「年功序列」の企業は、本当に「社員にやさしい会社」なのか 2013年2月7日 企業徹底研究 ツイート 東洋経済オンラインで、人事コンサルタントの城繁幸氏が、投資家のムーギー・キム氏と対談。この中で、城氏は「ユニクロ=ブラック企業説」に反論している。 ユニクロを「ブラック企業の典型」とする説は、今野晴貴氏の「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(文藝春秋刊)の例に見ることができる。この本の中で「衣料品販売X社」とされている会社は、どう読んでもユニクロのファーストリテイリングを指しているとしか思えない内容になっている。 今野氏は、X社がブラック企業である理由として、「入社してからも終わらない『選抜』があること」「会社への極端な『従順さ』を強いられる点」を挙げている。 一方、城氏は、ユニクロがブラック企業ではなく「グローバル企業」であり、グローバル企業はどこでもハードに働かされると述べている。その上で、ユニクロをブラック企業と批判する人に対して、次のような言葉を投げかけている。 「彼らは突き詰めると、『使い捨てられる』ということを問題視するわけです。でも、労働者って全部使い捨てですよ。これは、政治家から、首相から、銀行員から、メーカーまで、みんなそうですよ」 終身雇用と年功序列を維持し、「安心して働ける環境」と思われている大企業もある。それは例外的なホワイト企業なのだろうか。城氏は、そういう会社は見えないところで「下請けや外注を相当泣かせて」身分を維持しているだけで、「そっちの方が本当のブラック企業」と指摘している。 ◇ 年長者の高給を若者が支える構図はどこも一緒 年功序列の大企業は下請けや外注だけでなく、若い世代からも搾取している。各企業で事情は異なるが、年々働きが悪くなる年長者のホワイトカラーの高給を、若い世代が支払い続けている点は共通している。65歳継続雇用の義務化で、この傾向は更に強まっている。 こうした企業は年長者の社員にとって確実に居心地がいいし、「自分の将来は保証されている」と信じる若者は我慢できる会社かもしれない。しかし、そうではない人には未来がない職場に映るだろう。例えば、胃腸薬「強力わかもと」で有名な、わかもと製薬で働いていた女性は、社風をこう話している。 「年功序列で出世し、仕事のできるできないよりも、年齢的にそろそろ等級や役職をあげてあげないと気を悪くするからと、上に上げている気がします。仕事ができる女性もいますが、女性の管理職はほとんどいません。比較的立ち回りがうまく、責任を取らずに、可もなく不可もなく仕事をこなすタイプが出世しています」 これは、女性が20代後半だった2009年度当時に、キャリコネに寄せられた声だ。ロクに働きもせず責任も取らない社員が、年をとったからといって当然のように昇給を求める会社は、その後どうなったか。わかもと製薬は2010年3月期に営業利益がマイナスに転じた。2012年3月期も5億円の赤字を計上している。 ◇ 意欲のない社員が生まれるのは弱者救済の弊害 年功序列の無力感については、わかもと製薬の他の社員も一様に口をそろえる。例えば、MR(医薬情報担当者)で30代の男性はこう述べている。 「基本年功序列なので、やってもやらなくても一緒という風潮があり、悪循環を生んでいると感じている社員も少なくない」 研究開発部員で30代の男性も、こう言う。 「出世は年功序列が大前提で、逆転することはまずない。出世しているからといって実績や成果を上げたわけではないのが特徴」 なぜ、責任を取らない社員がここまで居座れるのか。ユニクロをブラック企業と批判している人たちは、こういう体質を不健全と思わないのだろうか。 MRで働く30代半ばの男性社員は「弱者救済の風土の為、給与・賞与にメリハリがなく、やりがいや意気込みを失っている社員が多い」と話している。これは「社員を大切にする会社」の弊害にほかならないだろう。 年功序列の会社は、「実力主義」のグローバル企業よりも「弱者にやさしい」という声もあるが、セーフティネットは民間企業ではなく、国の仕事のはずだ。弱者を保護することで、会社が傾き、なくなることにでもなれば、すべては終わりだ。そのことにそろそろ気が付くべきだろう。 【その他の企業徹底研究の記事はこちら】
「年功序列」の企業は、本当に「社員にやさしい会社」なのか
東洋経済オンラインで、人事コンサルタントの城繁幸氏が、投資家のムーギー・キム氏と対談。この中で、城氏は「ユニクロ=ブラック企業説」に反論している。
ユニクロを「ブラック企業の典型」とする説は、今野晴貴氏の「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(文藝春秋刊)の例に見ることができる。この本の中で「衣料品販売X社」とされている会社は、どう読んでもユニクロのファーストリテイリングを指しているとしか思えない内容になっている。
今野氏は、X社がブラック企業である理由として、「入社してからも終わらない『選抜』があること」「会社への極端な『従順さ』を強いられる点」を挙げている。
一方、城氏は、ユニクロがブラック企業ではなく「グローバル企業」であり、グローバル企業はどこでもハードに働かされると述べている。その上で、ユニクロをブラック企業と批判する人に対して、次のような言葉を投げかけている。
「彼らは突き詰めると、『使い捨てられる』ということを問題視するわけです。でも、労働者って全部使い捨てですよ。これは、政治家から、首相から、銀行員から、メーカーまで、みんなそうですよ」
終身雇用と年功序列を維持し、「安心して働ける環境」と思われている大企業もある。それは例外的なホワイト企業なのだろうか。城氏は、そういう会社は見えないところで「下請けや外注を相当泣かせて」身分を維持しているだけで、「そっちの方が本当のブラック企業」と指摘している。
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年長者の高給を若者が支える構図はどこも一緒
年功序列の大企業は下請けや外注だけでなく、若い世代からも搾取している。各企業で事情は異なるが、年々働きが悪くなる年長者のホワイトカラーの高給を、若い世代が支払い続けている点は共通している。65歳継続雇用の義務化で、この傾向は更に強まっている。
こうした企業は年長者の社員にとって確実に居心地がいいし、「自分の将来は保証されている」と信じる若者は我慢できる会社かもしれない。しかし、そうではない人には未来がない職場に映るだろう。例えば、胃腸薬「強力わかもと」で有名な、わかもと製薬で働いていた女性は、社風をこう話している。
「年功序列で出世し、仕事のできるできないよりも、年齢的にそろそろ等級や役職をあげてあげないと気を悪くするからと、上に上げている気がします。仕事ができる女性もいますが、女性の管理職はほとんどいません。比較的立ち回りがうまく、責任を取らずに、可もなく不可もなく仕事をこなすタイプが出世しています」
これは、女性が20代後半だった2009年度当時に、キャリコネに寄せられた声だ。ロクに働きもせず責任も取らない社員が、年をとったからといって当然のように昇給を求める会社は、その後どうなったか。わかもと製薬は2010年3月期に営業利益がマイナスに転じた。2012年3月期も5億円の赤字を計上している。
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意欲のない社員が生まれるのは弱者救済の弊害
年功序列の無力感については、わかもと製薬の他の社員も一様に口をそろえる。例えば、MR(医薬情報担当者)で30代の男性はこう述べている。
「基本年功序列なので、やってもやらなくても一緒という風潮があり、悪循環を生んでいると感じている社員も少なくない」
研究開発部員で30代の男性も、こう言う。
「出世は年功序列が大前提で、逆転することはまずない。出世しているからといって実績や成果を上げたわけではないのが特徴」
なぜ、責任を取らない社員がここまで居座れるのか。ユニクロをブラック企業と批判している人たちは、こういう体質を不健全と思わないのだろうか。
MRで働く30代半ばの男性社員は「弱者救済の風土の為、給与・賞与にメリハリがなく、やりがいや意気込みを失っている社員が多い」と話している。これは「社員を大切にする会社」の弊害にほかならないだろう。
年功序列の会社は、「実力主義」のグローバル企業よりも「弱者にやさしい」という声もあるが、セーフティネットは民間企業ではなく、国の仕事のはずだ。弱者を保護することで、会社が傾き、なくなることにでもなれば、すべては終わりだ。そのことにそろそろ気が付くべきだろう。
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