• コミケ直前に「やっぱり出社して!」 会社は有休取得日を直前に変更できるのか

    8月13日午前1時30分、2ちゃんねるに「《悲報》コミケの三日間に有給取るなと上司に言われる」というスレッドが立った。旅行代理店に勤める社員が、以前から楽しみにしていたコミックマーケットの参加を、上司に妨げられてしまったというのだ。

    すでに5月から有給休暇の取得を申請し、上司も了解済みだったはず。それが12日になって「そういえば週末有給申請してるよね?」と尋ねてきたので、「…はい、法事で東京まで行くので」と答えたところ、上司は肩に手を置いてこう呟いたそうだ。

    「ふーん、でも今忙しいよねぇ?」

    5月に申請していたのに「休んじゃ駄目」ってアリ?

    どうやらスレ主は、「8月15日から17日まで東京・ビックサイトで開催されるコミケに行ってきます」とは明言していなかったらしい。趣味のために仕事を休むと言いにくい職場だったのだろうか。

    上司が本当の目的に気づいていたかどうかは分からないが、「あ、すいません忙しい時に」という詫びにもかかわらず、「悪いんだけど、やっぱり出てくれないかな?」と発言した。

    俺「いや、それは…ホテルとか取ってるんで…」
    上司「あーそっかぁ、キャンセル料代わりに今度いい店連れていってあげるね」肩モミモミ
    俺「い、いや本当に外せないyo」ガタッ
    上司「本当にごめんなぁ、有給はまた今度取ってね?休んじゃ駄目だよ?」肩ギュギュ
    俺「………」

    しかし法事が目的なら、よほどのことがない限り出社命令は難しいと考えるのが常識だ。もしかすると上司は、有休取得がコミケ参加のためだと確信したうえで、わざと直前に言ったのかもしれない。

    これには他のネットユーザーから、「パワハラじゃん」「労基にでも訴えるって脅せ」「俺なら即辞めるねそんな会社」など、上司を強く非難するカキコミが相次いだ。

    「有休は会社がどうしても忙しいときは却下されるんやで~」という声もあったが、求められる仕事は、経理や飛行機の手配、ホテルとの連絡や、店舗に来るお客様への説明など「別に俺じゃなくてもできると思う」内容だ。

    「一年で二回だけの楽しみなのになぁ。カタログに赤ペンで印付けたりしてたのに…。なんだかなぁ…はぁー」

    有休の取得には「承認」という概念はなかった!

    「たかが趣味のために」と思う人もいるかもしれないが、趣味を楽しむために働いている人だっている。スレ主のショックは小さくなかったに違いない。

    そもそも、事前に取得を申請されていた有給休暇の取得を、会社は直前になって取り消すことができるのだろうか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。

    「まず前提として、有給休暇には『承認』という概念はありません。有給休暇の権利は、労基法39条1項、2項の要件(6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した等)を充足する場合には、法律上当然に労働者に生ずるため、使用者の承認という観念をいれる余地はありません」

    しかし現実には、「この日はダメ」と上司から言われることはあるが。

    「使用者が有給休暇の申請を承認し又は不承認とする旨の応答をすることは事実上ありますが、これは、使用者が時季変更権を行使しない態度を表明したもの又は時季変更権行使の意思表示をしたものに当たります」
    「時季変更権行使の意思表示は、労働者から時季指定がなされたのち、事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するに必要な合理的期間以上には遅延させずに、できるだけ速やかに行われることが必要です」

    つまり、5月に申請した有休を、8月になって急に「ダメ」というのはおかしいということだ。確かに、8月に業務の繁忙が分かっていれば、会社には人を補充するなどの手当てが可能だったはず、ということもできる。

    違法な時季変更なら「キャンセル料」は請求できる可能性も

    岩沙弁護士は、労基法は「時季変更権の行使は無制限ではなく、あくまで労働者の時季指定権を尊重することが前提」としており、「相手の信頼を裏切って反対の態度をとることは信義に反します」と厳しく断ずる。

    「したがって、時季変更権を行使しない態度を表明したにもかかわらず、時季変更権を行使することは違法と判断される余地があります。なお、有給期間開始後の時季変更権の行使が有効とされた事例もあるので、違法か否かは具体的事情によります」

    それでは今回のようなケースで、急な時季変更で社員が損害を被ったとき、賠償請求を行うことができるのだろうか。岩沙弁護士は、「時季変更権の行使が適法であれば、損害賠償をすることができません」という。

    その一方で、時季変更権の行使が違法であれば、「キャンセル料など相当因果関係にある損害については損害賠償をできる可能性が高い」とも指摘する。ただし慰謝料(精神的苦痛)については、「具体的事情にもよりますが、損害として認められる可能性は低いでしょう」ということだ。

    あわせてよみたい:「有休取ったらボーナス減らすぞ」は違法

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    【取材協力弁護士 プロフィール】

    岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
    弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/

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