先進国で最低の女性管理職比率 日本の「ダイバーシティ」の実情 2013年1月15日 企業徹底研究 ツイート 日本経済新聞が1月7日付朝刊で掲載した「増えぬ『なでしこ管理職』、日本、先進国最低の12%」の記事がダイバーシティ推進関係者の間で話題になっている。 ダイバーシティは日本語で「多様性」の意味。人種に限らず、性別、年齢、働き方の違いなどの多様性を積極的に受け入れることで、優秀な人材を確保し、会社の成長につなげるいう考え方。日本では「女性の活用」で使われることが多い。 「11年の日本の全就業者に占める女性の比率は42.2%。米国、英国などの各国も45%前後で、欧米とほとんど変わらない。だが、企業の課長以上や管理的公務員を指す『管理的職業従事者』に女性が占める比率だと日本はわずか11.9%に落ち込む。先進国の中で最低水準というだけでなく、シンガポール(10年、34.3%)、フィリピン(同、52.7%)などにも後れをとる」 記事は、こう報じている。女性の積極的活用は「男女平等」の観点から語られがちだが、企業経営に好影響をもたらすとの指摘も増えつつあるとしている。 また、日本経済再生を掲げる第二次安倍内閣が発足したばかりの自民党も、去年暮れの衆院選政権公約で「指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする」という目標を掲げた。これを受け、「今年から国も実効的なダイバーシティ政策を打ち出してくるだろう」とダイバーシティ推進関係者たちは期待している。 ◇ ダイバーシティ先進企業では女性活用は進んでいるのか? 日経が先進国で最低水準と指摘した女性管理職比率だが、産業界もこれまでこの状況を放置してきたわけではない。 例えば、日産自動車は「エンジニア部門は15%、非エンジニア部門は50%を女性採用枠とする新卒採用ガイドラインを設定。女性管理職比率は17年4月に10%を目標とする」としている。三菱東京UFJ銀行も「2015年3月までに課長級以上の女性管理職を300人にする」などの女性管理職登用策を打ち出している。 経済同友会も12年10月に「企業は国際競争力向上のため、ダイバーシティ推進を第一義とする。女性の『意思決定ボード』への参画は経営戦略である」との趣旨の宣言を行い、産業界全体での取り組みの強化を提言している。 それでもダイバーシティは遅々として進まない。「国や大手企業がやってきたダイバーシティ推進は目標設定や制度設計が主眼。制度や組織を作れば、後は一人歩きでダイバーシティが進むと考えている。これでは先進国最低レベルに止まるのは当然」と、ある人材育成コンサルタントは指摘する。 一方で、ダイバーシティ先進企業といわれる会社での女性活用の実態はどうなのだろうか。 今回は例として雑誌『日経ウーマン』が行った「企業の女性活用度調査」で総合ランキングトップ3となった日本IBM、P&G、第一生命保険について、キャリコネに寄せられた社員の声から見てみよう。 「女性が働きやすい企業として『日経ウーマン』が実施した『女性が活躍する会社』ランキングの1位にもなったこともあり、女性管理者も複数いた気がするが、その後年々状況が変わってきているようで、今は当時よりも女性の管理者の数も減ってきているようだ」 日本IBMでコンサルタントとして働く、30代前半の男性社員は、ズバリと、こう明かしている。 女性社員はどう考えているのだろうか。営業部門で20代後半の女性社員は、案件の獲得が「短期成果主義」のため、ノルマのプレッシャーが大きいと言う。 「以前は通年で達成していれば良く、年度末の大型契約に向けて前半は仕込みに徹するということが許されたが、徐々に四半期、月次での達成率を見られるようなオペレーションへと変わったのは非常に辛い」 ワーク・ライフ・バランス(ワーバラ)も重要だ。この点についてSE(システム・エンジニア)で40代前半の女性社員は、こう説明する。 「短時間勤務制度などできるような制度はある。でも制度を使うと成績が悪くなる。会社は成績と勤務時間は関係ないと言うが、結局フルタイム勤務の人よりできるなんてことはあまりないので、評価が下がる」 この女性社員の話からは先進的と称されている日本IBMのダイバーシティは「名のみの制度」であることをうかがわせている。 ◇ 保険会社では「女性管理職の数は少なく、女性の役員がいない」 ランキングで2位のP&Gはどうだろうか。同社グループの中核の1社であるP&Gマックスファクターでショップスタッフをしている女性契約社員(30代前半)は、労働環境について、次のように話している。 「外資系企業だからか、常に売り上げ面ばかりで評価決定が行われる。上司も自分の売り上げによっては評価が落ちてしまうため、部下のフォローにまで手が回らないようだ」 同社のワーバラも正社員、非正社員を問わず、制度はあるが運用されていない事実をうかがわせる声が多い。例えば、販売促進で20代前半の女性契約社員は、こう話している。 「出産後は仕事を続けられずに退職される方が多い。むしろ寿退社が多く感じる。生涯仕事を続けたい方には働きにくい環境に感じるだろう。育児休暇はあるが(申請すると)嫌な顔をされる」 また、ランキング3位の第一生命保険も、ダイバーシティの実態は前出の2社と大差はないようだ。 「ノルマが給与に直結してくる仕事。会社に在籍している期間が長くなればなるほど基本給は減っていき、ノルマ達成等の歩合給の部分が増えていく。コンスタントに成績を出し続けられれば、その分返ってくる報酬も大きい。しかし、そのような人は滅多にいない」(20代後半の女性営業社員) 「頑張っただけの報酬は貰えるが、その基準がなかなか厳しい。ノルマがあり、やっとの思いでとれた契約もノルマ未達成なら容赦無く減給。常に減給に追われるのは精神的にやられてしまう」(30代前半の女性営業社員) 女性管理職登用についても。例えば、別の30代前半の女性営業社員は、ダイバーシティは生かされていないと指摘している。 「ダイバーシティに力を入れており、女性管理職の登用にも積極的だ。ただ、実態としてはまだ数は少なく、女性の役員はいない」 ◇ 「管理職の意識改革が重要」と専門家は言うが… 「女性は仕事ができない、いずれ辞める、と育成の手間ひまを惜しみ、チャンスも与えない。すると意欲が失われ、男ほど成果が挙げられなくなる。結果『女性はダメだ』との悪循環に陥っている」。ダイバーシティ推進論者の学識者は言う。 同時に「悪循環を断ち切るのは簡単だ。『使える』と信じて育成し、機会を与えれば好循環が生まれる。管理職の意識改革が重要だ」と口をそろえる。これは一見正論に思えるが、高みの見物の感が拭えない。 一方、前出の人材育成コンサルタントは「企業体質や職場環境とまったく合わない目標設定や制度導入をしているのが進まない理由だ。日本企業とは異質の欧米企業を手本にしたダイバーシティのガイドラインを打ち出しているのも根本的な間違い」と指摘している。
先進国で最低の女性管理職比率 日本の「ダイバーシティ」の実情
日本経済新聞が1月7日付朝刊で掲載した「増えぬ『なでしこ管理職』、日本、先進国最低の12%」の記事がダイバーシティ推進関係者の間で話題になっている。
ダイバーシティは日本語で「多様性」の意味。人種に限らず、性別、年齢、働き方の違いなどの多様性を積極的に受け入れることで、優秀な人材を確保し、会社の成長につなげるいう考え方。日本では「女性の活用」で使われることが多い。
「11年の日本の全就業者に占める女性の比率は42.2%。米国、英国などの各国も45%前後で、欧米とほとんど変わらない。だが、企業の課長以上や管理的公務員を指す『管理的職業従事者』に女性が占める比率だと日本はわずか11.9%に落ち込む。先進国の中で最低水準というだけでなく、シンガポール(10年、34.3%)、フィリピン(同、52.7%)などにも後れをとる」
記事は、こう報じている。女性の積極的活用は「男女平等」の観点から語られがちだが、企業経営に好影響をもたらすとの指摘も増えつつあるとしている。
また、日本経済再生を掲げる第二次安倍内閣が発足したばかりの自民党も、去年暮れの衆院選政権公約で「指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする」という目標を掲げた。これを受け、「今年から国も実効的なダイバーシティ政策を打ち出してくるだろう」とダイバーシティ推進関係者たちは期待している。
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ダイバーシティ先進企業では女性活用は進んでいるのか?
日経が先進国で最低水準と指摘した女性管理職比率だが、産業界もこれまでこの状況を放置してきたわけではない。
例えば、日産自動車は「エンジニア部門は15%、非エンジニア部門は50%を女性採用枠とする新卒採用ガイドラインを設定。女性管理職比率は17年4月に10%を目標とする」としている。三菱東京UFJ銀行も「2015年3月までに課長級以上の女性管理職を300人にする」などの女性管理職登用策を打ち出している。
経済同友会も12年10月に「企業は国際競争力向上のため、ダイバーシティ推進を第一義とする。女性の『意思決定ボード』への参画は経営戦略である」との趣旨の宣言を行い、産業界全体での取り組みの強化を提言している。
それでもダイバーシティは遅々として進まない。「国や大手企業がやってきたダイバーシティ推進は目標設定や制度設計が主眼。制度や組織を作れば、後は一人歩きでダイバーシティが進むと考えている。これでは先進国最低レベルに止まるのは当然」と、ある人材育成コンサルタントは指摘する。
一方で、ダイバーシティ先進企業といわれる会社での女性活用の実態はどうなのだろうか。
今回は例として雑誌『日経ウーマン』が行った「企業の女性活用度調査」で総合ランキングトップ3となった日本IBM、P&G、第一生命保険について、キャリコネに寄せられた社員の声から見てみよう。
「女性が働きやすい企業として『日経ウーマン』が実施した『女性が活躍する会社』ランキングの1位にもなったこともあり、女性管理者も複数いた気がするが、その後年々状況が変わってきているようで、今は当時よりも女性の管理者の数も減ってきているようだ」
日本IBMでコンサルタントとして働く、30代前半の男性社員は、ズバリと、こう明かしている。
女性社員はどう考えているのだろうか。営業部門で20代後半の女性社員は、案件の獲得が「短期成果主義」のため、ノルマのプレッシャーが大きいと言う。
「以前は通年で達成していれば良く、年度末の大型契約に向けて前半は仕込みに徹するということが許されたが、徐々に四半期、月次での達成率を見られるようなオペレーションへと変わったのは非常に辛い」
ワーク・ライフ・バランス(ワーバラ)も重要だ。この点についてSE(システム・エンジニア)で40代前半の女性社員は、こう説明する。
「短時間勤務制度などできるような制度はある。でも制度を使うと成績が悪くなる。会社は成績と勤務時間は関係ないと言うが、結局フルタイム勤務の人よりできるなんてことはあまりないので、評価が下がる」
この女性社員の話からは先進的と称されている日本IBMのダイバーシティは「名のみの制度」であることをうかがわせている。
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保険会社では「女性管理職の数は少なく、女性の役員がいない」
ランキングで2位のP&Gはどうだろうか。同社グループの中核の1社であるP&Gマックスファクターでショップスタッフをしている女性契約社員(30代前半)は、労働環境について、次のように話している。
「外資系企業だからか、常に売り上げ面ばかりで評価決定が行われる。上司も自分の売り上げによっては評価が落ちてしまうため、部下のフォローにまで手が回らないようだ」
同社のワーバラも正社員、非正社員を問わず、制度はあるが運用されていない事実をうかがわせる声が多い。例えば、販売促進で20代前半の女性契約社員は、こう話している。
「出産後は仕事を続けられずに退職される方が多い。むしろ寿退社が多く感じる。生涯仕事を続けたい方には働きにくい環境に感じるだろう。育児休暇はあるが(申請すると)嫌な顔をされる」
また、ランキング3位の第一生命保険も、ダイバーシティの実態は前出の2社と大差はないようだ。
「ノルマが給与に直結してくる仕事。会社に在籍している期間が長くなればなるほど基本給は減っていき、ノルマ達成等の歩合給の部分が増えていく。コンスタントに成績を出し続けられれば、その分返ってくる報酬も大きい。しかし、そのような人は滅多にいない」(20代後半の女性営業社員)
「頑張っただけの報酬は貰えるが、その基準がなかなか厳しい。ノルマがあり、やっとの思いでとれた契約もノルマ未達成なら容赦無く減給。常に減給に追われるのは精神的にやられてしまう」(30代前半の女性営業社員)
女性管理職登用についても。例えば、別の30代前半の女性営業社員は、ダイバーシティは生かされていないと指摘している。
「ダイバーシティに力を入れており、女性管理職の登用にも積極的だ。ただ、実態としてはまだ数は少なく、女性の役員はいない」
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「管理職の意識改革が重要」と専門家は言うが…
「女性は仕事ができない、いずれ辞める、と育成の手間ひまを惜しみ、チャンスも与えない。すると意欲が失われ、男ほど成果が挙げられなくなる。結果『女性はダメだ』との悪循環に陥っている」。ダイバーシティ推進論者の学識者は言う。
同時に「悪循環を断ち切るのは簡単だ。『使える』と信じて育成し、機会を与えれば好循環が生まれる。管理職の意識改革が重要だ」と口をそろえる。これは一見正論に思えるが、高みの見物の感が拭えない。
一方、前出の人材育成コンサルタントは「企業体質や職場環境とまったく合わない目標設定や制度導入をしているのが進まない理由だ。日本企業とは異質の欧米企業を手本にしたダイバーシティのガイドラインを打ち出しているのも根本的な間違い」と指摘している。