• 「非正規だから情報が漏れる。正社員なら安心」論は正しいのか

    のべ2億件もの大量の個人情報が外部に漏れる前代未聞の事態になったベネッセ流出事件。逮捕された男が派遣のシステムエンジニア(SE)だったことで、企業のセキュリティのあり方をめぐって議論が起きている。

    男はベネッセの下請け会社で派遣SEとして働いており、顧客DBにアクセスできる権限を与えられていた。これを名簿業者に売り計400万円を得ていたが、「金が欲しくてやった」と報じられたことから「派遣社員を安く使うからこうなる」という批判があがっていた。

    海外より安い日本のエンジニアの報酬

    大企業の正社員に比べ、非正規労働者の給与が低いというイメージは確かに存在する。国税庁の調査によると、派遣やアルバイトなどを含む非正規労働者の2012年の平均年収は、男性で226万円。月給にして18.8万円あまりだ。

    ただし、報道によるとこの派遣SEの月給は約38万円で、年収にすると456万円になる。2013年のサラリーマンの平均年収は408万円ということなので、これが原因ならさらに多くのサラリーマンが犯罪を起こしていてもおかしくないことになる。

    それでも海外の事情を知る人たちからは、「日本のエンジニアは給与が低すぎる」という指摘が相次いでいる。エンジニア向け転職サイト「paiza」の開発者ブログでは、海外のエンジニアの平均年収を円に換算し、各国の物価ごとに調整した数字が紹介されている。

    最も高い報酬を得ているのは米国のエンジニアで、平均862万円。次いで英国の609万円、シンガポールの592万円、フランスの448万円と続く。日本は433万円だった。米国や英国では、エンジニアの給与が広報やマーケテイングなど他の職種よりも高く、それだけ大事にされていることが覗える。

    エンジニアが不満を持てば会社が危ない

    英国のIT事情に詳しいブロガーの「めいろま」こと谷本真由美さんのコラムによると、英国では、金融業界で働く上級ビジネスアナリストの1日の報酬が8~13万円にものぼり、月収170万円という人も珍しくないそうだ。

    英国では転職やインディペンデントコントラクタ(個人事業主)の短期雇用が当たり前。正社員でなくても、専門的スキルがあれば高い報酬を得ることができる。サービス残業もなく、ブラックな労働環境に置かれた日本のITエンジニアとの大きな差が感じられる。

    背景にあるのが、内部統制に対する考え方の違いだ。英国の経営者は、どれだけ厳しい罰則を作っても、機密情報にアクセスするITエンジニアが給料や待遇に不満を持てば、会社に害を加えようとすることを知っており、それゆえ高待遇にしているのだという。谷本さんは、こう警告している。

    「日本の経営者や管理者も、エンジニアや協力会社を丁重に扱うことは、実はコストの安いリスクヘッジだということを理解する時が来ているのかもしれません」

    ただ、不正を行わせないためには、給与だけでなく正社員としての安定的な雇用を確保し、会社への「帰属意識」を持たせなければならない、という考え方も根強い。「非正規だから情報が漏れるんだ。正社員なら安心」というわけだ。

    問題は非正規より「根拠のない性善説に基づく幻想」

    これには人事コンサルタントの城繁幸さんが、「ZAK×SPA!」のコラムで意見している。今回の事件で見直すべきは「ベネッセ側のなあなあの管理体制」であり、根拠のない性善説に基づく幻想を捨ててセキュリティを見直すべきだと提言する。

    いくらセキュリティのためでも、全従業員を正社員として65歳まで職を保証するのは、もはや不可能。すでに大企業の正社員でも、転職の際に業務秘密を持ち出したり、人事情報をヘッドハンターに売ったりすることが行われている。

    城さんは「派遣社員を安くコキ使ったのが悪い」論の背景には、従業員は常に会社と一心同体で、家族みたいなものだという「終身雇用への幻想」があるとする。結論としては、雇用の流動化を前提とし、エンジニアを丁重に扱いながらも、徹底的な性悪説に立った厳格な体勢を整える必要があるということになるだろう。

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