少子化で健闘する学習塾 「安月給」で「サービス残業多い」業界の現実 2012年6月7日 企業徹底研究 ツイート 「学習塾」は、少子化の中でも着実に成長している業界だ。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、学習塾は売上高、受講生とも、右肩上がりで伸びている。 伸びた理由にあげられるのが「ゆとり教育の見直し」だ。過去にも親の教育に対する不安が高まると、学習塾は成長してきた。 学習塾は、全般的な傾向として正社員よりもアルバイト講師など非正規雇用の社員のほうが多い。その比率は2011年度は30・5%対69・5%と、構造的には流通業や外食産業に似ている。 成長が続く学習塾とは、どんな産業なのだろうか。キャリコネに寄せられた学習塾を展開する企業の口コミから業界について検証してみよう。 ◇ 教室長の仕事は外食チェーンの店長そっくり 学習塾は、大都市圏の駅周辺にある雑居ビルの2階、3階のフロアを借りて教室を開き、1人の教室長(正社員)のもと、常勤、非常勤講師数名が生徒を指導するというのが標準的なパターンだ。 教室長は日々、生徒の獲得、計数管理、講師の人事管理や親からのクレームの処理などに追われる。オペレーションのマニュアルをたたき込まれ、厳しい生徒獲得目標、売上目標、利益目標を課せられるのは外食チェーンの店長そっくりだ。 合格実績や成績向上のような成果があがらず親の満足度が低いと生徒はライバル塾に流出してしまい、責任を問われる。ゆとりがありそうに見える非常勤講師も常に授業内容の「品質」を管理され、求められるレベルに達しないと淘汰される。 こうした学習塾チェーン間の熾烈な競争に勝ち残り、現在、業界の上位を占めるのが下の表にある10社だ。 業界トップ3の明光ネットワークジャパン、栄光ゼミナール、市進は、どれも上場企業。有名中学・高校への進学塾、補習塾、個別指導教室などを兼ね備えた総合型学習塾で、全国的にチェーン展開している。 ただ、急成長しても業界環境は厳しいようだ。 「少子化の中で業績を伸ばしていくのは大変だと思う。教室数を増やすだけ増やしていかないと経営が成り立っていかない」 と、明光の20代後半の女性社員は述べており、各社ともに生き残りへの切迫感は変わらないと思われる。 そして、「社員に会社から求められる事は、何人生徒を入れたか、だけ」(栄光の20代後半の男性社員)という数の拡大最優先の方針とコストの切り詰めに走っているのが現状のようだ。 また、上位3社の口コミを見ると「手取りで22万円/月。ボーナスほぼ無し(冬で10万円程度)」(栄光の20代後半の男性社員)、「月に40時間に近いサービス残業」(栄光の20代前半の女性社員)など、どこも「給料が安い」「サービス残業が恒常化している」という指摘が多い。 教室長が何から何まで1人でやっていて、「せめて副室長を置いたほうがいい」(明光の20代後半の男性社員)という声も聞かれる。 そうは言っても「結果を出すためにはサービス残業は必須」(市進の20代前半の男性社員)という。 また、市進に限ると、講師からは「時給が高い」「残業代がかなりついた」といった口コミが目立つが、20代前半の男性契約社員は「実働3時間で7000円程度と他の派遣に比べて高い方である」と言いながら「毎年給与は下がっている」という。 しかし、「たとえ合格実績がよくても、退会者の多い教師は、ダメなやつとみなされる」(30代前半の男性契約社員)という書き込みもあり、締め付けはかなり厳しいようだ。 一方、栄光の場合、講師はアルバイトの大学生が多数を占めるためか、「気楽なアルバイト感覚で来ているものが多く、マネジメントが大変」(20代後半の男性社員)、「学生時代にアルバイトを多くこなした人が社員になるケースが非常に多くそういった人ほど出世する傾向にある」(20代前半の男性社員)と、社員から別の嘆きも聞こえてくる。 ◇ 「先生」が商売人に安い報酬でこき使われる業界 「教職への夢を捨てきれず塾講師に」とはよく聞く話だが、人気講師になっても出世できるかはまた別問題だ。 「『営業マンタイプ』と『先生タイプ』が混在しているが、会社がスタンダードとして要求しているのは間違いなく『営業マンタイプ』であり、それに属する人が管理職に昇進している」(明光の30代前半の男性社員)と言うように、実際は人気のある「先生」が商売人に安い報酬でこき使われているのが実態のようだ。 こうした、辛いことも少なくないが「子どもが日々成長する姿を実感できるのは、とても嬉しい」(栄光の20代後半の女性社員)、「成績があがったり志望校に合格したときに感動してしまう」(明光の20代後半の男性社員)というやりがいがあるからこそ、がんばれるのだろう。 こうした学習塾の仕事について、「自分の時間を犠牲にして生徒と苦楽をともにできる人に向いている仕事である」と、市進の30代前半の契約社員は述べている。 ◇ 異業種も続々参入 波乱含みの業界再編も 学習塾は同業者間の競争の他、通信教育や家庭教師派遣も手強い競争相手で、こうした業種が参入してくる動きも目立っている。 「進研ゼミ」で有名なベネッセは、東京個別指導学院を買収し、明光に資本参加した。「Z会」の増進会出版社も、栄光と資本・業務提携を行っている。増進会出版社は市進の大株主でもある。 学研ホールディングスも栄光に資本参加し、市進とは業務提携している。大手予備校は難関中学受験のブランド塾に触手を伸ばし、傘下におさめたり提携関係を結んだりしている。 また、2011年9月には、さなるが、栄光の創業者が売却した株を買い集めて大型買収を行った。成功するかと思いきや、栄光が第三者割当増資を実施。増進会出版社が筆頭株主に躍り出て、敵対的買収を防ぐという騒ぎも起きている。 さらに、最近では眼鏡店チェーンやフィットネスクラブまでもが学習塾に参入。今や「何でもあり」の状況だ。学習塾業界では今後、業界再編がらみで何が起きても不思議ではない。どこが最後に勝ち残れるか、誰にもわからない。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。 また、2011年9月には、さなるが栄光の創業者が売却した株を買い集めて大型買収を行った。
少子化で健闘する学習塾 「安月給」で「サービス残業多い」業界の現実
「学習塾」は、少子化の中でも着実に成長している業界だ。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、学習塾は売上高、受講生とも、右肩上がりで伸びている。
伸びた理由にあげられるのが「ゆとり教育の見直し」だ。過去にも親の教育に対する不安が高まると、学習塾は成長してきた。
学習塾は、全般的な傾向として正社員よりもアルバイト講師など非正規雇用の社員のほうが多い。その比率は2011年度は30・5%対69・5%と、構造的には流通業や外食産業に似ている。
成長が続く学習塾とは、どんな産業なのだろうか。キャリコネに寄せられた学習塾を展開する企業の口コミから業界について検証してみよう。
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教室長の仕事は外食チェーンの店長そっくり
学習塾は、大都市圏の駅周辺にある雑居ビルの2階、3階のフロアを借りて教室を開き、1人の教室長(正社員)のもと、常勤、非常勤講師数名が生徒を指導するというのが標準的なパターンだ。
教室長は日々、生徒の獲得、計数管理、講師の人事管理や親からのクレームの処理などに追われる。オペレーションのマニュアルをたたき込まれ、厳しい生徒獲得目標、売上目標、利益目標を課せられるのは外食チェーンの店長そっくりだ。
合格実績や成績向上のような成果があがらず親の満足度が低いと生徒はライバル塾に流出してしまい、責任を問われる。ゆとりがありそうに見える非常勤講師も常に授業内容の「品質」を管理され、求められるレベルに達しないと淘汰される。
こうした学習塾チェーン間の熾烈な競争に勝ち残り、現在、業界の上位を占めるのが下の表にある10社だ。
業界トップ3の明光ネットワークジャパン、栄光ゼミナール、市進は、どれも上場企業。有名中学・高校への進学塾、補習塾、個別指導教室などを兼ね備えた総合型学習塾で、全国的にチェーン展開している。
ただ、急成長しても業界環境は厳しいようだ。
「少子化の中で業績を伸ばしていくのは大変だと思う。教室数を増やすだけ増やしていかないと経営が成り立っていかない」
と、明光の20代後半の女性社員は述べており、各社ともに生き残りへの切迫感は変わらないと思われる。
そして、「社員に会社から求められる事は、何人生徒を入れたか、だけ」(栄光の20代後半の男性社員)という数の拡大最優先の方針とコストの切り詰めに走っているのが現状のようだ。
また、上位3社の口コミを見ると「手取りで22万円/月。ボーナスほぼ無し(冬で10万円程度)」(栄光の20代後半の男性社員)、「月に40時間に近いサービス残業」(栄光の20代前半の女性社員)など、どこも「給料が安い」「サービス残業が恒常化している」という指摘が多い。
教室長が何から何まで1人でやっていて、「せめて副室長を置いたほうがいい」(明光の20代後半の男性社員)という声も聞かれる。
そうは言っても「結果を出すためにはサービス残業は必須」(市進の20代前半の男性社員)という。
また、市進に限ると、講師からは「時給が高い」「残業代がかなりついた」といった口コミが目立つが、20代前半の男性契約社員は「実働3時間で7000円程度と他の派遣に比べて高い方である」と言いながら「毎年給与は下がっている」という。
しかし、「たとえ合格実績がよくても、退会者の多い教師は、ダメなやつとみなされる」(30代前半の男性契約社員)という書き込みもあり、締め付けはかなり厳しいようだ。
一方、栄光の場合、講師はアルバイトの大学生が多数を占めるためか、「気楽なアルバイト感覚で来ているものが多く、マネジメントが大変」(20代後半の男性社員)、「学生時代にアルバイトを多くこなした人が社員になるケースが非常に多くそういった人ほど出世する傾向にある」(20代前半の男性社員)と、社員から別の嘆きも聞こえてくる。
◇
「先生」が商売人に安い報酬でこき使われる業界
「教職への夢を捨てきれず塾講師に」とはよく聞く話だが、人気講師になっても出世できるかはまた別問題だ。
「『営業マンタイプ』と『先生タイプ』が混在しているが、会社がスタンダードとして要求しているのは間違いなく『営業マンタイプ』であり、それに属する人が管理職に昇進している」(明光の30代前半の男性社員)と言うように、実際は人気のある「先生」が商売人に安い報酬でこき使われているのが実態のようだ。
こうした、辛いことも少なくないが「子どもが日々成長する姿を実感できるのは、とても嬉しい」(栄光の20代後半の女性社員)、「成績があがったり志望校に合格したときに感動してしまう」(明光の20代後半の男性社員)
というやりがいがあるからこそ、がんばれるのだろう。
こうした学習塾の仕事について、「自分の時間を犠牲にして生徒と苦楽をともにできる人に向いている仕事である」と、市進の30代前半の契約社員は述べている。
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異業種も続々参入 波乱含みの業界再編も
学習塾は同業者間の競争の他、通信教育や家庭教師派遣も手強い競争相手で、こうした業種が参入してくる動きも目立っている。
「進研ゼミ」で有名なベネッセは、東京個別指導学院を買収し、明光に資本参加した。「Z会」の増進会出版社も、栄光と資本・業務提携を行っている。増進会出版社は市進の大株主でもある。
学研ホールディングスも栄光に資本参加し、市進とは業務提携している。大手予備校は難関中学受験のブランド塾に触手を伸ばし、傘下におさめたり提携関係を結んだりしている。
また、2011年9月には、さなるが、栄光の創業者が売却した株を買い集めて大型買収を行った。成功するかと思いきや、栄光が第三者割当増資を実施。増進会出版社が筆頭株主に躍り出て、敵対的買収を防ぐという騒ぎも起きている。
さらに、最近では眼鏡店チェーンやフィットネスクラブまでもが学習塾に参入。今や「何でもあり」の状況だ。学習塾業界では今後、業界再編がらみで何が起きても不思議ではない。どこが最後に勝ち残れるか、誰にもわからない。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。