造船業界 劣勢の日本メーカー、社員の士気も低く挽回は厳しいか? 2012年7月18日 企業徹底研究 ツイート JFEホールディングスとIHIが今年の10月に、双方の造船子会社を合併することで合意した。合併するのはJFEホールディングス子会社のユニバーサル造船と、IHI子会社のアイ・エイチ・アイマリンユナイテッド。2社に合併合意を決断させたのは「造船業の2014年危機」。この年になると、国内で造る外航船がなくなるのだ。 国際競争力が低下した日本の造船メーカーはいずれも厳しい経営状況に追い込まれている。 世界の新造船の需要は、2008年のリーマンショック以降に縮小。その少ない需要を根こそぎさらおうと中国と韓国の造船メーカーが安値競争を展開。日本メーカーは超円高が追い打ちをかけた。「無理に受注しても赤字を垂れ流すだけ」(造船関係者)の状況では、中韓勢に抗する術もなかった。 日本造船工業会によると、2011年の上期の新造船受注量は385万トンで前年同期比57%もの激減。ウォン安を武器に60%増の受注を確保した韓国の1805万トンの21%しかなかった。 価格競争が激しい中型タンカーに特化している住友重機械工業の場合、11年度は1件も受注できなかった。このままだと受注残が13年6月になくなるといわれている。ユニバーサル造船、アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド、川崎重工業も今後2年で受注残がなくなる見込みだ。 果たして、「造船ニッポン」の生き残れるだろうか。造船大手のキャリコネの口コミから、その可能性を探ってみた。 ◇ 大手造船の社員はモチベーションが低下する一方 三菱重工の30代前半の男性社員は、硬直的な体質を嘆いている。 「要素技術と製品開発の同時進行ができないどころか、2つを続けて行うことさえできない。優秀な社員が多い分、社内評論家も多く、責任を担保したがる上司に付いてしまうと、各方面のメンバーに合意を取り付けないことにはまったく前へ進めなくなる」 20代後半の男性社員も、いら立ちを隠せない様子だ。 「役所的な仕事の進め方に」に不満の声を寄せている。「1つの報告書を上程するにも、何人ものサインをもらう必要があり、仕事のスピードを鈍化させている。スピード感のなさにイライラする。事業所および事業本部ごとの横通しもまったくなく、サプライヤーもバラバラ」 IHIの30代前半の男性社員は「危機感のなさ」を指摘している。 「会社としてのポテンシャルは高いと思うが、それも過去の遺産によるところが大きい。これから世界と戦い抜いてゆくためには、どれだけ多くの社員が現状に危機感を持って取り組むかにかかっていると思う。現時点では危機感のない人の方が多い」 また、27歳の男性社員は同社の「人事制度」について興味深い書き込みをしている。 「大卒は本社採用、その他は現地採用。入社式から配属先まですべてが別枠。大卒は悪くても課長代理までいける。その他はどんなに優秀でも課長止まり」 同社の場合、こうした硬直的な人事制度も社員のモチベーションを低下させているようだ。 三井造船の人事制度の硬直ぶりもIHIに負けず劣らずのようだ。 40代前半の男性社員は、こう言う。 「一番出世してゆくのは造船学科出身の技術屋で、その中でも東大出が一番手。(略)課長、部長への昇進も造船部門の人間が一番早い」 昨年度は1隻の船も受注できなかった住友重機械の口コミに至っては恐るべき独善的体質を批判している。 「顧客ニーズでなく、自分たちが作れるものしか作らない。クレームも客のせいに平気でする。顧客よりも会議が大事」(30代後半の男性社員) ◇ 甘い認識が日本の造船業を潰す 日本の造船業は1956年に、新造船の建造量で英国を抜いて世界トップになった。また、80年代の後半までは世界シェアの50%前後を維持していた。 しかし、2000年には造船業を国策とした韓国に抜かれ、2010年には中国にも抜かれ、11年には中国39%、韓国35%、日本19%のシェアになった。 日本造船工業会の釜和明会長は「原油価格の高騰により、船舶燃料が値上がりしている。将来的にも燃費効率の良い船舶が求められる。ここにわが国の勝機がある。わが国が得意な省エネ・環境技術で『造船ニッポン』の底力を発揮したい」と述べている。 そうはいっても、付加価値で勝負のエコシップも、LNG(天然ガス)船も、浮体式洋上風力発電機やメガフロートなどの洋上構造物も、劣勢を覆すほどの需要はない。 業界関係者は「造船ニッポンにもう出番はない」と断言。「これからは造船技術をベースにした洋上プラント産業へ脱皮が必要なのに、国も業界団体もビジョンが描けず、業界再編など後ろ向きの議論ばかり。2014年は危機ではなく造船解体の年だ」と、認識の甘さを批判している。 日本の産業から「大手造船メーカー」の文字が消える日が来るかもしれない。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年6月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
造船業界 劣勢の日本メーカー、社員の士気も低く挽回は厳しいか?
JFEホールディングスとIHIが今年の10月に、双方の造船子会社を合併することで合意した。合併するのはJFEホールディングス子会社のユニバーサル造船と、IHI子会社のアイ・エイチ・アイマリンユナイテッド。2社に合併合意を決断させたのは「造船業の2014年危機」。この年になると、国内で造る外航船がなくなるのだ。
国際競争力が低下した日本の造船メーカーはいずれも厳しい経営状況に追い込まれている。
世界の新造船の需要は、2008年のリーマンショック以降に縮小。その少ない需要を根こそぎさらおうと中国と韓国の造船メーカーが安値競争を展開。日本メーカーは超円高が追い打ちをかけた。「無理に受注しても赤字を垂れ流すだけ」(造船関係者)の状況では、中韓勢に抗する術もなかった。
日本造船工業会によると、2011年の上期の新造船受注量は385万トンで前年同期比57%もの激減。ウォン安を武器に60%増の受注を確保した韓国の1805万トンの21%しかなかった。
価格競争が激しい中型タンカーに特化している住友重機械工業の場合、11年度は1件も受注できなかった。このままだと受注残が13年6月になくなるといわれている。ユニバーサル造船、アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド、川崎重工業も今後2年で受注残がなくなる見込みだ。
果たして、「造船ニッポン」の生き残れるだろうか。造船大手のキャリコネの口コミから、その可能性を探ってみた。
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大手造船の社員はモチベーションが低下する一方
三菱重工の30代前半の男性社員は、硬直的な体質を嘆いている。
「要素技術と製品開発の同時進行ができないどころか、2つを続けて行うことさえできない。優秀な社員が多い分、社内評論家も多く、責任を担保したがる上司に付いてしまうと、各方面のメンバーに合意を取り付けないことにはまったく前へ進めなくなる」
20代後半の男性社員も、いら立ちを隠せない様子だ。
「役所的な仕事の進め方に」に不満の声を寄せている。「1つの報告書を上程するにも、何人ものサインをもらう必要があり、仕事のスピードを鈍化させている。スピード感のなさにイライラする。事業所および事業本部ごとの横通しもまったくなく、サプライヤーもバラバラ」
IHIの30代前半の男性社員は「危機感のなさ」を指摘している。
「会社としてのポテンシャルは高いと思うが、それも過去の遺産によるところが大きい。これから世界と戦い抜いてゆくためには、どれだけ多くの社員が現状に危機感を持って取り組むかにかかっていると思う。現時点では危機感のない人の方が多い」
また、27歳の男性社員は同社の「人事制度」について興味深い書き込みをしている。
「大卒は本社採用、その他は現地採用。入社式から配属先まですべてが別枠。大卒は悪くても課長代理までいける。その他はどんなに優秀でも課長止まり」
同社の場合、こうした硬直的な人事制度も社員のモチベーションを低下させているようだ。
三井造船の人事制度の硬直ぶりもIHIに負けず劣らずのようだ。
40代前半の男性社員は、こう言う。
「一番出世してゆくのは造船学科出身の技術屋で、その中でも東大出が一番手。(略)課長、部長への昇進も造船部門の人間が一番早い」
昨年度は1隻の船も受注できなかった住友重機械の口コミに至っては恐るべき独善的体質を批判している。
「顧客ニーズでなく、自分たちが作れるものしか作らない。クレームも客のせいに平気でする。顧客よりも会議が大事」(30代後半の男性社員)
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甘い認識が日本の造船業を潰す
日本の造船業は1956年に、新造船の建造量で英国を抜いて世界トップになった。また、80年代の後半までは世界シェアの50%前後を維持していた。
しかし、2000年には造船業を国策とした韓国に抜かれ、2010年には中国にも抜かれ、11年には中国39%、韓国35%、日本19%のシェアになった。
日本造船工業会の釜和明会長は「原油価格の高騰により、船舶燃料が値上がりしている。将来的にも燃費効率の良い船舶が求められる。ここにわが国の勝機がある。わが国が得意な省エネ・環境技術で『造船ニッポン』の底力を発揮したい」と述べている。
そうはいっても、付加価値で勝負のエコシップも、LNG(天然ガス)船も、浮体式洋上風力発電機やメガフロートなどの洋上構造物も、劣勢を覆すほどの需要はない。
業界関係者は「造船ニッポンにもう出番はない」と断言。「これからは造船技術をベースにした洋上プラント産業へ脱皮が必要なのに、国も業界団体もビジョンが描けず、業界再編など後ろ向きの議論ばかり。2014年は危機ではなく造船解体の年だ」と、認識の甘さを批判している。
日本の産業から「大手造船メーカー」の文字が消える日が来るかもしれない。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年6月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。