誰もが信じてきた「日本型雇用の崩壊」というトリック――海老原嗣生の著書から解き明かす 2012年8月21日 仕事のエコノミクス ツイート イメージではなく、実際の数値に基づいて事実を語ること――。これが人事コンサルタントの海老原嗣生が一貫して堅持してきたスタイルがこれだ。 その海老原が書いた「決着版 雇用の常識『本当に見えるウソ』」は、その一つの到達点だろう。一見すると「本当そうな印象がある誤り」を取り上げ、一つひとつを検証していく。 そこでは、どんな新事実が浮かび上がるのか。本書が解き明かした「ウソ」の事例をいくつか見ていこう。 ●間違い1:終身雇用は崩壊している●事実:いまも終身雇用は壊れていない あたかも小泉改革による新自由主義が浸透したかのようなイメージで、いまの世の中はすっかり旧来的な終身雇用が崩壊しているように語られることが少なくない。 だが、海老原は、「賃金構造基本統計調査」のデータに基づいて、こう言う。 「一番信頼性の高い厚生労働省による調査を見ても、90年から2004年の間で、男性40代の勤続15年以上の割合は、66%→62%へと微減したのみだ」 さらに、これを50代で見れば、勤続25年以上の割合は反対に増加している。つまり、日本の長期雇用者は、減っているどころか、逆に増えてさえいるのだ。 ●間違い2:日本は転職社会に変化した●事実:転職は、ちっとも一般化していない これまた、非正規雇用や派遣労働の増加イメージなどとも相まって、あたかも日本社会は、この数年で転職が一般化したように言われがちだ。だが、ここでも海老原はデータを挙げる。 「現在の転職率が、過去15年間ほどでわずかに1~2ポイント程度伸びているのは確かだが、『社会変革』とか『転職社会』という評言は似つかわしくない」 では、実態はどうか。 総務省の「労働力調査」で転職率を見ると、男性は92年と2003年の比較で4・7%→5%と微増しただけだ。女性も91年と2004年を比べると6・6%→7・2%で、それほど大きな差ではない。 しかも、これを世界と比べると、様相は一変する。「勤続1年未満の労働人口の割合」を見ると、日本は8・3%であるのに対して、アメリカは28%、欧州でも17%に達している。 つまり日本は、世界的に見て有数の「転職率が低い国」なのだ。 ●間違い3:正社員が減っている●事実:正社員は減っていない これも、誤ったイメージが語られすぎている。事実はどこにあるのか。ポイントは「生産年齢人口」の変化にある。 少子高齢化の進行によって、働くことができる生産年齢人口そのものが減っている。これによって、正社員の絶対数が減少しているのは事実だ。しかし、これを「生産年齢人口に占める正社員の割合」で見れば、減ってはいないのである。 そこで、生産年齢人口が2008年の8178万人とほぼ同じだった84年とを比較して見よう。すると、正社員は3333万人→3441万人と、なんと108万人も増えている。 同時に、非正規社員も112万人増えている。つまりこの20年間で、正社員も非正規社員も、両方とも増加しているのである。 ところが非正規社員の増加だけに注目することで、あたかも正社員が減っているような印象になっているわけだ。 これらのほかにも、本書が否定している「本当そうなイメージ」は数多くある。 「定年延長が若年雇用を圧迫している」 「女性の社会進出は着実に進んでいる」 「日本は成果主義社会になった」 これらは、いずれも壮大なトリックであり、間違いだ。労働問題を考えようとするならば、これらのトリックがどう種明かしされるのか、確認しておくことは不可欠だろう。
誰もが信じてきた「日本型雇用の崩壊」というトリック――海老原嗣生の著書から解き明かす
イメージではなく、実際の数値に基づいて事実を語ること――。これが人事コンサルタントの海老原嗣生が一貫して堅持してきたスタイルがこれだ。
その海老原が書いた「決着版 雇用の常識『本当に見えるウソ』」は、その一つの到達点だろう。一見すると「本当そうな印象がある誤り」を取り上げ、一つひとつを検証していく。
そこでは、どんな新事実が浮かび上がるのか。本書が解き明かした「ウソ」の事例をいくつか見ていこう。
●間違い1:終身雇用は崩壊している
●事実:いまも終身雇用は壊れていない
あたかも小泉改革による新自由主義が浸透したかのようなイメージで、いまの世の中はすっかり旧来的な終身雇用が崩壊しているように語られることが少なくない。
だが、海老原は、「賃金構造基本統計調査」のデータに基づいて、こう言う。
「一番信頼性の高い厚生労働省による調査を見ても、90年から2004年の間で、男性40代の勤続15年以上の割合は、66%→62%へと微減したのみだ」
さらに、これを50代で見れば、勤続25年以上の割合は反対に増加している。つまり、日本の長期雇用者は、減っているどころか、逆に増えてさえいるのだ。
●間違い2:日本は転職社会に変化した
●事実:転職は、ちっとも一般化していない
これまた、非正規雇用や派遣労働の増加イメージなどとも相まって、あたかも日本社会は、この数年で転職が一般化したように言われがちだ。だが、ここでも海老原はデータを挙げる。
「現在の転職率が、過去15年間ほどでわずかに1~2ポイント程度伸びているのは確かだが、『社会変革』とか『転職社会』という評言は似つかわしくない」
では、実態はどうか。
総務省の「労働力調査」で転職率を見ると、男性は92年と2003年の比較で4・7%→5%と微増しただけだ。女性も91年と2004年を比べると6・6%→7・2%で、それほど大きな差ではない。
しかも、これを世界と比べると、様相は一変する。「勤続1年未満の労働人口の割合」を見ると、日本は8・3%であるのに対して、アメリカは28%、欧州でも17%に達している。
つまり日本は、世界的に見て有数の「転職率が低い国」なのだ。
●間違い3:正社員が減っている
●事実:正社員は減っていない
これも、誤ったイメージが語られすぎている。事実はどこにあるのか。ポイントは「生産年齢人口」の変化にある。
少子高齢化の進行によって、働くことができる生産年齢人口そのものが減っている。これによって、正社員の絶対数が減少しているのは事実だ。しかし、これを「生産年齢人口に占める正社員の割合」で見れば、減ってはいないのである。
そこで、生産年齢人口が2008年の8178万人とほぼ同じだった84年とを比較して見よう。すると、正社員は3333万人→3441万人と、なんと108万人も増えている。
同時に、非正規社員も112万人増えている。つまりこの20年間で、正社員も非正規社員も、両方とも増加しているのである。
ところが非正規社員の増加だけに注目することで、あたかも正社員が減っているような印象になっているわけだ。
これらのほかにも、本書が否定している「本当そうなイメージ」は数多くある。
「定年延長が若年雇用を圧迫している」
「女性の社会進出は着実に進んでいる」
「日本は成果主義社会になった」
これらは、いずれも壮大なトリックであり、間違いだ。労働問題を考えようとするならば、これらのトリックがどう種明かしされるのか、確認しておくことは不可欠だろう。