ハンバーガー業界 長時間労働で疲れても社員は0円でにっこりスマイル 2013年1月17日 企業徹底研究 ツイート 米国生まれのファストフード、ハンバーガー。日本で最初のハンバーガーショップはどこだろうか。1971年に東京・銀座の三越百貨店に開店した「マクドナルド」だと思っている人が多いが、実はそうではない。 佐世保や沖縄の米軍基地周辺や東京・六本木で主に在日の米国人を相手に商売した店を除けば、街でよく見かけるタイプのハンバーガーショップは、70年にダイエー系の「ドムドム」が東京・町田のダイエー店舗内に開いた店舗が最初とされている。また、数カ月で閉店した「バーガーシェフ茅ヶ崎店」という説もある。 そして、71年のマクドナルドに続き、72年に「モスバーガー」が東京・成増の商店街、同年には「ロッテリア」が東京・日本橋の高島屋別館内に第1号店をオープン。現在の業界のビッグスリーが出揃った。 70~80年代にかけて猛烈な勢いで全国に店舗を増やしたハンバーガーショップも、87年のマクドナルド対ロッテリアの「390円対380円セット対決」の頃から熾烈(しれつ)な低価格競争時代に入る。そして、マクドナルドはハンバーガー1個を65円、さらに59円で販売。業界トップ企業自らが価格破壊を仕掛けたことで、大きな話題を呼んだ。 現在の価格は100円だが、マクドナルドは牛丼店チェーンや100円ショップ、ユニクロなどと並び「デフレの象徴」と呼ばれている。そんなハンバーガーショップとは、どんな業界なのだろうか。キャリコネに寄せられた各社社員の声を基に分析していこう。 ◇ BSEで打撃を受けるも市場は健闘 ハンバーガー業界は01~03年にかけて牛肉の「BSE(牛海綿状脳症)問題」で、3年連続で市場が縮小し、深刻な打撃を受けた。この時期、「森永LOVE」「明治サンテオレ」など撤退したり縮小するチェーンが相次いだが、ビッグスリーはシェアを伸ばした。それ以後は対前年比マイナスの年もあったが、外食産業全体が不振な中で健闘している。 その顔ぶれだが、「マクドナルド」がトップ。そして、「モスバーガー」「ロッテリア」と続く。ただ2位とは約5倍の差があり、ほとんどマクドナルドの一人勝ち状態だ。 日本マクドナルドホールディングス(HD)とモスフードサービスは上場企業。ロッテの関連会社のロッテリア、サントリーの関連会社のファーストキッチン、フレッシュネスは非上場だ。そのほかには「ドムドムハンバーガー」(ダイエーの傘下)、「バーガーキング」(ロッテの傘下)、「ベッカーズ」(JR東日本の傘下)などのチェーンがある。 ◇ マクドナルドは別格の報酬でも業績に結びつかず 70~80年代、ハンバーガーショップの給与水準は良かった。急成長する新産業で、資本が入っていないブランドライセンスだけでも「外資系」とみなされてイメージも上々で、優秀な人材を集めていた。 今の経営幹部はその頃の入社組だが、「デフレの象徴」になってしまった現在の社員は、当時とはまるで異なる境遇に置かれている。それでもやはり、正社員の店長職で比較すると「勝ち組」のマクドナルドは別格のようだ。 「会社の業績×個人の業績でインセンティブがプラスされます。個人の業績評価は上司との面談で決定されるが、概ね公正な評価が下されるとは思います。個人の努力が収入に反映される点はモチベーションになるかと思います」(日本マクドナルド、30代後半の男性社員、年収700万円) 日本マクドナルドは社員から民事訴訟を起こされていた「名ばかり管理職」の店長の残業代を払うことになった。しかし、報酬が良いなら良いで、働く者は「仕事中毒」になってしまうと言う。 「ワーカホリックの人間が多い。家庭を大切にするべきだ。しかし評価が取れれば若くてもかなりの給与がもらえるので、やる気もでる。なので取り付かれたようにどっぷりと仕事に使ってしまう。家庭に入れない。なので家庭離れしてしまい、さらに仕事依存になってしまう」(日本マクドナルド、20代後半の男性社員) ただ、「報酬が一番ならマンパワーを発揮して業績で他社を引き離せる」とはいかないようで、同社の既存店売上高は4月から9カ月連続の前年比マイナス更新中で、2012年は9年ぶりに前年を下回ってしまった。 ◇ 米国風と日本風を会社の都合で使い分け ハンバーガーショップで、現場でパートやアルバイトを指揮する店長は、会社の屋台骨を支える重要な職位だ。しかし、忙しくて日々消耗している。 「一日10~12時間労働は当たり前。休みの日でも店舗に来ないと仕事は終わらない。誕生日休暇というものがあるが、取得している人を見たことがない。体力的にキツく、入社して1年以内に半数以上がやめる」(日本マクドナルド、20代前半の男性社員) マクドナルドは、24時間営業の店舗を増やす一方、注文から60秒で出てこなければハンバーガー無料券を渡す「60秒ルール」を実施。店舗スタッフの尻にムチを入れている。 ハンバーガー業界では他の外食企業で最近よく聞かれる「数店舗かけもち店長」という悲痛な激務話はないが、やはり休みはなかなか取れないという。これは各社共通のようだ。 「飲食店は、立ちっぱなしの仕事でアルバイトなどの定着率が低いため、常に人手不足。その穴は必然的に社員が埋めることになる。店舗にもよるが、週に2日の休みはまず、ない。土日は昼と夜のピークに出ていく事も普通になる」(モスフードサービス、20代前半の男性フロアスタッフ) 「とにかく休みがない。たまに休みがあっても店長会議、クレーム処理、オペレーション、シフト表の制作、新人教育など、やることが多すぎる」(ロッテリアの20代後半の男性正社員) この業界はカラフルな外見の店舗だけでなく、フランチャイズ方式、効率的な食材管理、新しい人事評価や研修システム、横文字があふれるマニュアル、スマートな宣伝やキャンペーンなど、米国直輸入のオペレーションが外食産業のお手本になってきた。 日本マクドナルドは性別や学歴や入社年次を問わず、昇進も昇給で実績本位、実力主義が徹底し「日本企業離れ」していると昔からいわれていた。しかし、実際はそうではないようだ。 「どの会社でもそうかも知れませんが、上司の言うこと求めることを、自分もそうしたかったかのように、納得している雰囲気を出し、愚直に実行できる人が出世します」(日本マクドナルド、30代後半の男性社員) 「若くて店長に気に入られれば店長までは割とすぐになれますが、それ以降は今はほとんど望めません。フランチャイズ化が進み、ポストがなくなってきてます。今後ますますその傾向が進むと思います」(日本マクドナルド、30代前半の男性社員) 昇進させようにもポストが足りない、上司の好き嫌いで昇進が左右される情実人事は、日本の大企業なら、どこでも抱えている問題で、その意味では同社は「日本企業化」している。そして、実情人事は他社も同じようだ。 「査定制度が曖昧で、上司からの一方的な評価による。売り上げなど数値的評価というよりも、好き嫌い評価のほうが、査定に大きく響くため、派閥などのもとになっている。同じ仕事をしていても上司が変わることで、評価もまったく変わってきてしまう」(ロッテリアの20代後半の女性正社員) 情実人事は米国にもあるが、それが人事評価の査定制度より優先されるのが、日本オリジナルのスタイルだ。ハンバーガーは米国の食文化の象徴だが、日本のハンバーガーショップ経営の実態は米国の企業文化とは違うといえるだろう。 ◇ 一人勝ちのマクドナルドが「一人負け」する可能性も 「勝ち組」と呼ばれるマクドナルドは一人勝ちで余裕の戦いぶりかと思えばそうではない。出店戦略も商品戦略も価格政策も以前から迷走している。 12年は大型店舗を中心に出店増の戦略を進めていたはずが、11月に「2013年12月までに通常の閉店に加えて110店舗を閉店する」と発表した。客数は増えても安い商品ばかりを注文されて儲からない「利益なき繁忙」による業績の悪化で、低価格戦略のひずみが露呈してきたからだ。 一方で、この業界には今、変化の兆しがあらわれている。それは、09年末に一度撤退しながら11年末に再参入した「ウェンディーズ」や「バーガーキング」の健闘だ。 2社の戦略は端的に言うと「中身で勝負」。調査会社の富士経済研究所は、こうした勢力の台頭で今後、市場自体は拡大してもマクドナルドは売上を落として「一人負け」になると予測している。 それは、消費者を対象に、好きなハンバーガーチェーンのアンケート調査を行うと、「中身で勝負」路線のモスバーガーやフレッシュネスバーガーが常に上位で、マクドナルドは下位に甘んじていることが背景にある。「安いだけ」ではいつまでも王座を守れないということだろう。 モスフードサービスのある社員は、マクドナルドとは「求めている方向性が違う」と言う。その方向性の違いをうまく発展させることができれば、マクドナルドを一人勝ちから引きずり下ろし、低価格競争とは違った次元の競争に持ち込めるだろう。消費者も本当は、それを望んでいる。
ハンバーガー業界 長時間労働で疲れても社員は0円でにっこりスマイル
米国生まれのファストフード、ハンバーガー。日本で最初のハンバーガーショップはどこだろうか。1971年に東京・銀座の三越百貨店に開店した「マクドナルド」だと思っている人が多いが、実はそうではない。
佐世保や沖縄の米軍基地周辺や東京・六本木で主に在日の米国人を相手に商売した店を除けば、街でよく見かけるタイプのハンバーガーショップは、70年にダイエー系の「ドムドム」が東京・町田のダイエー店舗内に開いた店舗が最初とされている。また、数カ月で閉店した「バーガーシェフ茅ヶ崎店」という説もある。
そして、71年のマクドナルドに続き、72年に「モスバーガー」が東京・成増の商店街、同年には「ロッテリア」が東京・日本橋の高島屋別館内に第1号店をオープン。現在の業界のビッグスリーが出揃った。
70~80年代にかけて猛烈な勢いで全国に店舗を増やしたハンバーガーショップも、87年のマクドナルド対ロッテリアの「390円対380円セット対決」の頃から熾烈(しれつ)な低価格競争時代に入る。そして、マクドナルドはハンバーガー1個を65円、さらに59円で販売。業界トップ企業自らが価格破壊を仕掛けたことで、大きな話題を呼んだ。
現在の価格は100円だが、マクドナルドは牛丼店チェーンや100円ショップ、ユニクロなどと並び「デフレの象徴」と呼ばれている。そんなハンバーガーショップとは、どんな業界なのだろうか。キャリコネに寄せられた各社社員の声を基に分析していこう。
◇
BSEで打撃を受けるも市場は健闘
ハンバーガー業界は01~03年にかけて牛肉の「BSE(牛海綿状脳症)問題」で、3年連続で市場が縮小し、深刻な打撃を受けた。この時期、「森永LOVE」「明治サンテオレ」など撤退したり縮小するチェーンが相次いだが、ビッグスリーはシェアを伸ばした。それ以後は対前年比マイナスの年もあったが、外食産業全体が不振な中で健闘している。
◇
マクドナルドは別格の報酬でも業績に結びつかず
70~80年代、ハンバーガーショップの給与水準は良かった。急成長する新産業で、資本が入っていないブランドライセンスだけでも「外資系」とみなされてイメージも上々で、優秀な人材を集めていた。
今の経営幹部はその頃の入社組だが、「デフレの象徴」になってしまった現在の社員は、当時とはまるで異なる境遇に置かれている。それでもやはり、正社員の店長職で比較すると「勝ち組」のマクドナルドは別格のようだ。
「会社の業績×個人の業績でインセンティブがプラスされます。個人の業績評価は上司との面談で決定されるが、概ね公正な評価が下されるとは思います。個人の努力が収入に反映される点はモチベーションになるかと思います」(日本マクドナルド、30代後半の男性社員、年収700万円)
日本マクドナルドは社員から民事訴訟を起こされていた「名ばかり管理職」の店長の残業代を払うことになった。しかし、報酬が良いなら良いで、働く者は「仕事中毒」になってしまうと言う。
「ワーカホリックの人間が多い。家庭を大切にするべきだ。しかし評価が取れれば若くてもかなりの給与がもらえるので、やる気もでる。なので取り付かれたようにどっぷりと仕事に使ってしまう。家庭に入れない。なので家庭離れしてしまい、さらに仕事依存になってしまう」(日本マクドナルド、20代後半の男性社員)
ただ、「報酬が一番ならマンパワーを発揮して業績で他社を引き離せる」とはいかないようで、同社の既存店売上高は4月から9カ月連続の前年比マイナス更新中で、2012年は9年ぶりに前年を下回ってしまった。
◇
米国風と日本風を会社の都合で使い分け
ハンバーガーショップで、現場でパートやアルバイトを指揮する店長は、会社の屋台骨を支える重要な職位だ。しかし、忙しくて日々消耗している。
「一日10~12時間労働は当たり前。休みの日でも店舗に来ないと仕事は終わらない。誕生日休暇というものがあるが、取得している人を見たことがない。体力的にキツく、入社して1年以内に半数以上がやめる」(日本マクドナルド、20代前半の男性社員)
マクドナルドは、24時間営業の店舗を増やす一方、注文から60秒で出てこなければハンバーガー無料券を渡す「60秒ルール」を実施。店舗スタッフの尻にムチを入れている。
ハンバーガー業界では他の外食企業で最近よく聞かれる「数店舗かけもち店長」という悲痛な激務話はないが、やはり休みはなかなか取れないという。これは各社共通のようだ。
「飲食店は、立ちっぱなしの仕事でアルバイトなどの定着率が低いため、常に人手不足。その穴は必然的に社員が埋めることになる。店舗にもよるが、週に2日の休みはまず、ない。土日は昼と夜のピークに出ていく事も普通になる」(モスフードサービス、20代前半の男性フロアスタッフ)
「とにかく休みがない。たまに休みがあっても店長会議、クレーム処理、オペレーション、シフト表の制作、新人教育など、やることが多すぎる」(ロッテリアの20代後半の男性正社員)
この業界はカラフルな外見の店舗だけでなく、フランチャイズ方式、効率的な食材管理、新しい人事評価や研修システム、横文字があふれるマニュアル、スマートな宣伝やキャンペーンなど、米国直輸入のオペレーションが外食産業のお手本になってきた。
日本マクドナルドは性別や学歴や入社年次を問わず、昇進も昇給で実績本位、実力主義が徹底し「日本企業離れ」していると昔からいわれていた。しかし、実際はそうではないようだ。
「どの会社でもそうかも知れませんが、上司の言うこと求めることを、自分もそうしたかったかのように、納得している雰囲気を出し、愚直に実行できる人が出世します」(日本マクドナルド、30代後半の男性社員)
「若くて店長に気に入られれば店長までは割とすぐになれますが、それ以降は今はほとんど望めません。フランチャイズ化が進み、ポストがなくなってきてます。今後ますますその傾向が進むと思います」(日本マクドナルド、30代前半の男性社員)
昇進させようにもポストが足りない、上司の好き嫌いで昇進が左右される情実人事は、日本の大企業なら、どこでも抱えている問題で、その意味では同社は「日本企業化」している。そして、実情人事は他社も同じようだ。
「査定制度が曖昧で、上司からの一方的な評価による。売り上げなど数値的評価というよりも、好き嫌い評価のほうが、査定に大きく響くため、派閥などのもとになっている。同じ仕事をしていても上司が変わることで、評価もまったく変わってきてしまう」(ロッテリアの20代後半の女性正社員)
情実人事は米国にもあるが、それが人事評価の査定制度より優先されるのが、日本オリジナルのスタイルだ。ハンバーガーは米国の食文化の象徴だが、日本のハンバーガーショップ経営の実態は米国の企業文化とは違うといえるだろう。
◇
一人勝ちのマクドナルドが「一人負け」する可能性も
「勝ち組」と呼ばれるマクドナルドは一人勝ちで余裕の戦いぶりかと思えばそうではない。出店戦略も商品戦略も価格政策も以前から迷走している。
12年は大型店舗を中心に出店増の戦略を進めていたはずが、11月に「2013年12月までに通常の閉店に加えて110店舗を閉店する」と発表した。客数は増えても安い商品ばかりを注文されて儲からない「利益なき繁忙」による業績の悪化で、低価格戦略のひずみが露呈してきたからだ。
一方で、この業界には今、変化の兆しがあらわれている。それは、09年末に一度撤退しながら11年末に再参入した「ウェンディーズ」や「バーガーキング」の健闘だ。
2社の戦略は端的に言うと「中身で勝負」。調査会社の富士経済研究所は、こうした勢力の台頭で今後、市場自体は拡大してもマクドナルドは売上を落として「一人負け」になると予測している。
それは、消費者を対象に、好きなハンバーガーチェーンのアンケート調査を行うと、「中身で勝負」路線のモスバーガーやフレッシュネスバーガーが常に上位で、マクドナルドは下位に甘んじていることが背景にある。「安いだけ」ではいつまでも王座を守れないということだろう。
モスフードサービスのある社員は、マクドナルドとは「求めている方向性が違う」と言う。その方向性の違いをうまく発展させることができれば、マクドナルドを一人勝ちから引きずり下ろし、低価格競争とは違った次元の競争に持ち込めるだろう。消費者も本当は、それを望んでいる。