成長するネット通販市場 千趣会、デル、アマゾンの企業体質 2012年6月20日 企業徹底研究 ツイート 小売市場が低迷している中、通販分野が伸び続けている。富士経済の調査によると、2010年の通販市場は、前年比10・3%増の約6兆3000億円。小売市場の5%を占め、百貨店とほぼ肩を並べる規模だ。その伸びを牽引するのがネット通販。通販全体の60%を超える割合になっている。 これまで通販は、百貨店などのカタログ通販、「テレビショッピング」が流行語にもなったテレビ通販といったサービスが中心だった。しかし、インターネットの登場で、90年代後半からネット通販が台頭。通販の主役に躍り出た。 最近では、カタログ通販とネット通販の兼営といった通販事業の多角化も活発化してきている。成長する通販のプレーヤーはどんな会社なのだろうか。キャリコネの口コミから見てみよう。 ◇ 社員を大事にする社風の千趣会 総合通販の元祖的存在の千趣会。1955年に女性社員をターゲットにした、こけしの職域販売からスタートし、それを事業基盤に月刊料理誌『クック』を発行。今度はそれを販路に下着、靴下、ハンカチなど婦人用衣料・小物の郵送販売で事業を拡大した。 さらに76年、カタログ誌『ベルメゾン』を発行、婦人用服飾衣料、服飾雑貨、日用雑貨、家具、インテリアなどの通販事業を本格的に開始し、現在の大手総合通販へ成長した。20~50代の女性約1200万人を会員に囲っており、安定した経営を続けている。 カタログ通販のイメージが強い千趣会だが、今ではネット通販が売上高の半分以上を占めており、ネット通販の大手だ。 老舗通販会社といえる同社。社員の口コミを見ると、ワークライフバランスの良さを伝える書き込みが多い。 例えば30代後半の男性社員は、こう書き込んでいる。 「社員に優しい働きやすい会社だ。産休、育休、介護休暇も取りやすいし、取っている人も多い。子供が生まれると社長から祝い金がもらえたり」 派遣社員の20代後半の女性も、休暇取得者が出ると「他の人への負担にならない程度に割り振ったり(仕事を)、新しい人を採用するなど、育児休暇に入る人が抜けても仕事が回るようその都度態勢を整えていた」と振り返っている。 同社は女性に寄り添う「ウーマンスマイルカンパニー」を標榜している。そのため、女性の活用とワークライフバランスに関しては真面目に取り組んでいるようだ。 社風も穏やかなようで、20代後半の男性社員は「人間関係のストレスなどあまり感じることはない」と述べている。 ただ、ネット通販の伸びているにもかかわらず、社内には既存のビジネスモデルに固執する雰囲気もあるようだ。23歳の男性社員が言う。 「未だにカタログベースの志向にとらわれているところが問題。(略)ネット通販のビジネスに消極的な見方をしている人が多い」 こうした声もある中、昨年からはカタログ通販部門とネット通販部門を分離。ネット通販事業の強化を図る積極的な動きも見せている。 関係者は「田邉道夫社長は叩き上げで、通販事業を知悉した人。社員を大事にする会社なので社内の活力も高い。当分の間、業界上位の座は揺るがないだろう」と見ている。 ◇ 方針は朝令暮改、利益が最優先のデル 続いてはITのネット通販。中でもデルはネット通販の申し子のようなパソコンメーカーだ。当初から通販を前提に会社を設立している。 注文生産、部品在庫を最小限に抑える「低在庫オペレーション」、社内で「バーチャルインテグレーション」と呼ぶ受注から顧客サポートまでを一元管理するサプライチェーンマネジメントの2つを組み合わせた「デルモデル」と呼ばれる独特のビジネスモデルで成長してきた。 同社は処遇については実力主義を徹底しているようだ。 「率先して手を挙げないと上にはゆけない。また、ポジションが空いた場合のみ社内公募がある。学歴は関係なく、実力とやる気があれば上のポジションに応募できる」 こう書き込んでいるのは、20代前半の男性社員だ。 しかし、業務運営はかなり雑なようだ。朝令暮改の経営方針に社員は振り回されている。40代後半の男性社員は次のように訴えている。 「常にリソース不足で、大量の仕事を効率よく進めることが要求され、時には過重労働となる場合もある。また、常に変化する方針のため、すでに履行した業務が無駄となる場合もあり、虚しさを感じることもある。また、十分に検討せずに方針が決定されることもあり、危うさを感じることもたびたび」 また、短期的利益を優先する同社では、技術者の「丁寧な仕事」は無視されるという。29歳男性社員が言う。 「単なる数字を稼ぐためのマシーンとなり、感情をある程度ころして仕事をしなければならない。(略)構築作業においても、欠陥住宅のように品質面で妥協せざるを得ないことも多い」 同社は「お客様を第一に考えております」との「デル・ストーリー」で延々と顧客志向と技術の優秀さをアピールしている。 しかし、顧客サポートやオンライン注文のトラブル、製品の不具合などの問題をしばしば起こしている。雇用でも派遣社員に関して職業安定法違反で罰金刑を課されるなど、コンプライアンス(法令遵守)問題も引き起こしており、表と裏のギャップが大きい。 「社会的になった問題でも真剣に改善しようとの雰囲気が感じられない。デルジャパンにしても本国の指示が最優先で、日本市場に溶け込もうとの意欲も薄い」と同社の関係者は指摘している。 ◇ スピードとバイタリティで成長中のアマゾンジャパン ネット通販で世界的に急成長した会社もある。それが米アマゾン・ドット・コムだ。アマゾンは2000年11月には日本語版サイト「Amazon.co.jp」を開設。日本市場に参入した。 当初は書籍・雑誌のネット通販からスタート。その後取扱品目を拡大、現在は食品から自動車まで扱う総合ネット通販まで成長した。売上高は国内外とも業界最大を誇る。 国内では日本法人のアマゾンジャパンが事業を展開している。事業開始以来、毎年2ケタ成長を続けてきたせいか、口コミには「スピードの速さ」を伝える書き込みが目立つ。 「とにかくスピードが速い。このスピードの波に乗れない者は振り落とされてゆく」 と言うのは、契約社員で20代後半の男性だ。ただ、職場の定着率は決して高くはないようだ。30代後半の女性社員は「常に人が入れ替わっている印象」と述べている。 また、同社は利益優先の社風らしく、スピードと利益を常に考えられない人にはつらい職場のようだ。20代後半の女性社員が言う。 「能力が高くても成果を上げなければ評価されることはない。(略)急成長中の会社であるから、仕事にもスピーディかつバイタリティがなければ長く勤めることは無理」 同様の書き込みは他にも多い。 関係者は「成長が続いている間は、あらゆる不満が成長エネルギーに吸収されてしまう。しかし、成長速度が落ちた途端、そうして封じられていた不満は一気に爆発する。それが原因で姿を消したベンチャーは数知れない。アマゾンもそろそろ利益優先を考え直す時期に来ている」と忠告している。この関係者の危惧が現実になるのか、同社の動向が注目される。 ◇ 安易な通販進出は自らの首を絞めるだけ ネット通販は実店舗販売とは異なり、消費者が視覚、触覚、嗅覚、味覚を使った商品選択ができない。それだけに、事業者は、消費者に対して、実店舗をしのぐ正確な情報提供や品質管理が求められる。 一見すると単純なようだが、持続的に実現するのは決して容易なことではない。事業者は不断の業務改善努力、人の育成、設備・人材投資などが必要となるからだ。 通販業界には「いける通販、ままならぬ通販」の格言がある。近年は「市場が伸びているから」との安易な動機で通販に進出する企業も珍しくない。こうした便乗組は例外なく「ままならぬ通販」に苦戦している。顧客の顔が直接見えない通販だからこそ、実店舗以上の用意周到な長期的成長戦略が重要なのだ。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
成長するネット通販市場 千趣会、デル、アマゾンの企業体質
小売市場が低迷している中、通販分野が伸び続けている。富士経済の調査によると、2010年の通販市場は、前年比10・3%増の約6兆3000億円。小売市場の5%を占め、百貨店とほぼ肩を並べる規模だ。その伸びを牽引するのがネット通販。通販全体の60%を超える割合になっている。
これまで通販は、百貨店などのカタログ通販、「テレビショッピング」が流行語にもなったテレビ通販といったサービスが中心だった。しかし、インターネットの登場で、90年代後半からネット通販が台頭。通販の主役に躍り出た。
最近では、カタログ通販とネット通販の兼営といった通販事業の多角化も活発化してきている。成長する通販のプレーヤーはどんな会社なのだろうか。キャリコネの口コミから見てみよう。
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社員を大事にする社風の千趣会
総合通販の元祖的存在の千趣会。1955年に女性社員をターゲットにした、こけしの職域販売からスタートし、それを事業基盤に月刊料理誌『クック』を発行。今度はそれを販路に下着、靴下、ハンカチなど婦人用衣料・小物の郵送販売で事業を拡大した。
さらに76年、カタログ誌『ベルメゾン』を発行、婦人用服飾衣料、服飾雑貨、日用雑貨、家具、インテリアなどの通販事業を本格的に開始し、現在の大手総合通販へ成長した。20~50代の女性約1200万人を会員に囲っており、安定した経営を続けている。
カタログ通販のイメージが強い千趣会だが、今ではネット通販が売上高の半分以上を占めており、ネット通販の大手だ。
老舗通販会社といえる同社。社員の口コミを見ると、ワークライフバランスの良さを伝える書き込みが多い。
例えば30代後半の男性社員は、こう書き込んでいる。
「社員に優しい働きやすい会社だ。産休、育休、介護休暇も取りやすいし、取っている人も多い。子供が生まれると社長から祝い金がもらえたり」
派遣社員の20代後半の女性も、休暇取得者が出ると「他の人への負担にならない程度に割り振ったり(仕事を)、新しい人を採用するなど、育児休暇に入る人が抜けても仕事が回るようその都度態勢を整えていた」と振り返っている。
同社は女性に寄り添う「ウーマンスマイルカンパニー」を標榜している。そのため、女性の活用とワークライフバランスに関しては真面目に取り組んでいるようだ。
社風も穏やかなようで、20代後半の男性社員は「人間関係のストレスなどあまり感じることはない」と述べている。
ただ、ネット通販の伸びているにもかかわらず、社内には既存のビジネスモデルに固執する雰囲気もあるようだ。23歳の男性社員が言う。
「未だにカタログベースの志向にとらわれているところが問題。(略)ネット通販のビジネスに消極的な見方をしている人が多い」
こうした声もある中、昨年からはカタログ通販部門とネット通販部門を分離。ネット通販事業の強化を図る積極的な動きも見せている。
関係者は「田邉道夫社長は叩き上げで、通販事業を知悉した人。社員を大事にする会社なので社内の活力も高い。当分の間、業界上位の座は揺るがないだろう」と見ている。
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方針は朝令暮改、利益が最優先のデル
続いてはITのネット通販。中でもデルはネット通販の申し子のようなパソコンメーカーだ。当初から通販を前提に会社を設立している。
注文生産、部品在庫を最小限に抑える「低在庫オペレーション」、社内で「バーチャルインテグレーション」と呼ぶ受注から顧客サポートまでを一元管理するサプライチェーンマネジメントの2つを組み合わせた「デルモデル」と呼ばれる独特のビジネスモデルで成長してきた。
同社は処遇については実力主義を徹底しているようだ。
「率先して手を挙げないと上にはゆけない。また、ポジションが空いた場合のみ社内公募がある。学歴は関係なく、実力とやる気があれば上のポジションに応募できる」
こう書き込んでいるのは、20代前半の男性社員だ。
しかし、業務運営はかなり雑なようだ。朝令暮改の経営方針に社員は振り回されている。40代後半の男性社員は次のように訴えている。
「常にリソース不足で、大量の仕事を効率よく進めることが要求され、時には過重労働となる場合もある。また、常に変化する方針のため、すでに履行した業務が無駄となる場合もあり、虚しさを感じることもある。また、十分に検討せずに方針が決定されることもあり、危うさを感じることもたびたび」
また、短期的利益を優先する同社では、技術者の「丁寧な仕事」は無視されるという。29歳男性社員が言う。
「単なる数字を稼ぐためのマシーンとなり、感情をある程度ころして仕事をしなければならない。(略)構築作業においても、欠陥住宅のように品質面で妥協せざるを得ないことも多い」
同社は「お客様を第一に考えております」との「デル・ストーリー」で延々と顧客志向と技術の優秀さをアピールしている。
しかし、顧客サポートやオンライン注文のトラブル、製品の不具合などの問題をしばしば起こしている。雇用でも派遣社員に関して職業安定法違反で罰金刑を課されるなど、コンプライアンス(法令遵守)問題も引き起こしており、表と裏のギャップが大きい。
「社会的になった問題でも真剣に改善しようとの雰囲気が感じられない。デルジャパンにしても本国の指示が最優先で、日本市場に溶け込もうとの意欲も薄い」と同社の関係者は指摘している。
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スピードとバイタリティで成長中のアマゾンジャパン
ネット通販で世界的に急成長した会社もある。それが米アマゾン・ドット・コムだ。アマゾンは2000年11月には日本語版サイト「Amazon.co.jp」を開設。日本市場に参入した。
当初は書籍・雑誌のネット通販からスタート。その後取扱品目を拡大、現在は食品から自動車まで扱う総合ネット通販まで成長した。売上高は国内外とも業界最大を誇る。
国内では日本法人のアマゾンジャパンが事業を展開している。事業開始以来、毎年2ケタ成長を続けてきたせいか、口コミには「スピードの速さ」を伝える書き込みが目立つ。
「とにかくスピードが速い。このスピードの波に乗れない者は振り落とされてゆく」
と言うのは、契約社員で20代後半の男性だ。ただ、職場の定着率は決して高くはないようだ。30代後半の女性社員は「常に人が入れ替わっている印象」と述べている。
また、同社は利益優先の社風らしく、スピードと利益を常に考えられない人にはつらい職場のようだ。20代後半の女性社員が言う。
「能力が高くても成果を上げなければ評価されることはない。(略)急成長中の会社であるから、仕事にもスピーディかつバイタリティがなければ長く勤めることは無理」
同様の書き込みは他にも多い。
関係者は「成長が続いている間は、あらゆる不満が成長エネルギーに吸収されてしまう。しかし、成長速度が落ちた途端、そうして封じられていた不満は一気に爆発する。それが原因で姿を消したベンチャーは数知れない。アマゾンもそろそろ利益優先を考え直す時期に来ている」と忠告している。この関係者の危惧が現実になるのか、同社の動向が注目される。
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安易な通販進出は自らの首を絞めるだけ
ネット通販は実店舗販売とは異なり、消費者が視覚、触覚、嗅覚、味覚を使った商品選択ができない。それだけに、事業者は、消費者に対して、実店舗をしのぐ正確な情報提供や品質管理が求められる。
一見すると単純なようだが、持続的に実現するのは決して容易なことではない。事業者は不断の業務改善努力、人の育成、設備・人材投資などが必要となるからだ。
通販業界には「いける通販、ままならぬ通販」の格言がある。近年は「市場が伸びているから」との安易な動機で通販に進出する企業も珍しくない。こうした便乗組は例外なく「ままならぬ通販」に苦戦している。顧客の顔が直接見えない通販だからこそ、実店舗以上の用意周到な長期的成長戦略が重要なのだ。
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