば収益は安泰」とは言えなくなって来ている。
複写機メーカー3社の口コミからは、こうした変わる事業環境に対して、既存のビジネスから抜け切れずにいる会社に警鐘を鳴らしたり、前向きに取り組もうとする社員の声を聞くことができた。ただ、市場が変革を迫るのはこれからが本番。各社の戦略転換は本格化するが、新たな収益基盤を築き、社員の不安を取り除くことができるのか。その行方は平坦ではない。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年2月末現在、45万社、16万6000件の口コミが登録されています。