巨額赤字のパナソニック、機能不全の組織で「負け組」に 2012年11月7日 企業徹底研究 ツイート パナソニックの業績低迷に歯止めがかからない。 同社は2012年3月期の連結決算で7721億円の赤字を計上。2013年3月期の連結決算も最終損益を当初の500億円黒字から、7650億円の赤字に大幅に下方修正した。また、年間10円を予定していた配当も、1950年5月期以来、実に63年ぶりに無配とした。 2期連続で巨額赤字に転落する原因は、自動車関連を除くすべての事業分野で売り上げ計画が達成できなかったことだ。特に4~9月の中間期は薄型テレビ、携帯電話、民生用リチウムイオン電池などデジタル製品の売り上げが大きく落ち込んだ。 これを受け、パナソニックでは緊急対策として役員報酬の20~40%を返上。管理職の冬季賞与を35%カットするなどの経費削減を実施し、全事業部門で営業利益率5パーセント必達の目標も掲げた。 「本業の不振。デジタル製品への大規模な投資から目論見通りの収益を生めなかった」。10月31日の中間決算会見で、津賀一宏社長は2連続で巨額赤字となった理由を、こう説明した。 ◇ 三洋のリチウムイオン電池の優位性が落ち、崩れた成長シナリオ 大規模投資を繰り返しても収益を挙げられなかった大きな要因は、成長シナリオの崩壊だった。 その典型が、大坪文雄・前社長が決断した三洋電機の買収だ。太陽電池や民生用リチウムイオン電池事業拡大を狙い、当時の自己資本の20%に当たる8000億円を投資して、三洋を買収したが、目論見通りの成果を上げることができなかった。 パナソニックが三洋を買収した2008年当時、民生用リチウムイオン電池市場で世界シェア1位、利益率も2ケタ台を確保していた。三洋のリチウムイオン電池事業はパナソニックにとって魅力的な事業だった。 パナソニックでは、三洋を手に入れ、リチウムイオン電池と太陽電池を、パナソニック電工の住宅設備・建材事業やパナホームの住宅販売事業と組み合わせれば、電池事業と住宅事業とで相乗効果が発揮できると目論んだのだ。 「家まるごと・ビルまるごとソリューション」。大坪前社長が当時、強調していた成長戦略の事業コンセプトは、三洋の買収がベースとなって生まれた。しかし、そのシナリオは大きく狂った。 買収時から韓国メーカーがリチウムイオン電池の低価格攻勢に打って出てきた。また、日本から流出した技術で品質も高まり、シェアを拡大。三洋の優位性は落ちて行ったからだ。これは太陽電池も同様だった。 その結果、パナソニックのリチウムイオン・太陽電池事業は前期決算で208億円の営業赤字に転落。今期の決算でも当初見通しの400億円の黒字達成は厳しい状況だ。 こうした経営環境の変化でパナソニックは、今回の中間決算で、三洋買収時に資産計上した9000億円のうち、2400億円の損失処理を余儀なくされた。 三洋買収に伴う損失処理額は、12年3月期に処理した減損分を含めると、5000億円になる見通しだ。打ち出の小槌のはずだった三洋は、パナソニックにとって、今や大きな荷物となってしまった。 三洋の買収以外の要因もある。携帯電話事業ではスマートフォンの展開で出遅れた。挽回を狙って、今年再参入した欧州市場ではボーダフォンの採用が立ち消え、年度内での撤退に追い込まれた。国内でも年末商戦向けに従来型の携帯電話が一機種採用されただけだ。 ◇ 利益向上策が社内政治で退けられる パナソニックの業績低迷について、証券アナリストは、こう分析する。 「通期見通しで営業外損益として太陽電池、リチウムイオン電池、携帯電話に関する減損を含む事業構造改革費用4400億円もの赤字を計上している。これが信じがたい巨額赤字の主因だが、すべては投資の見込み違いと事業の黒字回復が見込めないことに起因している。パナソニックの屋台骨がぐらついている証拠だ」 こうした現状の認識もあるのか、「当社はもはや普通の会社ではない。我々自身がこれを自覚しなければ経営再建のスタートは切れない」と、津賀社長は会見で強調。社員の意識改革を訴えた。 では、当の社員は現状をどう考えているのだろうか。キャリコネに寄せられた社員の声を拾うと、トップと現場の意識のすれ違いが目立つ。 「目の前に降ってくる大量の日々の仕事をこなすために、いかに上司の報告をすり抜けるかにエネルギーを奪われ、本当になさないといけない課題や目指すべき方向にエネルギーを向けることが難しい」(40代前半の男性社員) 「利益に対して執着する姿勢が競合企業と比較して少ないので、純粋に利益向上のためにと提案したことが、社会的配慮や社内政治により退けられる」(20代前半の男性社員) また、事業戦略や人材育成の改善について訴える声も少なくない。 「システムLSI事業は携帯電話向けシステムLSIの需要消失、デジタルAV向けシステムLSIの失速で非常に苦しい状況。事業を社内向けから社外向けにシフトしているが、会社組織がついて行っていない」(30代後半の男性社員) 「社内人材育成の名目で全従業員に各種資格を取得するように強制的に推奨している。各種技能士や品質検定等の資格を10種類以上取得したが、仕事の業務内容に変化はない。人材育成を推進しているという結果が重要であり、従業員のスキル内容には関心がない」(40代後半の男性社員) 津賀社長は「当社は20年ほど前から低成長、低収益という状態が続いてきた」と会見で語ったが、その原因は、社員が訴えているような点にも起因しているのだろう。津賀社長が、業績立て直しの要と考えている意識改革は、社員よりも経営層で必要とされているようだ。 「パナソニックの赤字は、成長戦略の失敗というマクロ要因よりも、内向きの硬直化した業務運営などのミクロ要因が大きい。組織が機能不全を起こしており、それが投資の失敗で一挙に顕在化した」。業界関係者も、こう指摘している。 また、「成長戦略の練り直しはもちろん重要だが、同じレベルで、社員の問題解決能力を高める現場力改革を行わなければ、暴走は止められない」と話している。 「デジタル家電分野では、当社の価格競争力の低下が大きい。デジタルの領域では残念ながら当社は負け組と言わざるを得ない」。津賀社長は会見で反省の弁を述べた。 だが、真に反省すべきは、数値で経営判断をし、社内で様々な形で起きている現実問題に目を向けない「トップの現場知らず」だ。その改革なしにパナソニックの復活はありえないだろう。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年10月末現在、37万社、20万件の口コミが登録されています。
巨額赤字のパナソニック、機能不全の組織で「負け組」に
パナソニックの業績低迷に歯止めがかからない。
同社は2012年3月期の連結決算で7721億円の赤字を計上。2013年3月期の連結決算も最終損益を当初の500億円黒字から、7650億円の赤字に大幅に下方修正した。また、年間10円を予定していた配当も、1950年5月期以来、実に63年ぶりに無配とした。
2期連続で巨額赤字に転落する原因は、自動車関連を除くすべての事業分野で売り上げ計画が達成できなかったことだ。特に4~9月の中間期は薄型テレビ、携帯電話、民生用リチウムイオン電池などデジタル製品の売り上げが大きく落ち込んだ。
これを受け、パナソニックでは緊急対策として役員報酬の20~40%を返上。管理職の冬季賞与を35%カットするなどの経費削減を実施し、全事業部門で営業利益率5パーセント必達の目標も掲げた。
「本業の不振。デジタル製品への大規模な投資から目論見通りの収益を生めなかった」。10月31日の中間決算会見で、津賀一宏社長は2連続で巨額赤字となった理由を、こう説明した。
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三洋のリチウムイオン電池の優位性が落ち、崩れた成長シナリオ
大規模投資を繰り返しても収益を挙げられなかった大きな要因は、成長シナリオの崩壊だった。
その典型が、大坪文雄・前社長が決断した三洋電機の買収だ。太陽電池や民生用リチウムイオン電池事業拡大を狙い、当時の自己資本の20%に当たる8000億円を投資して、三洋を買収したが、目論見通りの成果を上げることができなかった。
パナソニックが三洋を買収した2008年当時、民生用リチウムイオン電池市場で世界シェア1位、利益率も2ケタ台を確保していた。三洋のリチウムイオン電池事業はパナソニックにとって魅力的な事業だった。
パナソニックでは、三洋を手に入れ、リチウムイオン電池と太陽電池を、パナソニック電工の住宅設備・建材事業やパナホームの住宅販売事業と組み合わせれば、電池事業と住宅事業とで相乗効果が発揮できると目論んだのだ。
「家まるごと・ビルまるごとソリューション」。大坪前社長が当時、強調していた成長戦略の事業コンセプトは、三洋の買収がベースとなって生まれた。しかし、そのシナリオは大きく狂った。
買収時から韓国メーカーがリチウムイオン電池の低価格攻勢に打って出てきた。また、日本から流出した技術で品質も高まり、シェアを拡大。三洋の優位性は落ちて行ったからだ。これは太陽電池も同様だった。
その結果、パナソニックのリチウムイオン・太陽電池事業は前期決算で208億円の営業赤字に転落。今期の決算でも当初見通しの400億円の黒字達成は厳しい状況だ。
こうした経営環境の変化でパナソニックは、今回の中間決算で、三洋買収時に資産計上した9000億円のうち、2400億円の損失処理を余儀なくされた。
三洋買収に伴う損失処理額は、12年3月期に処理した減損分を含めると、5000億円になる見通しだ。打ち出の小槌のはずだった三洋は、パナソニックにとって、今や大きな荷物となってしまった。
三洋の買収以外の要因もある。携帯電話事業ではスマートフォンの展開で出遅れた。挽回を狙って、今年再参入した欧州市場ではボーダフォンの採用が立ち消え、年度内での撤退に追い込まれた。国内でも年末商戦向けに従来型の携帯電話が一機種採用されただけだ。
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利益向上策が社内政治で退けられる
パナソニックの業績低迷について、証券アナリストは、こう分析する。
「通期見通しで営業外損益として太陽電池、リチウムイオン電池、携帯電話に関する減損を含む事業構造改革費用4400億円もの赤字を計上している。これが信じがたい巨額赤字の主因だが、すべては投資の見込み違いと事業の黒字回復が見込めないことに起因している。パナソニックの屋台骨がぐらついている証拠だ」
こうした現状の認識もあるのか、「当社はもはや普通の会社ではない。我々自身がこれを自覚しなければ経営再建のスタートは切れない」と、津賀社長は会見で強調。社員の意識改革を訴えた。
では、当の社員は現状をどう考えているのだろうか。キャリコネに寄せられた社員の声を拾うと、トップと現場の意識のすれ違いが目立つ。
「目の前に降ってくる大量の日々の仕事をこなすために、いかに上司の報告をすり抜けるかにエネルギーを奪われ、本当になさないといけない課題や目指すべき方向にエネルギーを向けることが難しい」(40代前半の男性社員)
「利益に対して執着する姿勢が競合企業と比較して少ないので、純粋に利益向上のためにと提案したことが、社会的配慮や社内政治により退けられる」(20代前半の男性社員)
また、事業戦略や人材育成の改善について訴える声も少なくない。
「システムLSI事業は携帯電話向けシステムLSIの需要消失、デジタルAV向けシステムLSIの失速で非常に苦しい状況。事業を社内向けから社外向けにシフトしているが、会社組織がついて行っていない」(30代後半の男性社員)
「社内人材育成の名目で全従業員に各種資格を取得するように強制的に推奨している。各種技能士や品質検定等の資格を10種類以上取得したが、仕事の業務内容に変化はない。人材育成を推進しているという結果が重要であり、従業員のスキル内容には関心がない」(40代後半の男性社員)
津賀社長は「当社は20年ほど前から低成長、低収益という状態が続いてきた」と会見で語ったが、その原因は、社員が訴えているような点にも起因しているのだろう。津賀社長が、業績立て直しの要と考えている意識改革は、社員よりも経営層で必要とされているようだ。
「パナソニックの赤字は、成長戦略の失敗というマクロ要因よりも、内向きの硬直化した業務運営などのミクロ要因が大きい。組織が機能不全を起こしており、それが投資の失敗で一挙に顕在化した」。業界関係者も、こう指摘している。
また、「成長戦略の練り直しはもちろん重要だが、同じレベルで、社員の問題解決能力を高める現場力改革を行わなければ、暴走は止められない」と話している。
「デジタル家電分野では、当社の価格競争力の低下が大きい。デジタルの領域では残念ながら当社は負け組と言わざるを得ない」。津賀社長は会見で反省の弁を述べた。
だが、真に反省すべきは、数値で経営判断をし、社内で様々な形で起きている現実問題に目を向けない「トップの現場知らず」だ。その改革なしにパナソニックの復活はありえないだろう。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年10月末現在、37万社、20万件の口コミが登録されています。