カフェ業界 おしゃれな店なのに全然おしゃれじゃない舞台裏 2013年1月31日 企業徹底研究 ツイート 「スターバックス」「タリーズ」「エクセルシオール」「サンマルクカフェ」「カフェ・ベローチェ」に「ドトール」「プロント」。 こうしたセルフサービスのカフェは、オフィス街や都心の繁華街、郊外の駅前でも必ず見つかる。このジャンルを「セルフスタイルカフェ」といい、外食産業の中で数少ない成長市場だった。 市場はこれまで、狭くて立ち飲み主体で低価格タイプの「ドトール」や「プロント」といった店が大勢を占めていた。そんな中、1996年8月に“黒船”が来航する。米国の「スターバックス」が銀座に第1号店を開いたのだ。 スターバックスは、ドリンクの種類の多さ、新鮮な味覚、全面禁煙、落ち着いた広い店内、センスのある内装などが女性客を中心に支持され、未出店の地域で「スターバックス誘致運動」が起きるほど人気となった。 そして、97年には同じ米シアトル系の「タリーズ」が上陸。99年には「サンマルクカフェ」やドトールの新業態「エクセルシオール」の1号店が誕生する。その後、「シアトルズベストコーヒー」「ニューヨーカーズ・カフェ」「セガフレードザネッティー」「カフェ・ド・クリエ」などが続々と出店。2000年代の国内の大都市ではちょっとしたカフェブームが起きた。 今回は、このカフェ業界について、キャリコネに寄せられた各社社員の口コミなどから、業界の現状を分析していこう。 ◇ 「スターバックス」は国内1000店舗、年商1000億円企業に成長 財団法人食の安全・安心財団の統計によると、日本の「喫茶店」の市場規模は82年の1兆7396億円をピークに長期低落傾向が続いている。「スターバックス」が上陸した96年以降も、11年までに25.6%縮小。市場の4分の1が消えた。 カフェブームの盛り上がりの陰で、昔ながらの個人営業や小規模経営の喫茶店は市場を奪われ消えていった。一方で、セルフスタイルカフェは大きく成長。特に、「スターバックス」は今や店舗数や売上高で他社を大きく引き離している。 1店舗当たりの年間売上高は、小型店中心の「ドトール」「プロント」の平均2170万円に対し、それ以外は平均8447万円と約4倍だ。「カフェ」は客単価が高く、お客さんが入っている限り、経営は安定する業態なのだ。 ◇ スターバックス 正社員以外は恵まれない報酬 「カフェ」も、居酒屋チェーンやハンバーガーショップと同じく外食産業という点では変わらない。そこで働く者には長時間勤務やクレーマー対応、アルバイトのマネジメントなど、おしゃれにはほど遠い現実がある。 まずは報酬面を見てみよう。業界首位のスターバックスは正社員だけでなく契約社員やアルバイトの店長もいる。 大半は女性だが、正社員とそれ以外の報酬の差は激しく、同じ年齢で2倍以上の差がつくことも珍しくないという。そのため、正社員は「悪くない」、それ以外は「少なすぎる」と、従業員の声は二つに割れている。 「基本的に10日/月の休日に加え有給休暇があり、プライベートな時間は確保しやすい。給与水準に妥当性はある」(スターバックスコーヒージャパン、30代後半の男性社員、年収420万円) 「業務内容に対して、圧倒的に報酬が少なすぎる。新卒や店長となんら変わらない業務内容を行っているが、それに見合った報酬でもなければ、それを改善する様子が全く見受けられない」(スターバックスコーヒージャパン、20代前半の男性契約社員、年収240万円) それ以外の企業では、店長クラスの正社員でも報酬面での不満が多い。 「労働時間の長さとお給料の額が合致しない。飲食業にそれを求めるのはおかしいと思うかもしれないが、これだけは納得がいかなかった」(タリーズコーヒージャパン、20代前半の女性社員、年収200万円) 「給与は、年齢給+勤務年数の合計が基本。労働時間から換算すると、少々少ない感がある。有給・福利厚生は、望めない。各種補助も充実しているとは言えない」(サンマルクカフェ、30代前半の男性社員、年収324万円) 「基本的に福利厚生は悪いです。住宅補助もでず、給料も安いので一人暮らしで生活をすると非常に厳しいです」(「エクセルシオール」を運営するドトール・日レスホールディングスの20代前半の女性社員、年収300万円) 店長を任されると必ず悩まされるのが店内の人間関係だ。経験もスキルも勤労意欲もバラツキのあるアルバイトやパートを管理して、売り上げなど結果を出さなければならない。 また、外食産業の昇進・出世は「店長にはすぐになれても、その先はどうなのか?」という点が、どの企業でも大きな問題になっている。大量出店の成長期が終われば上のポストは必ず不足する。10年ほど前はブームだったカフェもすでにその時期に入っている。 例えば、スターバックスは、副店長→店長→エリアマネージャー→本社サポートセンター(バックオフィス)というのが一般的なキャリアパスだ。しかし、実際は「店長やの上の職位に昇格するのは順番待ち」(スターバックスジャパンの社員)という。 ◇ いつどんな状況でも“お客様が第一” 外食産業から「忙しい」という言葉を取ったら、何も残らない。競争が厳しいので、ヒマな店はたちまち淘汰されるからだ。それはカフェでも変わらない。 「体育会系のノリなのか、忙しく働くことに美学を感じているところがあり、離職率の高さに納得でしかなかった」(タリーズコーヒージャパンの20代前半の女性正社員) 「店舗スタッフで繁忙店所属の場合、体力が重要です。混雑時に的確にサービスを提供するだけでなく、早さも重要です」(スターバックスコーヒージャパンの20代前半の男性契約社員) 外食といえばマクドナルドに代表される「マニュアル主義」が有名だ。しかし、スターバックスにはオペレーションマニュアルが存在せず、接客で「基本的にはNoといわない」ルールがある。 「いつどんな状況でもお客様第一。お客様によっては傍若無人なふるまいの方がいらしたり、立派な大人に見える方でも常識から外れた行動をなさる方がいても『お客様』として対応しなければならない」(スターバックスコーヒージャパン、40代前半の女性ショップスタッフ) 客筋が良いと言われているスターバックスでもトイレで盗撮騒ぎが起きた店もあったという。「不条理なこと」や「納得のいかないこと」でも、「ニコニコと笑顔を絶やさずにいなければならない」というのが外食産業。これは、どの外食チェーンでも同じだ。 社風はどうなのだろうか。例えば、スターバックスは、良くも悪くも自由で型にはめない「外資系」だ。 「マニュアルがないと言ってもお客様に満足していただくための考え方や理念が社員からアルバイトスタッフまで浸透しているので、自分でお客様に喜んでもらえる方法を考えて実行していく文化があり、成長しやすい環境でした」(スターバックスコーヒージャパン、20代後半の男性アルバイト) スターバックスが「外資系ノリ」なら、岡山県が本社のサンマルクは「地方企業ノリ」を残しているようだ。 「職場は明るいです。営業でも、厳しくノルマを追及されることはありません。ただ、とても内向的、馴れ合い的、家庭的な雰囲気の会社で、プライベートと仕事をくっきりメリハリつけたい人には抵抗があるでしょう」(サンマルクカフェ、30代前半の女性社員) ◇ ブランドで栄えても価値の低下で滅びかねない カフェ・コーヒーショップ業界は「デフレ下の低価格競争からどうやって脱皮するか、一つの方向性を示した」という評価がある。 従来は「ドトール」や「プロント」が、立ち飲み型の小型店でコーヒーを100円台の低価格で提供し、ひたすら客回転を上げて稼ぐというビジネスモデルでしのぎを削っていた。 ところが、海外から来た“黒船カフェ”は、お客さんに「おしゃれなプチぜいたく」を感じさせるブランドモデルを持ち込んで成功を収めた。そんな「デフレ脱却策」は、外食の他の業界にも参考になるのではないかというのだ。 「スターバックス」の場合、人魚のマークが入ったチルドカップコーヒーをテイクアウトして街中で持ち歩いたり、職場に持ち込むのが「おしゃれ」とされていた。それがブランドとなり、当時は確かに価値を生んでいた。 しかし、それも、コーヒーの味と同様、やがて飽きられる。スターバックスは国内の店舗数が1000店に近づいて、「どこに行っても店がある」という状況になり、希少価値が薄れた。しかも、チルドカップコーヒーのようなオリジナル商品をコンビニで販売し、ブランドの安売りまでしている。 事業を拡大すればするほどブランドの価値が低下し、お客さんが「昔は良かった」と離れていくのは、どの業界でも聞く話だ。実際、スターバックスは、米国で数年前に、その負のサイクルに陥り、売り上げ減少に苦しんだ。その心配があるのは、ブランドに重きを置く「タリーズ」も「エクセルシオール」も同じだろう。 ブランドによって栄えながら、経営の舵取りを誤り、ブランド価値が低下し滅んだ企業は、世界にも日本にも多々ある。企業経営にとってブランドとは、薬にも毒にもなり、取り扱いが厄介なものなのだ。90年代後半にさっそうと登場してブームを呼び、今や都市の風景に溶け込んだかに見えるセルフスタイルカフェだが、実際は今、重大な岐路に立たされている。
カフェ業界 おしゃれな店なのに全然おしゃれじゃない舞台裏
「スターバックス」「タリーズ」「エクセルシオール」「サンマルクカフェ」「カフェ・ベローチェ」に「ドトール」「プロント」。
こうしたセルフサービスのカフェは、オフィス街や都心の繁華街、郊外の駅前でも必ず見つかる。このジャンルを「セルフスタイルカフェ」といい、外食産業の中で数少ない成長市場だった。
市場はこれまで、狭くて立ち飲み主体で低価格タイプの「ドトール」や「プロント」といった店が大勢を占めていた。そんな中、1996年8月に“黒船”が来航する。米国の「スターバックス」が銀座に第1号店を開いたのだ。
スターバックスは、ドリンクの種類の多さ、新鮮な味覚、全面禁煙、落ち着いた広い店内、センスのある内装などが女性客を中心に支持され、未出店の地域で「スターバックス誘致運動」が起きるほど人気となった。
そして、97年には同じ米シアトル系の「タリーズ」が上陸。99年には「サンマルクカフェ」やドトールの新業態「エクセルシオール」の1号店が誕生する。その後、「シアトルズベストコーヒー」「ニューヨーカーズ・カフェ」「セガフレードザネッティー」「カフェ・ド・クリエ」などが続々と出店。2000年代の国内の大都市ではちょっとしたカフェブームが起きた。
今回は、このカフェ業界について、キャリコネに寄せられた各社社員の口コミなどから、業界の現状を分析していこう。
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「スターバックス」は国内1000店舗、年商1000億円企業に成長
財団法人食の安全・安心財団の統計によると、日本の「喫茶店」の市場規模は82年の1兆7396億円をピークに長期低落傾向が続いている。「スターバックス」が上陸した96年以降も、11年までに25.6%縮小。市場の4分の1が消えた。
カフェブームの盛り上がりの陰で、昔ながらの個人営業や小規模経営の喫茶店は市場を奪われ消えていった。一方で、セルフスタイルカフェは大きく成長。特に、「スターバックス」は今や店舗数や売上高で他社を大きく引き離している。
1店舗当たりの年間売上高は、小型店中心の「ドトール」「プロント」の平均2170万円に対し、それ以外は平均8447万円と約4倍だ。「カフェ」は客単価が高く、お客さんが入っている限り、経営は安定する業態なのだ。
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スターバックス 正社員以外は恵まれない報酬
「カフェ」も、居酒屋チェーンやハンバーガーショップと同じく外食産業という点では変わらない。そこで働く者には長時間勤務やクレーマー対応、アルバイトのマネジメントなど、おしゃれにはほど遠い現実がある。
まずは報酬面を見てみよう。業界首位のスターバックスは正社員だけでなく契約社員やアルバイトの店長もいる。
大半は女性だが、正社員とそれ以外の報酬の差は激しく、同じ年齢で2倍以上の差がつくことも珍しくないという。そのため、正社員は「悪くない」、それ以外は「少なすぎる」と、従業員の声は二つに割れている。
「基本的に10日/月の休日に加え有給休暇があり、プライベートな時間は確保しやすい。給与水準に妥当性はある」(スターバックスコーヒージャパン、30代後半の男性社員、年収420万円)
「業務内容に対して、圧倒的に報酬が少なすぎる。新卒や店長となんら変わらない業務内容を行っているが、それに見合った報酬でもなければ、それを改善する様子が全く見受けられない」(スターバックスコーヒージャパン、20代前半の男性契約社員、年収240万円)
それ以外の企業では、店長クラスの正社員でも報酬面での不満が多い。
「労働時間の長さとお給料の額が合致しない。飲食業にそれを求めるのはおかしいと思うかもしれないが、これだけは納得がいかなかった」(タリーズコーヒージャパン、20代前半の女性社員、年収200万円)
「給与は、年齢給+勤務年数の合計が基本。労働時間から換算すると、少々少ない感がある。有給・福利厚生は、望めない。各種補助も充実しているとは言えない」(サンマルクカフェ、30代前半の男性社員、年収324万円)
「基本的に福利厚生は悪いです。住宅補助もでず、給料も安いので一人暮らしで生活をすると非常に厳しいです」(「エクセルシオール」を運営するドトール・日レスホールディングスの20代前半の女性社員、年収300万円)
店長を任されると必ず悩まされるのが店内の人間関係だ。経験もスキルも勤労意欲もバラツキのあるアルバイトやパートを管理して、売り上げなど結果を出さなければならない。
また、外食産業の昇進・出世は「店長にはすぐになれても、その先はどうなのか?」という点が、どの企業でも大きな問題になっている。大量出店の成長期が終われば上のポストは必ず不足する。10年ほど前はブームだったカフェもすでにその時期に入っている。
例えば、スターバックスは、副店長→店長→エリアマネージャー→本社サポートセンター(バックオフィス)というのが一般的なキャリアパスだ。しかし、実際は「店長やの上の職位に昇格するのは順番待ち」(スターバックスジャパンの社員)という。
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いつどんな状況でも“お客様が第一”
外食産業から「忙しい」という言葉を取ったら、何も残らない。競争が厳しいので、ヒマな店はたちまち淘汰されるからだ。それはカフェでも変わらない。
「体育会系のノリなのか、忙しく働くことに美学を感じているところがあり、離職率の高さに納得でしかなかった」(タリーズコーヒージャパンの20代前半の女性正社員)
「店舗スタッフで繁忙店所属の場合、体力が重要です。混雑時に的確にサービスを提供するだけでなく、早さも重要です」(スターバックスコーヒージャパンの20代前半の男性契約社員)
外食といえばマクドナルドに代表される「マニュアル主義」が有名だ。しかし、スターバックスにはオペレーションマニュアルが存在せず、接客で「基本的にはNoといわない」ルールがある。
「いつどんな状況でもお客様第一。お客様によっては傍若無人なふるまいの方がいらしたり、立派な大人に見える方でも常識から外れた行動をなさる方がいても『お客様』として対応しなければならない」(スターバックスコーヒージャパン、40代前半の女性ショップスタッフ)
客筋が良いと言われているスターバックスでもトイレで盗撮騒ぎが起きた店もあったという。「不条理なこと」や「納得のいかないこと」でも、「ニコニコと笑顔を絶やさずにいなければならない」というのが外食産業。これは、どの外食チェーンでも同じだ。
社風はどうなのだろうか。例えば、スターバックスは、良くも悪くも自由で型にはめない「外資系」だ。
「マニュアルがないと言ってもお客様に満足していただくための考え方や理念が社員からアルバイトスタッフまで浸透しているので、自分でお客様に喜んでもらえる方法を考えて実行していく文化があり、成長しやすい環境でした」(スターバックスコーヒージャパン、20代後半の男性アルバイト)
スターバックスが「外資系ノリ」なら、岡山県が本社のサンマルクは「地方企業ノリ」を残しているようだ。
「職場は明るいです。営業でも、厳しくノルマを追及されることはありません。ただ、とても内向的、馴れ合い的、家庭的な雰囲気の会社で、プライベートと仕事をくっきりメリハリつけたい人には抵抗があるでしょう」(サンマルクカフェ、30代前半の女性社員)
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ブランドで栄えても価値の低下で滅びかねない
カフェ・コーヒーショップ業界は「デフレ下の低価格競争からどうやって脱皮するか、一つの方向性を示した」という評価がある。
従来は「ドトール」や「プロント」が、立ち飲み型の小型店でコーヒーを100円台の低価格で提供し、ひたすら客回転を上げて稼ぐというビジネスモデルでしのぎを削っていた。
ところが、海外から来た“黒船カフェ”は、お客さんに「おしゃれなプチぜいたく」を感じさせるブランドモデルを持ち込んで成功を収めた。そんな「デフレ脱却策」は、外食の他の業界にも参考になるのではないかというのだ。
「スターバックス」の場合、人魚のマークが入ったチルドカップコーヒーをテイクアウトして街中で持ち歩いたり、職場に持ち込むのが「おしゃれ」とされていた。それがブランドとなり、当時は確かに価値を生んでいた。
しかし、それも、コーヒーの味と同様、やがて飽きられる。スターバックスは国内の店舗数が1000店に近づいて、「どこに行っても店がある」という状況になり、希少価値が薄れた。しかも、チルドカップコーヒーのようなオリジナル商品をコンビニで販売し、ブランドの安売りまでしている。
事業を拡大すればするほどブランドの価値が低下し、お客さんが「昔は良かった」と離れていくのは、どの業界でも聞く話だ。実際、スターバックスは、米国で数年前に、その負のサイクルに陥り、売り上げ減少に苦しんだ。その心配があるのは、ブランドに重きを置く「タリーズ」も「エクセルシオール」も同じだろう。
ブランドによって栄えながら、経営の舵取りを誤り、ブランド価値が低下し滅んだ企業は、世界にも日本にも多々ある。企業経営にとってブランドとは、薬にも毒にもなり、取り扱いが厄介なものなのだ。90年代後半にさっそうと登場してブームを呼び、今や都市の風景に溶け込んだかに見えるセルフスタイルカフェだが、実際は今、重大な岐路に立たされている。