100円ショップ 生き残りかけ多彩な戦略が展開されるグローバル業界 2012年12月27日 企業徹底研究 ツイート 今や日本全国いたる場所にあり、小売業の一ジャンルとしてその地位を確立しているのが「100円ショップ」だ。 100円ショップが扱う、税別100円均一商品は、ほとんどが日用雑貨小物や消耗品だが、「ローソンストア100」のように生鮮食品や総菜、弁当まで揃えてコンビニ化したチェーンも現れている。 登場した当初は「100円で買えるものがこんなにたくさんあるのか!」と、消費者も驚いていた。しかし、最近では店の陳列棚を眺めて「これは100円の値打ちもない」などとシビアに品定めするようになっている。 その100円ショップで、全国チェーン網を持つ主要企業は、大創産業(非上場)、九九プラス(ローソンの完全子会社)、セリア(上場)、キャンドゥ(上場)、ワッツ(上場)だ。ただ、その5社を合わせた売上高の成長率は、最近3年間は1.7~2%と小さくなっており、以前のような急成長業種ではなくなっている。 100円ショップは牛丼チェーンや家電量販店、ユニクロなどと並べられ「デフレの象徴」と呼ばれることがある。だが、現状ではデフレ経済で大きく成長しているわけではない。今回は、この100円ショップについて、キャリコネに寄せられた各社社員の声を基に業界を分析していこう。 ◇ 同じ100円ショップでも事業戦略はさまざま 各社の主な企業戦略は、同じ100円ショップでも、それぞれバラエティに富んでいる。 大創産業は店舗の大型化と海外出店に力を入れている。九九プラスは食品に力を入れたコンビニ化を進める。セリアは女性客にターゲットを絞った店舗・商品づくりを行う。 キャンドゥは中小業者の買収による拡大に乗り出している。そして、ワッツは、出店した場所で売り上げが伸びても近くにダイソーが出店すると、すぐに撤退というゲリラ戦法だ。 また、100円ショップの全国チェーン5社は、売上高で見ると、以下のようなランキングになっている。 各社の最近5年間の売り上げ状況は、セリアは女心をつかめたのか2ケタ成長している。ゲリラ戦法のワッツはまずまずの伸びだが、ローソンの別働隊とも言える九九プラスは成長に急ブレーキがかかった。キャンドゥは完全に頭打ちだ。そして、業界トップの大創産業は、かろうじて横ばいという状況にある。 ◇ 「上がらず」「年功序列」「実績が反映されず」 給与も各社で異なる 100円ショップの正社員のキャリアパスは、店長を経てスーパーバイザー、マネージャーとして実績をあげると店舗開発や商品開発を手がける本部スタッフになるというコースが一般的だ。一方で、その報酬はどうなっているのだろうか。 「基本的に、給料がほとんど上がりません。これは、社員だけでなくアルバイトについても同様です。2006年くらいまでは、比較的給料が上がっていたみたいですが、2009年以後では、不況の為、半年または1年経ってもほとんど変わらないぐらいです」(大創産業、20代後半の男性社員、年収255万円) 「アシスタントマネージャーが(年収で)400~450万円、マネージャー職は450~530万円、ゾーンマネージャー職で550~700万円、部長職は650~800万円。それぞれの役職に階級があるので、そのレベルによって変わってくる事もあり幅がある」(九九プラス、20代後半の男性社員、年収500万円) 「まだまだ年功序列文化が拭われないので、きちんと評価してほしい方には向いていないと感じる。ただ、ずっと働いていれば当たり前だが、自然と給料は上がるので、忍耐力があって安定していれば何でも良いという方なら合っていると思う」(セリア、20代前半の男性社員、年収290万円) 「会社の売り上げのために目標を達成しても、賞状と報奨金1万~3万のみで、昇給もなければ、ボーナスの査定評価にも反映しない」(キャンドゥ、20代前半の女性社員、年収279万円) すでに退職したと思われる、この女性社員は、店長として、店舗ディスプレイなどで自分なりに創意工夫を発揮して来店客を増やし、厳しいノルマをクリアしてトップクラスの業績を上げた。 しかし、キャンドゥはがんばった社員への見返りをケチったため、有望な若い人材を失うことになった。同社の売上高が最近4年間は628~632億円と横ばいで、中国に出店し大赤字を出して撤退したのも納得できる。 ◇ 出世は「情実人事」「党派優先人事」「年功序列」 業界トップの大創産業の社員からは「上司次第で天国と地獄」という声が多い。そして、社員の昇進も上司の好き嫌い次第で決まると言う。 「社員のキャリアアップを正当に評価できていないことが、最大の問題点だと思います。実力のある社員であっても上司に気に入られないと昇格が絶対にない為に入社数年で退社してしまう事がとても多い」(大創産業、40代前半の男性社員) 大創産業は「情実人事」が横行して有望な人材を流出させているが、九九プラスの人事はもっと“政治的”だ。 「どの分野でも制度が整っていない会社なので、簡単に言えばどの派閥にどう付くかによって出世も決まってくる。だが、制度が整っていない=政権交代も早いので、一歩間違えれば下落する。役職もころころ変わり、良い意味では昇進もしやく、悪い意味では安定しない」(九九プラス、20代後半の男性社員) 「与党」につけば「○○チルドレン」としてスピード出世するが、政権交代で「野党」に転落したら…とは、最近の日本の政界を見るようだ。 業界3位のセリアは前出の社員の声にもあったように「年功序列が残っている」という。幹部も中間管理職も楽だが、それはそれで実績と能力のある社員の間に不満を生む。 「情実人事」「党派優先人事」に「年功序列人事」。100円ショップ業界は人事マネジメントが遅れていて社員は正当な評価をしてもらえず、納得のゆく昇進もできず、そのために貴重な人材が失われているようだ。 ◇ 次の成長を求め各社は海外進出を加速 大手の100円ショップチェーンはその草創期から「海外」と密接な関係を持ってきた。円高をバックに海外から大量に安く買い付ける「バイイングパワー」を発揮し「100円グッズ」の品揃えを増やしていった。 そういう意味では、デフレの象徴と言うよりむしろ、「円高の象徴」といった方が正確かもしれない。そのシンボル的な都市が中国・浙江省の義烏市で、一時は「100円グッズのふるさと」としてマスコミで盛んに紹介された。 しかし、最近の大手チェーンは大手スーパーのPB(自主企画商品)のやり方を導入し中国の製造業者と直接取引するようになり、義烏市の卸売業者にはあまり頼らなくなっている。 海外出店も、業界トップの大創産業は2001年の台湾を皮切りに現在、中国や東南アジア各国、米国、カナダなど海外28カ国に658店舗を展開。ブラジルにも「5レアル均一」の店を出店した。 ワッツはタイに「60バーツ均一」の店を出している。キャンドゥは中国の「10元均一」店から撤退したが海外への卸売りは続けている。海外店舗のないセリアも海外への卸売りは行っており、海外出店、海外卸売りは、国内市場が飽和状態の100円ショップ各社にとって今後、成長を維持するための生命線となりそうだ。 一方で、海外からはライバルもやって来ている。2012年7月には北欧のデンマークで「10クローネ(=約130円)ショップ」として知られる雑貨店「タイガー・コペンハーゲン」が大阪・ミナミに日本第1号店を出店した。 価格は「ワンコイン」が原則で最低100円から100円刻みで500円程度。欧州でデザインされた商品が特に女性客に受けているようだ。実際、オープン当日から大行列ができるほどの人気で、売れすぎて商品が足りなくなり臨時休業したほどだった。 女性を狙ったおしゃれな店舗づくりを積極的に行っているセリアなどは「黒船来航」に戦々恐々だろう。今後の成り行き次第では、「イケア」が日本の家具業界を揺り動かしたように、タイガーが日本の100円ショップ業界に新風を巻き起こすかもしれない。 円高の追い風を受けて海外、特に中国の製造業者、卸売業者の助けを借りて国内市場で成長。今は海外出店や海外卸売りに企業の将来を託しながら、欧州の同業者の日本進出に脅かされ、最近の円安傾向に神経をとがらせる。100円ショップは実はグローバルな業界なのだ。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年11月末現在、43万社、20万件の口コミが登録されています。
100円ショップ 生き残りかけ多彩な戦略が展開されるグローバル業界
今や日本全国いたる場所にあり、小売業の一ジャンルとしてその地位を確立しているのが「100円ショップ」だ。
100円ショップが扱う、税別100円均一商品は、ほとんどが日用雑貨小物や消耗品だが、「ローソンストア100」のように生鮮食品や総菜、弁当まで揃えてコンビニ化したチェーンも現れている。
登場した当初は「100円で買えるものがこんなにたくさんあるのか!」と、消費者も驚いていた。しかし、最近では店の陳列棚を眺めて「これは100円の値打ちもない」などとシビアに品定めするようになっている。
その100円ショップで、全国チェーン網を持つ主要企業は、大創産業(非上場)、九九プラス(ローソンの完全子会社)、セリア(上場)、キャンドゥ(上場)、ワッツ(上場)だ。ただ、その5社を合わせた売上高の成長率は、最近3年間は1.7~2%と小さくなっており、以前のような急成長業種ではなくなっている。
100円ショップは牛丼チェーンや家電量販店、ユニクロなどと並べられ「デフレの象徴」と呼ばれることがある。だが、現状ではデフレ経済で大きく成長しているわけではない。今回は、この100円ショップについて、キャリコネに寄せられた各社社員の声を基に業界を分析していこう。
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同じ100円ショップでも事業戦略はさまざま
各社の主な企業戦略は、同じ100円ショップでも、それぞれバラエティに富んでいる。
大創産業は店舗の大型化と海外出店に力を入れている。九九プラスは食品に力を入れたコンビニ化を進める。セリアは女性客にターゲットを絞った店舗・商品づくりを行う。
キャンドゥは中小業者の買収による拡大に乗り出している。そして、ワッツは、出店した場所で売り上げが伸びても近くにダイソーが出店すると、すぐに撤退というゲリラ戦法だ。
また、100円ショップの全国チェーン5社は、売上高で見ると、以下のようなランキングになっている。
各社の最近5年間の売り上げ状況は、セリアは女心をつかめたのか2ケタ成長している。ゲリラ戦法のワッツはまずまずの伸びだが、ローソンの別働隊とも言える九九プラスは成長に急ブレーキがかかった。キャンドゥは完全に頭打ちだ。そして、業界トップの大創産業は、かろうじて横ばいという状況にある。
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「上がらず」「年功序列」「実績が反映されず」 給与も各社で異なる
100円ショップの正社員のキャリアパスは、店長を経てスーパーバイザー、マネージャーとして実績をあげると店舗開発や商品開発を手がける本部スタッフになるというコースが一般的だ。一方で、その報酬はどうなっているのだろうか。
「基本的に、給料がほとんど上がりません。これは、社員だけでなくアルバイトについても同様です。2006年くらいまでは、比較的給料が上がっていたみたいですが、2009年以後では、不況の為、半年または1年経ってもほとんど変わらないぐらいです」(大創産業、20代後半の男性社員、年収255万円)
「アシスタントマネージャーが(年収で)400~450万円、マネージャー職は450~530万円、ゾーンマネージャー職で550~700万円、部長職は650~800万円。それぞれの役職に階級があるので、そのレベルによって変わってくる事もあり幅がある」(九九プラス、20代後半の男性社員、年収500万円)
「まだまだ年功序列文化が拭われないので、きちんと評価してほしい方には向いていないと感じる。ただ、ずっと働いていれば当たり前だが、自然と給料は上がるので、忍耐力があって安定していれば何でも良いという方なら合っていると思う」(セリア、20代前半の男性社員、年収290万円)
「会社の売り上げのために目標を達成しても、賞状と報奨金1万~3万のみで、昇給もなければ、ボーナスの査定評価にも反映しない」(キャンドゥ、20代前半の女性社員、年収279万円)
すでに退職したと思われる、この女性社員は、店長として、店舗ディスプレイなどで自分なりに創意工夫を発揮して来店客を増やし、厳しいノルマをクリアしてトップクラスの業績を上げた。
しかし、キャンドゥはがんばった社員への見返りをケチったため、有望な若い人材を失うことになった。同社の売上高が最近4年間は628~632億円と横ばいで、中国に出店し大赤字を出して撤退したのも納得できる。
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出世は「情実人事」「党派優先人事」「年功序列」
業界トップの大創産業の社員からは「上司次第で天国と地獄」という声が多い。そして、社員の昇進も上司の好き嫌い次第で決まると言う。
「社員のキャリアアップを正当に評価できていないことが、最大の問題点だと思います。実力のある社員であっても上司に気に入られないと昇格が絶対にない為に入社数年で退社してしまう事がとても多い」(大創産業、40代前半の男性社員)
大創産業は「情実人事」が横行して有望な人材を流出させているが、九九プラスの人事はもっと“政治的”だ。
「どの分野でも制度が整っていない会社なので、簡単に言えばどの派閥にどう付くかによって出世も決まってくる。だが、制度が整っていない=政権交代も早いので、一歩間違えれば下落する。役職もころころ変わり、良い意味では昇進もしやく、悪い意味では安定しない」(九九プラス、20代後半の男性社員)
「与党」につけば「○○チルドレン」としてスピード出世するが、政権交代で「野党」に転落したら…とは、最近の日本の政界を見るようだ。
業界3位のセリアは前出の社員の声にもあったように「年功序列が残っている」という。幹部も中間管理職も楽だが、それはそれで実績と能力のある社員の間に不満を生む。
「情実人事」「党派優先人事」に「年功序列人事」。100円ショップ業界は人事マネジメントが遅れていて社員は正当な評価をしてもらえず、納得のゆく昇進もできず、そのために貴重な人材が失われているようだ。
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次の成長を求め各社は海外進出を加速
大手の100円ショップチェーンはその草創期から「海外」と密接な関係を持ってきた。円高をバックに海外から大量に安く買い付ける「バイイングパワー」を発揮し「100円グッズ」の品揃えを増やしていった。
そういう意味では、デフレの象徴と言うよりむしろ、「円高の象徴」といった方が正確かもしれない。そのシンボル的な都市が中国・浙江省の義烏市で、一時は「100円グッズのふるさと」としてマスコミで盛んに紹介された。
しかし、最近の大手チェーンは大手スーパーのPB(自主企画商品)のやり方を導入し中国の製造業者と直接取引するようになり、義烏市の卸売業者にはあまり頼らなくなっている。
海外出店も、業界トップの大創産業は2001年の台湾を皮切りに現在、中国や東南アジア各国、米国、カナダなど海外28カ国に658店舗を展開。ブラジルにも「5レアル均一」の店を出店した。
ワッツはタイに「60バーツ均一」の店を出している。キャンドゥは中国の「10元均一」店から撤退したが海外への卸売りは続けている。海外店舗のないセリアも海外への卸売りは行っており、海外出店、海外卸売りは、国内市場が飽和状態の100円ショップ各社にとって今後、成長を維持するための生命線となりそうだ。
一方で、海外からはライバルもやって来ている。2012年7月には北欧のデンマークで「10クローネ(=約130円)ショップ」として知られる雑貨店「タイガー・コペンハーゲン」が大阪・ミナミに日本第1号店を出店した。
価格は「ワンコイン」が原則で最低100円から100円刻みで500円程度。欧州でデザインされた商品が特に女性客に受けているようだ。実際、オープン当日から大行列ができるほどの人気で、売れすぎて商品が足りなくなり臨時休業したほどだった。
女性を狙ったおしゃれな店舗づくりを積極的に行っているセリアなどは「黒船来航」に戦々恐々だろう。今後の成り行き次第では、「イケア」が日本の家具業界を揺り動かしたように、タイガーが日本の100円ショップ業界に新風を巻き起こすかもしれない。
円高の追い風を受けて海外、特に中国の製造業者、卸売業者の助けを借りて国内市場で成長。今は海外出店や海外卸売りに企業の将来を託しながら、欧州の同業者の日本進出に脅かされ、最近の円安傾向に神経をとがらせる。100円ショップは実はグローバルな業界なのだ。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年11月末現在、43万社、20万件の口コミが登録されています。