• 最初が「非正規」だと、ずっと「非正規」 若者の就職を巡る冷酷データ

     今の雇用状況の悪化ぶりは、バブル崩壊後の「第3の波」を迎えている。1980年代のバブル経済がはじけて以降、何度か見られた景気回復への期待は、そのたびに裏切られてきた。

     第1波は、1997年に起きた山一証券の廃業に象徴される「証券不況」だった。第2波は、2007年の米国の「サブプライムローン問題」とその翌年の「リーマンショック」。そして、今は「欧州金融危機」が第3波として押し寄せている。

     こうした影響を、真正面から受けるのが若年層だ。2000年ごろの一次的なIT景気など、小バブルによる雇用状況の改善はたまに見られた。しかし、大きく見ればこの20年以上、若年層の雇用悪化はひたすら深刻なままである。

     この若年層の雇用問題について、近藤絢子・法政大学准教授らのグループが「世代効果」に関する実証的研究を積み重ねている。

     具体的には、「大学や高校を卒業して、最初の仕事が非正規雇用だと、その後に転職してもずっと非正規である可能性が高い」という研究だ。その内容を見ていこう。



    就職時の失業率が年収に大きく影響

     近藤准教授は、慶應義塾大学の太田聰一教授や東京大学の玄田有史教授らとともに、「世代効果」についての綿密なデータを追っている。

     労働市場における世代効果とは、

     「性別、学歴、卒業年などによって区分されたグループによって、実質賃金や採用、離職、昇進などの決定に、固有の影響がもたらされること」(3者の論文「溶けない氷河」から)

     を意味する。

     つまり、高校や大学を卒業して仕事に就くタイミングによって、その後の何年にもわたり、年収などに差が出てしまうのだ。

     では、どれほどの差だろう。データはかなり深刻だった。

    ・高校卒で働く場合、卒業時の国内の失業率が1%高いと、その後の年収は10年以上にわたって、平均6~7%下がる。

    ・大学卒の場合も、大学4年での卒業時の失業率が1%高いと、卒業後の12年間の年収が平均して約3%、低くなる。

     

     この原因とされるのが、「非正規雇用からの脱出の難しさ」だと、近藤准教授らは指摘する。

     研究によれば、こんな結果も得られたという。

    ・卒業時点で正社員として就職できると、10年後でも88%が正社員として就業している。

    ・卒業する時点で正社員として就業しなかった場合は、10年後に正社員でいる割合は40%にとどまる。

     つまり、最初が「非正規」だと、ずっと「非正規」になってしまうのだ。



    平等な雇用環境でなければ、社会の安定は望めない

     どうして、こんなことになるのか。原因として、さまざまな学説が提出されている。

     例えば、「人的資本論」に基づいた説明はこうだ。学卒時に不況だと、最初の就職先でのきちんと新人教育を受ける機会が乏しくなり、職業能力を高めることが出来ないため、そうして失われた「人的資本」の分だけ生涯賃金が低くなる。

     ほかにも、例えば「職探し理論」という説明がある。最初に就いた仕事の賃金が高ければ労働者はその職場に留まるのに対して、最初の仕事の賃金が低いと転職しようとするが、その転職を成功させるまでには時間がかかるため、低い年収が続いてしまうという。

     また、「暗黙の契約理論」と呼ばれる説明もある。企業と労働者は双方が景気変動のリスクを避けるために、長く働こうとする労働者に対して保険として低額の賃金を企業が提示して、「暗黙の合意」に基づいて引き留めるというもの。つまり、卒業した時点での就業状況が、その後も長く引きつがれる、というわけだ。

     それにしても、人がどの世代に属するかは、その人にとっては完全に偶然の世界である。たまたま好況期に卒業する生まれだったり、あるいは不況期に卒業する生まれだったり。そんな偶然によって、人生の相当大きな部分が決まってしまう。これは非常な不幸ではないか。

     人間は、少なくともその一生のスタート時点において、できるかぎり平等でありたい。そうでなければ、人は自分の人生に希望をもてず、場合によっては自暴自棄にもなる。これでは社会の安定は望めないし、平穏な生活も保障されない。危険な社会になる。

     若年層の雇用問題の解決は、だから社会全体にとっての重要な課題なのだ。


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