V字回復果たしたクボタ 北米大穀倉地帯への進出に広がる夢 2013年5月21日 企業徹底研究 ツイート 世の中には華やかに業績の「V字回復」を果たして話題になる企業は少なくないが、大半は一時的なリストラ効果だ。抜本的な事業改革に手を付けなければ、再び業績が悪化に見舞われ、リストラを繰り返すうちに疲弊してゆく。 その一方で、リストラに頼らず、地道な経営改革努力で業績V字回復を果たし、経験を活かして着実に業績を伸ばし続ける企業も存在する。クボタはそんな企業のひとつといっていいだろう。 近年の同社は、連結売上高に占める機械事業の割合が70%前後で推移し、国内ではトラクタのトップメーカーでもあることから、一般には「農機メーカー」のイメージが強い。 しかし、同社の始まりは実は水道管事業であり、今も国内の水道管、浄水処理装置、下水処理装置など水道関連事業では断トツの地位にある。 機械事業が伸び悩んでいる時は水道関連事業が業績を下支えし、逆に水道関連事業が伸び悩んでいる時は機械事業が業績を引っ張りと、2つの事業の補完関係を巧みに活かしながら成長してきた。 2006年3月期には、連結売上高が初めて1兆円を突破。翌07年、08年3月期も売上をじりじり伸ばして1兆1546億円までいった。これに待ったをかけるように起こったのが、リーマンショックである。 09年3月期は影響は軽微にとどまったが、10年3月期業績は国内外ともに影響をモロに受け、売上高が前期比16.0%減の9306億円と一挙に転げ落ちてしまった。 11年も業績は低迷したまま、V字回復を果たしたのは12年3月期、3期ぶりのことだった。これを支えたのが、60年代から着々と進めてきた農機の海外展開だった。 避けて通れない「打倒ディア社」 クボタは北米進出40年の節目になる今年1月、米国内で3カ所目となる現地工場を立ち上げ、中型トラクタの量産(年産2万2000台)を開始した。北米での累計販売台数はすでに120万台を超え、「トラクタの3台に1台はKUBOTA」と言われるほど浸透したのは、意外にも農家以外の需要を開拓したのが勝因だった。 1972年に北米へ進出した際、国内と同じ稲作用トラクタを農家向けに投入したが、大規模な畑作を行っている北米農家が買うわけがない。そこで、作業用機器に草刈り機を取りつけたところ、富裕層の庭園管理用として注目を集めた。 さらに公園、リゾート施設など農家以外の未開拓市場を開拓し、北米でクボタブランドを確立していった。同社のトラクタはタイや中国でもシェアを伸ばしており、5年後にはアジアナンバーワンの農機具メーカーを目指すという。 それでも同社はこの小成に甘んじる気はさらさらない。海外市場における農機の本命は「本格農業」と呼ばれる畑作用農機。世界の耕地面積は、稲作1.6億ヘクタールに対し、畑作は5.4億ヘクタール。野菜や果樹なども含めれば約4倍になる。 同社は11年にノルウェーの大手トラクタメーカーを買収。北米中央部に広がる大穀倉地帯に照準を当てている。必要とされる大型農機は同社がこれまで培ってきた中・小型農機とは異なるが、成功すれば日本国内とは比較にならない大市場となる。 しかし、ここには世界最強の農機メーカーであるディア社が立ち塞がっている。足元の稲作の海外市場では、中国・韓国メーカーの低価格・普及品の猛攻が。持続的に農機事業を成長させるためには、嫌でも「打倒ディア社」に挑戦しなければならない。 目指すのは「誰とでも議論する会社」 いかにも地道な経営を行う日本企業といったクボタだが、社員からすると年功序列的な古い社風がさまざまな障壁となっているように感じられているようだ。 30代の社内SEは、自社の農機事業を「人間の食に関する非常にいい事業」と高く評価しつつ、「問題点は体質が古いこと。旧態以前の大企業体質が依然として残っており、ベンチャー企業的なものを少しは学ぶ必要がある」と不満を抱いている。 企画営業で働く20代後半の男性も、自社の社風について、 「頭の古い保守的な経営スタイルなので、常に上司のお伺いがいる。会社としては若手に裁量ある仕事を渡したいようだが、器量のある上司が少なすぎるのが悲しいところ」 と嘆いている。 こうした古い社風に危機感を抱いているのが、益本康男会長兼社長かも知れない。あるメディアの取材の中で、「私は当社を『誰とでも議論する会社』に変えたいと考え、いろいろな改革を行ってきたが、まだそうなっていない」と反省しているからだ。 同社の海外売上高比率は50.5%(12年3月期)。益本会長はこれを「5年後ぐらいに70%程度にしたい」と言う。 それを可能にするのは、益本会長が体系化した『5ゲン主義(現場、現物、現実、原理、原則により無駄な仕事を排除する業務改善策)』の徹底と、社員の不平不満のエネルギーをいかにしてチャレンジ精神に変えてゆくかにかかっている。
V字回復果たしたクボタ 北米大穀倉地帯への進出に広がる夢
世の中には華やかに業績の「V字回復」を果たして話題になる企業は少なくないが、大半は一時的なリストラ効果だ。抜本的な事業改革に手を付けなければ、再び業績が悪化に見舞われ、リストラを繰り返すうちに疲弊してゆく。
その一方で、リストラに頼らず、地道な経営改革努力で業績V字回復を果たし、経験を活かして着実に業績を伸ばし続ける企業も存在する。クボタはそんな企業のひとつといっていいだろう。
近年の同社は、連結売上高に占める機械事業の割合が70%前後で推移し、国内ではトラクタのトップメーカーでもあることから、一般には「農機メーカー」のイメージが強い。
しかし、同社の始まりは実は水道管事業であり、今も国内の水道管、浄水処理装置、下水処理装置など水道関連事業では断トツの地位にある。
機械事業が伸び悩んでいる時は水道関連事業が業績を下支えし、逆に水道関連事業が伸び悩んでいる時は機械事業が業績を引っ張りと、2つの事業の補完関係を巧みに活かしながら成長してきた。
2006年3月期には、連結売上高が初めて1兆円を突破。翌07年、08年3月期も売上をじりじり伸ばして1兆1546億円までいった。これに待ったをかけるように起こったのが、リーマンショックである。
09年3月期は影響は軽微にとどまったが、10年3月期業績は国内外ともに影響をモロに受け、売上高が前期比16.0%減の9306億円と一挙に転げ落ちてしまった。
11年も業績は低迷したまま、V字回復を果たしたのは12年3月期、3期ぶりのことだった。これを支えたのが、60年代から着々と進めてきた農機の海外展開だった。
避けて通れない「打倒ディア社」
クボタは北米進出40年の節目になる今年1月、米国内で3カ所目となる現地工場を立ち上げ、中型トラクタの量産(年産2万2000台)を開始した。北米での累計販売台数はすでに120万台を超え、「トラクタの3台に1台はKUBOTA」と言われるほど浸透したのは、意外にも農家以外の需要を開拓したのが勝因だった。
1972年に北米へ進出した際、国内と同じ稲作用トラクタを農家向けに投入したが、大規模な畑作を行っている北米農家が買うわけがない。そこで、作業用機器に草刈り機を取りつけたところ、富裕層の庭園管理用として注目を集めた。
さらに公園、リゾート施設など農家以外の未開拓市場を開拓し、北米でクボタブランドを確立していった。同社のトラクタはタイや中国でもシェアを伸ばしており、5年後にはアジアナンバーワンの農機具メーカーを目指すという。
それでも同社はこの小成に甘んじる気はさらさらない。海外市場における農機の本命は「本格農業」と呼ばれる畑作用農機。世界の耕地面積は、稲作1.6億ヘクタールに対し、畑作は5.4億ヘクタール。野菜や果樹なども含めれば約4倍になる。
同社は11年にノルウェーの大手トラクタメーカーを買収。北米中央部に広がる大穀倉地帯に照準を当てている。必要とされる大型農機は同社がこれまで培ってきた中・小型農機とは異なるが、成功すれば日本国内とは比較にならない大市場となる。
しかし、ここには世界最強の農機メーカーであるディア社が立ち塞がっている。足元の稲作の海外市場では、中国・韓国メーカーの低価格・普及品の猛攻が。持続的に農機事業を成長させるためには、嫌でも「打倒ディア社」に挑戦しなければならない。
目指すのは「誰とでも議論する会社」
いかにも地道な経営を行う日本企業といったクボタだが、社員からすると年功序列的な古い社風がさまざまな障壁となっているように感じられているようだ。
30代の社内SEは、自社の農機事業を「人間の食に関する非常にいい事業」と高く評価しつつ、「問題点は体質が古いこと。旧態以前の大企業体質が依然として残っており、ベンチャー企業的なものを少しは学ぶ必要がある」と不満を抱いている。
企画営業で働く20代後半の男性も、自社の社風について、
「頭の古い保守的な経営スタイルなので、常に上司のお伺いがいる。会社としては若手に裁量ある仕事を渡したいようだが、器量のある上司が少なすぎるのが悲しいところ」
と嘆いている。
こうした古い社風に危機感を抱いているのが、益本康男会長兼社長かも知れない。あるメディアの取材の中で、「私は当社を『誰とでも議論する会社』に変えたいと考え、いろいろな改革を行ってきたが、まだそうなっていない」と反省しているからだ。
同社の海外売上高比率は50.5%(12年3月期)。益本会長はこれを「5年後ぐらいに70%程度にしたい」と言う。
それを可能にするのは、益本会長が体系化した『5ゲン主義(現場、現物、現実、原理、原則により無駄な仕事を排除する業務改善策)』の徹底と、社員の不平不満のエネルギーをいかにしてチャレンジ精神に変えてゆくかにかかっている。