電子書籍市場 出版デジタル機構発足 会社も参加出版社も販売には無関心? 2012年5月29日 企業徹底研究 ツイート 大手出版社や印刷会社が出資し、電子書籍の普及促進を目的にした新会社「出版デジタル機構」が4月2日に発足し、活動を開始した。 同社が手掛けるのは書籍の電子化と電子書店への取り次ぎサービス。具体的には、賛同出版社の書籍の電子化を下請けし、電子書店に卸す。 機構では電子化費用は電子書籍の売り上げから回収し、回収が終わった時点で販売権を出版社に返還する。5年間で100万点の紙書籍を電子化し、紙書籍市場の10%にあたる2000億円規模の電子書籍市場創出を目指している。 ◇ 出版社は出資するが既存ビジネスに安住 同社の資本金は当面約40億円。5年後には170億円まで増資する。このうち、20億円を講談社、小学館、大日本印刷、凸版印刷など15社が出資し。残りを官民ファンドの産業革新機構が出資する。 また、5月23日現在で大手、中小などを含めた326社が「賛同出版社」として参加。参加社は今後も増える見通しだ。 では、同社に出資した出版社はどんな会社なのだろうか。キャリコネの口コミで見てみよう。まずは講談社だ。 「正社員は能力のあるなしに関わらず異常な高給を貰っている。アイデアや能力はフリーランスや契約社員などに出させて、彼らにその報酬はなし。とにかく正社員に緩すぎる会社」 と、講談社に勤めるフリー編集者の20代後半の女性は憤慨している。 講談社はすでに2万点の電子書籍を刊行しており、点数は業界トップ。今年6月からの新刊は紙書籍と電子書籍を同時刊行すると発表している。 だが「電子出版の売上高は紙出版の売上高の1~2%がやっと。社員は電子出版を『赤字製造装置』と陰口を叩いている」(関係者)と利益を得るにはほど遠い現状だ。 小学館はどうだろうか。28歳の男性社員はこう書き込んでいる。 「役員・プロデューサークラスが過去の成功体験で現場に細かく口を出し、現場の活力を失わせる悪循環に陥っている」 老舗出版社も同じような状況のようだ。新潮社の30代後半の女性契約社員はこう言う。 「働かない正社員の厚遇を支えるために非正規雇用者にしわ寄せが偏る状態が続き、訴えてもなんら改善しようとしないばかりか、訴えた人間に不利益な処遇をする会社の対応に、モチベーションを保つのが困難」 出版社はこれまで再販制度と書籍取次制度に守られ、他業種のような営業努力をせずに経営ができた。そんな体質からか過去の成功体験に安住し、アイデアも外部まかせといった状況で、新しいビジネスモデル構築には意欲が低いようだ。講談社の例からも推察できるように、電子書籍も紙書籍のCD版程度の認識しかないように思われる。 ◇ 書籍の電子化はするが販売はすべて出版社にお任せ こうした出版社が出資した会社だからか、すでに先行きに暗雲がたれこめている。 3月29日に開かれた出版デジタル機構の設立発表会。壇上に並んだ役員や株主の顔触れを見て「こりゃダメだ」と、出席した電子商店の関係者は直感したという。出版社と印刷会社などコンテンツの作り手ばかりで、一番影響を受ける取り次ぎ(出版流通業)の人間が一人もいなかったからだ。 機構では書籍の電子化の初期コストが不要だ。そのため、「コストの心配はなくなった。我々のような中小出版にはありがたい」と規模の小さな賛同出版社は歓迎している。 一方で、会見では「中小出版社の電子書籍参入を促進するのが当社の目的。販売は出版社にお任せする」とコンテンツ作りの話に終始。流通の施策やコスト回収など事業計画の説明は行われなかったという。 さらに、電子書籍が普及するためには、良質なコンテンツだけでなく、それを読むための電子書籍端末の普及も不可欠だ。だが、端末普及についての考えもまったく言及しなかったという。 書籍の電子化はするが、販売はすべて出版社にお任せ。さらに端末の普及策もない。本当に事業として成り立つのかという、この関係者の不安は確信に変わったという。 ◇ 電子書籍を国費で作ってアマゾンが儲けるだけ? 一方で、国内の電子書籍市場には「黒船」の来航がすぐそこまで迫っている。 朝日新聞デジタルは、米アマゾン・ドットコムが、日本の出版社とキンドル日本語版で配信契約の合意をしたと4月17日に報じた。 合意したのは学研ホールディングス、主婦の友社など中堅・中小の約40社。学研ホールディングス以外は出版デジタル機構の賛同出版社になっていない会社だ。 アマゾンは米国の電子書籍市場では70%近いシェアを占めるといわれている。約100万点の豊富な品揃えと便利できめ細かいサービスで瞬く間に米国の電子書籍市場を成長させた。 「出版デジタル機構は書籍電子化コストを負担してくれるが、その後の一番肝心な販売戦略がない。アマゾンはコスト負担をしてくれないが販売戦略が明確。出版社にとってどっちが得かは明白」と関係者は言い、生き残りにシビアな出版社が参加した格好だ。 その、出版デジタル機構の電子化コストも、実は国費と言っても過言ではない。なぜなら最大株主の産業革新機構は官民ファンドと称しているが、出資金1520億1000万円のうち93%が国費で、実態は政府ファンドだからだ。 関係者は「150億円の国費投入で100万点の電子書籍を作って一番喜ぶのはアマゾン。同社は濡れ手に粟でわが国電子書籍市場でも大儲けできる」と指摘している。今後、アマゾンが市場を席巻することになれば機構に参加する出版社も「鞍替え」に動きかねないだろう。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年4月末現在、45万社、17万件の口コミが登録されています。
電子書籍市場 出版デジタル機構発足 会社も参加出版社も販売には無関心?
大手出版社や印刷会社が出資し、電子書籍の普及促進を目的にした新会社「出版デジタル機構」が4月2日に発足し、活動を開始した。
同社が手掛けるのは書籍の電子化と電子書店への取り次ぎサービス。具体的には、賛同出版社の書籍の電子化を下請けし、電子書店に卸す。
機構では電子化費用は電子書籍の売り上げから回収し、回収が終わった時点で販売権を出版社に返還する。5年間で100万点の紙書籍を電子化し、紙書籍市場の10%にあたる2000億円規模の電子書籍市場創出を目指している。
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出版社は出資するが既存ビジネスに安住
同社の資本金は当面約40億円。5年後には170億円まで増資する。このうち、20億円を講談社、小学館、大日本印刷、凸版印刷など15社が出資し。残りを官民ファンドの産業革新機構が出資する。
また、5月23日現在で大手、中小などを含めた326社が「賛同出版社」として参加。参加社は今後も増える見通しだ。
では、同社に出資した出版社はどんな会社なのだろうか。キャリコネの口コミで見てみよう。まずは講談社だ。
「正社員は能力のあるなしに関わらず異常な高給を貰っている。アイデアや能力はフリーランスや契約社員などに出させて、彼らにその報酬はなし。とにかく正社員に緩すぎる会社」
と、講談社に勤めるフリー編集者の20代後半の女性は憤慨している。
講談社はすでに2万点の電子書籍を刊行しており、点数は業界トップ。今年6月からの新刊は紙書籍と電子書籍を同時刊行すると発表している。
だが「電子出版の売上高は紙出版の売上高の1~2%がやっと。社員は電子出版を『赤字製造装置』と陰口を叩いている」(関係者)と利益を得るにはほど遠い現状だ。
小学館はどうだろうか。28歳の男性社員はこう書き込んでいる。
「役員・プロデューサークラスが過去の成功体験で現場に細かく口を出し、現場の活力を失わせる悪循環に陥っている」
老舗出版社も同じような状況のようだ。新潮社の30代後半の女性契約社員はこう言う。
「働かない正社員の厚遇を支えるために非正規雇用者にしわ寄せが偏る状態が続き、訴えてもなんら改善しようとしないばかりか、訴えた人間に不利益な処遇をする会社の対応に、モチベーションを保つのが困難」
出版社はこれまで再販制度と書籍取次制度に守られ、他業種のような営業努力をせずに経営ができた。そんな体質からか過去の成功体験に安住し、アイデアも外部まかせといった状況で、新しいビジネスモデル構築には意欲が低いようだ。講談社の例からも推察できるように、電子書籍も紙書籍のCD版程度の認識しかないように思われる。
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書籍の電子化はするが販売はすべて出版社にお任せ
こうした出版社が出資した会社だからか、すでに先行きに暗雲がたれこめている。
3月29日に開かれた出版デジタル機構の設立発表会。壇上に並んだ役員や株主の顔触れを見て「こりゃダメだ」と、出席した電子商店の関係者は直感したという。出版社と印刷会社などコンテンツの作り手ばかりで、一番影響を受ける取り次ぎ(出版流通業)の人間が一人もいなかったからだ。
機構では書籍の電子化の初期コストが不要だ。そのため、「コストの心配はなくなった。我々のような中小出版にはありがたい」と規模の小さな賛同出版社は歓迎している。
一方で、会見では「中小出版社の電子書籍参入を促進するのが当社の目的。販売は出版社にお任せする」とコンテンツ作りの話に終始。流通の施策やコスト回収など事業計画の説明は行われなかったという。
さらに、電子書籍が普及するためには、良質なコンテンツだけでなく、それを読むための電子書籍端末の普及も不可欠だ。だが、端末普及についての考えもまったく言及しなかったという。
書籍の電子化はするが、販売はすべて出版社にお任せ。さらに端末の普及策もない。本当に事業として成り立つのかという、この関係者の不安は確信に変わったという。
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電子書籍を国費で作ってアマゾンが儲けるだけ?
一方で、国内の電子書籍市場には「黒船」の来航がすぐそこまで迫っている。
朝日新聞デジタルは、米アマゾン・ドットコムが、日本の出版社とキンドル日本語版で配信契約の合意をしたと4月17日に報じた。
合意したのは学研ホールディングス、主婦の友社など中堅・中小の約40社。学研ホールディングス以外は出版デジタル機構の賛同出版社になっていない会社だ。
アマゾンは米国の電子書籍市場では70%近いシェアを占めるといわれている。約100万点の豊富な品揃えと便利できめ細かいサービスで瞬く間に米国の電子書籍市場を成長させた。
「出版デジタル機構は書籍電子化コストを負担してくれるが、その後の一番肝心な販売戦略がない。アマゾンはコスト負担をしてくれないが販売戦略が明確。出版社にとってどっちが得かは明白」と関係者は言い、生き残りにシビアな出版社が参加した格好だ。
その、出版デジタル機構の電子化コストも、実は国費と言っても過言ではない。なぜなら最大株主の産業革新機構は官民ファンドと称しているが、出資金1520億1000万円のうち93%が国費で、実態は政府ファンドだからだ。
関係者は「150億円の国費投入で100万点の電子書籍を作って一番喜ぶのはアマゾン。同社は濡れ手に粟でわが国電子書籍市場でも大儲けできる」と指摘している。今後、アマゾンが市場を席巻することになれば機構に参加する出版社も「鞍替え」に動きかねないだろう。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年4月末現在、45万社、17万件の口コミが登録されています。