「リストラの春」から「嵐」へ…シャープ、ソニーのリストラ誘発の悪循環 2012年8月15日 企業徹底研究 ツイート 今春、電機業界は「リストラの春」といわれていた。2012年3月期決算を発表した大手の大半の業績が大赤字で業績回復策として大幅な人員リストラを打ち出したからだ。 ところが業績回復の兆候が一向に見えない電機各社は、8月に入り、さらに、人員リストラを加速している。まだ何がしかの希望があった「春」から、先行きが見えない「嵐」に突入した格好だ。 ◇ 希望退職者募集から整理解雇へ 「もはや一刻の猶予も許されない状況」と、今年度中の「5000人削減」を8月2日に発表したのはシャープの奥田隆司社長だ。 12年度第一四半期決算は1384億円の赤字。前年度同期の赤字492億円が2・8倍に膨らんだ。不振のテレビ事業から抜け出せないのが大きく影響している。 シャープが希望退職者を募集するのは、1950年以来、実に62年ぶり。人員削減規模もグループ全社員の1割にあたり、創業100年目の今年は、「創業以来最大規模の首切り」と言う皮肉な年になった。 ソニーも12年度第一四半期決算は、246億円の赤字で、前年度同期で155億円の赤字幅がさらに拡大した。テレビなどエレクトロニクス事業の不振に歯止めがかからない。すでに「12年度中に1万人の人員リストラ」を発表しているが、関係者は「リストラ効果が出ていない。人員リストラが拡大する」と見ている。 ◇ その場しのぎの対応で悪化させた業績 シャープで営業として働く、20代後半の男性社員は、人材戦略の欠如を嘆いている。 「技術職で入社してきたのに、経営状況が悪化すると若手でも営業に回す(略)その場凌ぎだけで人材を配置し、将来をまったく見据えていない」 技術職の20代後半の男性社員はメーカーとしての致命的な欠陥を、こう指摘している。 「管理業務が多く、物作りのやりがいや醍醐味を感じることができない。製品開発も行き当たりばったりで事業戦略があるのか疑わしい」 一方、ソニーの20代後半の男性社員は、慢性的な経営不振による年収の大幅減少を心配し、「それを理由に、今後有能な人材の流出がさらに活発化する」と予測している。 また、「とにかく年中組織変更を行う企業で、多い時は2カ月に1度のペースで行われるため、落ち着かない」 と、20代後半の女性派遣社員は、経営の混乱ぶりをうかがわせるような書き込みをしている。 30代前半の男性社員は社内政治に振り回されて社員が腐ってゆく様子を、こう述べている。 「仕事ではとにかく社内政治が何よりも重要(略)会社の業績アップよりも社内政治で生き抜くために仕事をするようになる」 ◇ 経営改革の展望を描けない経営者 「市場の変化にタイムリーに対応できなかった。申し訳ない」。 今年3月半ばの社長交代記者発表で、シャープの片山幹雄社長(当時)は、こう言って頭を下げた。 その片山社長から経営再建を託されたのが奥田隆司社長だった。海外での生産や調達、亀山工場の垂直統合モデル立ち上げなどの実績が評価されての抜擢だった。 その奥田社長は3月下旬の共同記者会見で「今のシャープは顧客目線が足りない」「意思決定のスピードが遅れないようこれから仕組みを変えてゆきたい」など、経営改革への強い意気込みを語っていた。 ところが今月の12年度第一四半期決算発表では「一刻の猶予も許されない状況」「断腸の思いで」などと人員リストラの言い訳に終始し、その口から経営変革の展望が語られることはなかった。 同社の関係者は「社長就任前に想像していた以上の過酷な状況に、経営改革の自信をなくしたのでは」と心配している。 ソニーの平井一夫社長は音楽畑の出身。ソフトウェア好きのストリンガー会長(当時)のお気に入りで後継者に指名された。 その平井社長は、今年4月の経営方針説明会で「ソニーを変える、ソニーは変わる」と切り出して経営再建策を説明、「経営のスピードを上げ、事業ポートフォリオを変え、イノベーションを起こす」と宣言した。 その1回目の通信簿が今回の246億円の赤字決算だった。 「経営再建策の数値目標は明確だったが、それを達成するための具体策や道筋をこの3カ月の間示していない。ストリンガー時代と何も変わっていない」と、同社の関係者は赤字要因を指摘している。 また、ある学識者は「戦略や組織体制を変えるのが重要なのではない。ソニーに必要なのは技術者の斬新なアイデアを経営が理解して商品化に繋げること」と指摘している。 だが、その肝心の技術者がストリンガー時代のリストラで韓国や中国へ流出してしまっている。さらに、平井社長の下で進行中のリストラで、さらに技術者流出はさらに加速している模様だ。 シャープ、ソニーともに「リストラの春」にその場凌ぎの対応しかできなかった経営者たちが、そのために状況をさらに悪化させ、「リストラの嵐」を呼び寄せた格好になっている。非常時に凡庸な経営者しかいなかった巡り合わせの悪さを思わずにいられない。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年7月末現在、45万社、19万件の口コミが登録されています。
「リストラの春」から「嵐」へ…シャープ、ソニーのリストラ誘発の悪循環
今春、電機業界は「リストラの春」といわれていた。2012年3月期決算を発表した大手の大半の業績が大赤字で業績回復策として大幅な人員リストラを打ち出したからだ。
ところが業績回復の兆候が一向に見えない電機各社は、8月に入り、さらに、人員リストラを加速している。まだ何がしかの希望があった「春」から、先行きが見えない「嵐」に突入した格好だ。
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希望退職者募集から整理解雇へ
「もはや一刻の猶予も許されない状況」と、今年度中の「5000人削減」を8月2日に発表したのはシャープの奥田隆司社長だ。
12年度第一四半期決算は1384億円の赤字。前年度同期の赤字492億円が2・8倍に膨らんだ。不振のテレビ事業から抜け出せないのが大きく影響している。
シャープが希望退職者を募集するのは、1950年以来、実に62年ぶり。人員削減規模もグループ全社員の1割にあたり、創業100年目の今年は、「創業以来最大規模の首切り」と言う皮肉な年になった。
ソニーも12年度第一四半期決算は、246億円の赤字で、前年度同期で155億円の赤字幅がさらに拡大した。テレビなどエレクトロニクス事業の不振に歯止めがかからない。すでに「12年度中に1万人の人員リストラ」を発表しているが、関係者は「リストラ効果が出ていない。人員リストラが拡大する」と見ている。
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その場しのぎの対応で悪化させた業績
シャープで営業として働く、20代後半の男性社員は、人材戦略の欠如を嘆いている。
「技術職で入社してきたのに、経営状況が悪化すると若手でも営業に回す(略)その場凌ぎだけで人材を配置し、将来をまったく見据えていない」
技術職の20代後半の男性社員はメーカーとしての致命的な欠陥を、こう指摘している。
「管理業務が多く、物作りのやりがいや醍醐味を感じることができない。製品開発も行き当たりばったりで事業戦略があるのか疑わしい」
一方、ソニーの20代後半の男性社員は、慢性的な経営不振による年収の大幅減少を心配し、「それを理由に、今後有能な人材の流出がさらに活発化する」と予測している。
また、「とにかく年中組織変更を行う企業で、多い時は2カ月に1度のペースで行われるため、落ち着かない」
と、20代後半の女性派遣社員は、経営の混乱ぶりをうかがわせるような書き込みをしている。
30代前半の男性社員は社内政治に振り回されて社員が腐ってゆく様子を、こう述べている。
「仕事ではとにかく社内政治が何よりも重要(略)会社の業績アップよりも社内政治で生き抜くために仕事をするようになる」
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経営改革の展望を描けない経営者
「市場の変化にタイムリーに対応できなかった。申し訳ない」。
今年3月半ばの社長交代記者発表で、シャープの片山幹雄社長(当時)は、こう言って頭を下げた。
その片山社長から経営再建を託されたのが奥田隆司社長だった。海外での生産や調達、亀山工場の垂直統合モデル立ち上げなどの実績が評価されての抜擢だった。
その奥田社長は3月下旬の共同記者会見で「今のシャープは顧客目線が足りない」「意思決定のスピードが遅れないようこれから仕組みを変えてゆきたい」など、経営改革への強い意気込みを語っていた。
ところが今月の12年度第一四半期決算発表では「一刻の猶予も許されない状況」「断腸の思いで」などと人員リストラの言い訳に終始し、その口から経営変革の展望が語られることはなかった。
同社の関係者は「社長就任前に想像していた以上の過酷な状況に、経営改革の自信をなくしたのでは」と心配している。
ソニーの平井一夫社長は音楽畑の出身。ソフトウェア好きのストリンガー会長(当時)のお気に入りで後継者に指名された。
その平井社長は、今年4月の経営方針説明会で「ソニーを変える、ソニーは変わる」と切り出して経営再建策を説明、「経営のスピードを上げ、事業ポートフォリオを変え、イノベーションを起こす」と宣言した。
その1回目の通信簿が今回の246億円の赤字決算だった。
「経営再建策の数値目標は明確だったが、それを達成するための具体策や道筋をこの3カ月の間示していない。ストリンガー時代と何も変わっていない」と、同社の関係者は赤字要因を指摘している。
また、ある学識者は「戦略や組織体制を変えるのが重要なのではない。ソニーに必要なのは技術者の斬新なアイデアを経営が理解して商品化に繋げること」と指摘している。
だが、その肝心の技術者がストリンガー時代のリストラで韓国や中国へ流出してしまっている。さらに、平井社長の下で進行中のリストラで、さらに技術者流出はさらに加速している模様だ。
シャープ、ソニーともに「リストラの春」にその場凌ぎの対応しかできなかった経営者たちが、そのために状況をさらに悪化させ、「リストラの嵐」を呼び寄せた格好になっている。非常時に凡庸な経営者しかいなかった巡り合わせの悪さを思わずにいられない。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年7月末現在、45万社、19万件の口コミが登録されています。