1720億の有望市場に参入続々 「人」がすべての家事代行サービス 2013年2月21日 企業徹底研究 ツイート 食事の準備、洗濯、掃除など、いわゆる「家事」一般を代行してくれるのが家事代行サービスだ。昔からある「お手伝いさん」「家政婦」とは異なる。メニュー一覧表があり料金も明朗会計。「日曜日に風呂場の掃除だけしてほしい」という要望でも気軽に頼める仕組みになっている。 サービスを依頼すると、カラフルなユニフォームを着た女性が家に来て、ムダのない動きでテキパキと仕事を終わらせる。料理や掃除、洗濯も、プロがやるとやはり一味違うという。 家事代行は介護保険の適用対象になっているため、身体を動かすのが辛くなった高齢者のサービスと思っている人もいるだろう。しかし、実際は男女を問わず、富裕層や元気な高齢者、中高年層、若い人、ファミリー、独身者と、様々な人が利用している。総務省の家計調査にある家事代行サービスへの支出から、その利用動向を見てみよう。 データは全体の支出の平均額だが、利用世帯に限ると、2011年の1回当たりの支出額は2人以上世帯で1万6978円、単身世帯で1万5464円だった。年間利用回数は2人以上世帯で100世帯あたり9回、単身世帯で100世帯あたり14回で単身者の依頼が多い。 単身世帯は07年に大きく伸びた後、リーマンショックの影響による所得減の影響か、08~09年と減少。しかし、10年からは2年で2倍以上という急激な伸びを示している。 忙しくて残業が多い時期には利用が増加し、残業が減ると懐具合のこともあり減少する、ということだろうか。一方、2人以上世帯の利用も11年になると約1.6倍も伸びた。 野村総合研究所の社会産業コンサルティング部の武田佳奈・主任コンサルタントは、総合型の家事代行サービス市場は現状の約290億円から、将来は約1720億円に成長すると予想。現在の約6倍の規模になる有望市場とみられている。今回は、この家事代行サービスについて、キャリコネに寄せられた事業会社の社員の声を基に、業界を分析していこう。 ◇ 大手2社以外は「夢は大きく、給料は安く」 まず、市場にはどんなプレーヤーがいるのだろうか。売上高の順でみた家事代行サービス会社の顔ぶれが以下の表だ。 ニチイ学館は、介護事業に付随する生活支援サービスとして家事代行に参入。ダスキンは掃除のサービスから発展して家事全般を代行する「メリーメイド事業」を89年から開始し、FC(フランチャイズ)方式で全国に拠点を置いている。 「富裕層向け」とうたっている、ミニメイド・サービスは83年に創業。ビルメンテナンス業から参入した。サンリフォーム(愛知県稲沢市)は大手小売業ユニーのグループ会社で、事業の一部として家事代行の「家事タスカル」を展開している。 カジタクは08年に伊藤忠食品が出資して設立。現在はイオングループのイオンディライトの子会社だ。ベアーズは99年創業のベンチャー企業。同じベンチャーでは2000年創業でフォー・リーフ(神奈川県鎌倉市)などがある。 家事代行サービスを全国くまなく提供するのは上場企業のニチイ学館とダスキン。この大手2社の場合、正社員で報酬はどれくらいなのだろうか。 「地方支店の営業課長として約3年ほど在籍しておりますが、課長となってからのこの3年いや入社してから7~8年ほとんど年収は変わっていません」(ニチイ学館、30代前半の男性社員、年収380万円) 「周りの友達などと比較しても、だいたいそんなもんなのかな、という感じ」(ダスキン、20代後半の女性社員、年収470万円) それ以外の会社は、程度の差こそあれ「夢は大きく、給料は安く」ということのようだ。 「比較的給与は安い部類になると思います。だけど仕事自体は非常にハードです。そんな環境でのメリットはやはり、自分発でいろいろなことができるチャンスがあるところだと思います。チャレンジ精神がない方はやめておいたほうがいいと思います」(ベアーズ、30代前半の男性社員、年収300万円) ダスキンもニチイ学館も、サービス現場の最前線に立つのは派遣社員やパートやアルバイトなどの非正規雇用。ベテラン主婦もいれば、学生アルバイトもいる。彼らは現場について、どう思っているのだろうか。 「アルバイトとして勤務していたが、長時間働くことができにくくあまり稼ぐことができない点が不満。昼間は主婦メイン、夜間は学生がメインとなることが多い」(ダスキン、20代前半の男性アルバイト) 「ほとんどが女性の職場なので、女性がマネージャーだった。男性より、女性のほうが活躍できるのではないかと思う」(ニチイ学館、30代後半の女性派遣社員) ニチイ学館は主婦のパートに医療や介護の資格を取得させ戦力化してきた実績があり、元パートを管理職にも登用している。彼女たちにとっては、家事代行サービスは、いわば“本業”で身近な世界といえる。 一方、出世はどうなっているのだろうか。ダスキン、ニチイ学館の社員は、次のように話している。 「基本的に年功序列の意識が高い会社に思います。その中で、やはり営業の方のほうが出世しやすく感じます」(ダスキン、20代前半の女性社員) 「特に仕事ができるとかはあまり関係ないような状況だった。出世コースは、とにかく支店長であったり、課長であったりのお気に入りの方が出世されています」(ニチイ学館、30代前半の男性社員) ◇ 「人」がいればできる事業だが、その「人」が問題 今の家事代行サービスは“有望市場”と見て、ビル管理会社、警備会社、総合小売業、介護事業者、マンション業者、私鉄、家電量販店と、さまざまな企業が参入している。 家電量販店のビックカメラはカジタクと提携し「家事玄人(カジクラウド)」という家事代行サービスパックを店頭で発売した。「母の日」などの贈答用にも売れているという。 最近では大成有楽不動産がマンション入居者の特典としてニチイ学館と提携し家事代行サービスを提供すると発表。東急電鉄も沿線住民を対象に「東急ベル・家ナカお助けサービス」を始めた。おそらく今後も新規参入は続くことだろう。 家事代行は“人が資本のサービス業”だ。また食事の準備をしても調理師免許は不要で、事業を立ち上げるのにも特に許認可は必要としないため、非常に参入もしやすい。極端にいえば「人さえいればできる事業」といえる。 しかし、その「人」が一番の問題で、事業の発展も衰退も人次第の面が大きい。なぜなら、食事の準備も掃除も洗濯も買い物も、身内だけでなく誰にでも喜ばれるようなスキルを磨き、プロになってもらう必要があるからだ。 そのほかにも「家事代行に反対するお姑さんの意地悪を、上手くかわして仕事を完遂する」などのスキルも求められる。また、仕事上で顧客のプライバシーに立ち入ることも多く、依頼者に関する秘密は守らなければならない。家事の経験がある主婦なら誰でも簡単にできる仕事というわけではないのだ。 こうしたリスクを回避するためには人材育成に時間やカネがかかる。新規参入する会社が家事代行サービスを「お手伝いさんの会社」「素人でもできる仕事」のように考えていれば、いくら有望市場でも痛い目にあって撤退となりかねないだろう。人材に投資しない会社、社員を大切にしない会社が行き詰まるのは、どの業界にも共通なのだ。
1720億の有望市場に参入続々 「人」がすべての家事代行サービス
食事の準備、洗濯、掃除など、いわゆる「家事」一般を代行してくれるのが家事代行サービスだ。昔からある「お手伝いさん」「家政婦」とは異なる。メニュー一覧表があり料金も明朗会計。「日曜日に風呂場の掃除だけしてほしい」という要望でも気軽に頼める仕組みになっている。
サービスを依頼すると、カラフルなユニフォームを着た女性が家に来て、ムダのない動きでテキパキと仕事を終わらせる。料理や掃除、洗濯も、プロがやるとやはり一味違うという。
家事代行は介護保険の適用対象になっているため、身体を動かすのが辛くなった高齢者のサービスと思っている人もいるだろう。しかし、実際は男女を問わず、富裕層や元気な高齢者、中高年層、若い人、ファミリー、独身者と、様々な人が利用している。総務省の家計調査にある家事代行サービスへの支出から、その利用動向を見てみよう。
データは全体の支出の平均額だが、利用世帯に限ると、2011年の1回当たりの支出額は2人以上世帯で1万6978円、単身世帯で1万5464円だった。年間利用回数は2人以上世帯で100世帯あたり9回、単身世帯で100世帯あたり14回で単身者の依頼が多い。
単身世帯は07年に大きく伸びた後、リーマンショックの影響による所得減の影響か、08~09年と減少。しかし、10年からは2年で2倍以上という急激な伸びを示している。
忙しくて残業が多い時期には利用が増加し、残業が減ると懐具合のこともあり減少する、ということだろうか。一方、2人以上世帯の利用も11年になると約1.6倍も伸びた。
野村総合研究所の社会産業コンサルティング部の武田佳奈・主任コンサルタントは、総合型の家事代行サービス市場は現状の約290億円から、将来は約1720億円に成長すると予想。現在の約6倍の規模になる有望市場とみられている。今回は、この家事代行サービスについて、キャリコネに寄せられた事業会社の社員の声を基に、業界を分析していこう。
◇
大手2社以外は「夢は大きく、給料は安く」
まず、市場にはどんなプレーヤーがいるのだろうか。売上高の順でみた家事代行サービス会社の顔ぶれが以下の表だ。
ニチイ学館は、介護事業に付随する生活支援サービスとして家事代行に参入。ダスキンは掃除のサービスから発展して家事全般を代行する「メリーメイド事業」を89年から開始し、FC(フランチャイズ)方式で全国に拠点を置いている。
「富裕層向け」とうたっている、ミニメイド・サービスは83年に創業。ビルメンテナンス業から参入した。サンリフォーム(愛知県稲沢市)は大手小売業ユニーのグループ会社で、事業の一部として家事代行の「家事タスカル」を展開している。
カジタクは08年に伊藤忠食品が出資して設立。現在はイオングループのイオンディライトの子会社だ。ベアーズは99年創業のベンチャー企業。同じベンチャーでは2000年創業でフォー・リーフ(神奈川県鎌倉市)などがある。
家事代行サービスを全国くまなく提供するのは上場企業のニチイ学館とダスキン。この大手2社の場合、正社員で報酬はどれくらいなのだろうか。
「地方支店の営業課長として約3年ほど在籍しておりますが、課長となってからのこの3年いや入社してから7~8年ほとんど年収は変わっていません」(ニチイ学館、30代前半の男性社員、年収380万円)
「周りの友達などと比較しても、だいたいそんなもんなのかな、という感じ」(ダスキン、20代後半の女性社員、年収470万円)
それ以外の会社は、程度の差こそあれ「夢は大きく、給料は安く」ということのようだ。
「比較的給与は安い部類になると思います。だけど仕事自体は非常にハードです。そんな環境でのメリットはやはり、自分発でいろいろなことができるチャンスがあるところだと思います。チャレンジ精神がない方はやめておいたほうがいいと思います」(ベアーズ、30代前半の男性社員、年収300万円)
ダスキンもニチイ学館も、サービス現場の最前線に立つのは派遣社員やパートやアルバイトなどの非正規雇用。ベテラン主婦もいれば、学生アルバイトもいる。彼らは現場について、どう思っているのだろうか。
「アルバイトとして勤務していたが、長時間働くことができにくくあまり稼ぐことができない点が不満。昼間は主婦メイン、夜間は学生がメインとなることが多い」(ダスキン、20代前半の男性アルバイト)
「ほとんどが女性の職場なので、女性がマネージャーだった。男性より、女性のほうが活躍できるのではないかと思う」(ニチイ学館、30代後半の女性派遣社員)
ニチイ学館は主婦のパートに医療や介護の資格を取得させ戦力化してきた実績があり、元パートを管理職にも登用している。彼女たちにとっては、家事代行サービスは、いわば“本業”で身近な世界といえる。
一方、出世はどうなっているのだろうか。ダスキン、ニチイ学館の社員は、次のように話している。
「基本的に年功序列の意識が高い会社に思います。その中で、やはり営業の方のほうが出世しやすく感じます」(ダスキン、20代前半の女性社員)
「特に仕事ができるとかはあまり関係ないような状況だった。出世コースは、とにかく支店長であったり、課長であったりのお気に入りの方が出世されています」(ニチイ学館、30代前半の男性社員)
◇
「人」がいればできる事業だが、その「人」が問題
今の家事代行サービスは“有望市場”と見て、ビル管理会社、警備会社、総合小売業、介護事業者、マンション業者、私鉄、家電量販店と、さまざまな企業が参入している。
家電量販店のビックカメラはカジタクと提携し「家事玄人(カジクラウド)」という家事代行サービスパックを店頭で発売した。「母の日」などの贈答用にも売れているという。
最近では大成有楽不動産がマンション入居者の特典としてニチイ学館と提携し家事代行サービスを提供すると発表。東急電鉄も沿線住民を対象に「東急ベル・家ナカお助けサービス」を始めた。おそらく今後も新規参入は続くことだろう。
家事代行は“人が資本のサービス業”だ。また食事の準備をしても調理師免許は不要で、事業を立ち上げるのにも特に許認可は必要としないため、非常に参入もしやすい。極端にいえば「人さえいればできる事業」といえる。
しかし、その「人」が一番の問題で、事業の発展も衰退も人次第の面が大きい。なぜなら、食事の準備も掃除も洗濯も買い物も、身内だけでなく誰にでも喜ばれるようなスキルを磨き、プロになってもらう必要があるからだ。
そのほかにも「家事代行に反対するお姑さんの意地悪を、上手くかわして仕事を完遂する」などのスキルも求められる。また、仕事上で顧客のプライバシーに立ち入ることも多く、依頼者に関する秘密は守らなければならない。家事の経験がある主婦なら誰でも簡単にできる仕事というわけではないのだ。
こうしたリスクを回避するためには人材育成に時間やカネがかかる。新規参入する会社が家事代行サービスを「お手伝いさんの会社」「素人でもできる仕事」のように考えていれば、いくら有望市場でも痛い目にあって撤退となりかねないだろう。人材に投資しない会社、社員を大切にしない会社が行き詰まるのは、どの業界にも共通なのだ。