製紙大手、売電事業本格化 乱立市場を選んだ製紙会社の危うい選択 2012年8月8日 企業徹底研究 ツイート 製紙大手が売電事業を本格化させている。 洋紙・板紙の国内需要減少で人員と生産設備削減など厳しい経営環境が続く中、遊休設備化しかねない自家発電設備の有効活用のが狙いだ。東日本大震災以降の電力不足気運も売電事業本格化を後押ししている。 ◇ 自家発電設備の有効活用策 王子製紙は今年3月に発表した事業構造転換計画の中で、売電事業の強化を打ち出した。 具体的には、主力の苫小牧工場(北海道苫小牧市)が所管する9カ所の自家用水力発電所のうち、老朽化した6ヵ所の発電所を16年3月までに改修し、北海道電力への売電を本格化する。 釧路工場(同釧路市)でも新聞用紙の生産設備縮小に伴って生じる余剰電力の売電を今年度中に開始する予定だ。 さらに北海道美瑛町の広大な社有林(3152ha)に地熱貯留層があるため、大林組と共同で地熱発電の事業化調査にも乗り出している。 一方、日本製紙も今年5月、大口需要家に売電できるPPS(特定規模電気事業者)の届け出を資源エネルギー庁に提出し、受理されている。 2期連続の赤字で約1300人の人員削減と15%の生産設備削減を迫られている同社は、「調達済みの木材チップ(製紙原料)を有効活用するためには、売電事業への転用がもっとも確実」と判断した。 昨年11月には日本製紙グループ本社に「エネルギー事業推進室」を設置、エネルギー事業進出を検討してきた。その結果、今年7月に同室を事業推進組織の「エネルギー事業部」に格上げ、売電事業の本格化に乗り出している。 当面、既存自家発電設備を活用した売電拡大、FITを利用した木質バイオマス発電への参入、太陽光・風力発電事業参入など幅広い電力事業を計画している。 業界3位の大王製紙も、主力の三島工場(愛媛県四国中央市)の四国電力への余剰電力売電を拡大している。 ◇ 働きがいを見出せない社員 追い風が吹いている電力事業に、苦境からの活路を求めている製紙大手。その社内はどんな状況にあるのだろうか。キャリコネの口コミを見てみよう。 王子製紙の男性経営幹部(44)は、こう自慢している。 「社会に対し情報を公開している。県内企業間との情報開示の他に、近所の付き合いも良い。地域のためにできることを常に考えている」 経営幹部と称する社員がこのレベルでは、同社の事業能力も知れてしまう。 事実、技術関連の40代前半の男性社員は仕事に退屈している様子だ。 「仕事内容は毎日安定した機械の動作を維持するためのものであり、同じことをやる日も多く、やりがいを感じ取れるものは少ない」 また30代前半の女性派遣社員は淀んだ社内の空気を伝えている。 「風通しが良いかと問われれば、あまり良くないと思う。部長や役員クラスに平社員の意見が通るかと聞かれれば、よほどでないと難しいと思う」 一方、日本製紙の20代前半の男性社員は労働環境について、こう訴えている。 「慢性的なサービス残業体質があるため、日付を超えるまで連日働いても残業代は20時間程度しか出ない」 さらに、経営不振のツケを社員に回している実態をうかがわせるような書き込みをしている。 「会社は要員の合理化を進めているため、今後さらに社員の負担は増大しても給与は減る一方と言うことが考えられる」 大王製紙は、創業家3代目の巨額不正借り入れ事件が発覚して1年経った今も、同社の口コミには横暴なオーナーと、その行動を制御できない無能な役員たちを告発するかのような書き込みが多い。 例えば、退職した30代後半の男性元社員は「オーナーのワンマン体制により、やりたいことを何もできなかった」と今年の2月時点で書き込んでいる。さらに、こう述べている。 「朝早くから夜遅くまでオーナー報告資料作りなど意味のない仕事が多かったように感じる。そう言う会社だ」 大王製紙の佐光光義社長は今年6月の株主総会後の記者会見で「悪いことは悪いといえる風通しの良い会社にしたい」と話しているが、窮屈で将来を展望できない会社に、社員のモチベーションは下がる一方のようだ。 ◇ 過当競争に向かう売電事業 製紙、鉄鋼、化学など電力多消費型産業は、これまでも安定操業のために自家発電設備を整備し、その余剰電力を電力会社に売電してきた。その中で製紙大手の自家発電率は約75%と最大を誇る。 「その発電設備が生産の縮小で遊休設備と化し、不良資産化するかと危ぶんでいた矢先に、電力不足キャンペーンと言う神風が吹いた。飛びつきたくなるのは当然だろう」と、エネルギー関係者は話す。 また、「国は自家発電の活用を電力不足対策の柱の1つに位置づけ、これから規制緩和や余剰電力の売電環境整備を進めてゆく」との経産省の約束も、製紙大手が売電事業にのめりこむ根拠になっている。 しかし、電力の世界は魑魅魍魎。「原発ゼロでも電力10社の供給量には余裕がある」と、電力不足どころか電力余りを指摘する報道もある。 さらに今年7月からは再生可能エネルギーのFIT(固定価格買取制度)もスタート。「売電事業は間違いなく乱立、電力は過剰方向に向かっている」とのエネルギー関係者は警告する。 「バスに乗り遅れるな」的な発想で開始した製紙大手の売電。事業が失敗した時のツケも、人員整理の形で、やはり社員に回すのだろうか。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年7月末現在、45万社、19万件の口コミが登録されています。
製紙大手、売電事業本格化 乱立市場を選んだ製紙会社の危うい選択
製紙大手が売電事業を本格化させている。
洋紙・板紙の国内需要減少で人員と生産設備削減など厳しい経営環境が続く中、遊休設備化しかねない自家発電設備の有効活用のが狙いだ。東日本大震災以降の電力不足気運も売電事業本格化を後押ししている。
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自家発電設備の有効活用策
王子製紙は今年3月に発表した事業構造転換計画の中で、売電事業の強化を打ち出した。
具体的には、主力の苫小牧工場(北海道苫小牧市)が所管する9カ所の自家用水力発電所のうち、老朽化した6ヵ所の発電所を16年3月までに改修し、北海道電力への売電を本格化する。
釧路工場(同釧路市)でも新聞用紙の生産設備縮小に伴って生じる余剰電力の売電を今年度中に開始する予定だ。
さらに北海道美瑛町の広大な社有林(3152ha)に地熱貯留層があるため、大林組と共同で地熱発電の事業化調査にも乗り出している。
一方、日本製紙も今年5月、大口需要家に売電できるPPS(特定規模電気事業者)の届け出を資源エネルギー庁に提出し、受理されている。
2期連続の赤字で約1300人の人員削減と15%の生産設備削減を迫られている同社は、「調達済みの木材チップ(製紙原料)を有効活用するためには、売電事業への転用がもっとも確実」と判断した。
昨年11月には日本製紙グループ本社に「エネルギー事業推進室」を設置、エネルギー事業進出を検討してきた。その結果、今年7月に同室を事業推進組織の「エネルギー事業部」に格上げ、売電事業の本格化に乗り出している。
当面、既存自家発電設備を活用した売電拡大、FITを利用した木質バイオマス発電への参入、太陽光・風力発電事業参入など幅広い電力事業を計画している。
業界3位の大王製紙も、主力の三島工場(愛媛県四国中央市)の四国電力への余剰電力売電を拡大している。
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働きがいを見出せない社員
追い風が吹いている電力事業に、苦境からの活路を求めている製紙大手。その社内はどんな状況にあるのだろうか。キャリコネの口コミを見てみよう。
王子製紙の男性経営幹部(44)は、こう自慢している。
「社会に対し情報を公開している。県内企業間との情報開示の他に、近所の付き合いも良い。地域のためにできることを常に考えている」
経営幹部と称する社員がこのレベルでは、同社の事業能力も知れてしまう。
事実、技術関連の40代前半の男性社員は仕事に退屈している様子だ。
「仕事内容は毎日安定した機械の動作を維持するためのものであり、同じことをやる日も多く、やりがいを感じ取れるものは少ない」
また30代前半の女性派遣社員は淀んだ社内の空気を伝えている。
「風通しが良いかと問われれば、あまり良くないと思う。部長や役員クラスに平社員の意見が通るかと聞かれれば、よほどでないと難しいと思う」
一方、日本製紙の20代前半の男性社員は労働環境について、こう訴えている。
「慢性的なサービス残業体質があるため、日付を超えるまで連日働いても残業代は20時間程度しか出ない」
さらに、経営不振のツケを社員に回している実態をうかがわせるような書き込みをしている。
「会社は要員の合理化を進めているため、今後さらに社員の負担は増大しても給与は減る一方と言うことが考えられる」
大王製紙は、創業家3代目の巨額不正借り入れ事件が発覚して1年経った今も、同社の口コミには横暴なオーナーと、その行動を制御できない無能な役員たちを告発するかのような書き込みが多い。
例えば、退職した30代後半の男性元社員は「オーナーのワンマン体制により、やりたいことを何もできなかった」と今年の2月時点で書き込んでいる。さらに、こう述べている。
「朝早くから夜遅くまでオーナー報告資料作りなど意味のない仕事が多かったように感じる。そう言う会社だ」
大王製紙の佐光光義社長は今年6月の株主総会後の記者会見で「悪いことは悪いといえる風通しの良い会社にしたい」と話しているが、窮屈で将来を展望できない会社に、社員のモチベーションは下がる一方のようだ。
◇
過当競争に向かう売電事業
製紙、鉄鋼、化学など電力多消費型産業は、これまでも安定操業のために自家発電設備を整備し、その余剰電力を電力会社に売電してきた。その中で製紙大手の自家発電率は約75%と最大を誇る。
「その発電設備が生産の縮小で遊休設備と化し、不良資産化するかと危ぶんでいた矢先に、電力不足キャンペーンと言う神風が吹いた。飛びつきたくなるのは当然だろう」と、エネルギー関係者は話す。
また、「国は自家発電の活用を電力不足対策の柱の1つに位置づけ、これから規制緩和や余剰電力の売電環境整備を進めてゆく」との経産省の約束も、製紙大手が売電事業にのめりこむ根拠になっている。
しかし、電力の世界は魑魅魍魎。「原発ゼロでも電力10社の供給量には余裕がある」と、電力不足どころか電力余りを指摘する報道もある。
さらに今年7月からは再生可能エネルギーのFIT(固定価格買取制度)もスタート。「売電事業は間違いなく乱立、電力は過剰方向に向かっている」とのエネルギー関係者は警告する。
「バスに乗り遅れるな」的な発想で開始した製紙大手の売電。事業が失敗した時のツケも、人員整理の形で、やはり社員に回すのだろうか。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年7月末現在、45万社、19万件の口コミが登録されています。