“ブラック企業”は、こう見抜け!(1) 求人広告編 2012年12月7日 仕事のエコノミクス ツイート 「会社なんて、入ってみないと分からないよ」 こう言われることがある。確かに正論だ。しかし、会社は入る人にとっては、人生の多くを過ごすことになる大切な場所だ。だからこそ、入社後に、「こんなはずじゃなかった!」と後悔することだけは避けたい。 求人情報には“美辞麗句”が並ぶ。しかし、今や多くの学生が、それらが企業側のプロパガンダ(宣伝)であることに気づき始めている。 その裏にあるのは、「果たして応募先は、労働環境が劣悪で違法行為も辞さない“ブラック企業”なのかどうか、できることなら入社前の段階で見抜きたい」という気持ちだ。 結論から言うと、企業と接触する前に、その会社がブラック企業なのかを高確率で見分ける方法は存在する。 そこで、“ブラック企業”の見抜き方について、これから6回に渡って、段階別に紹介していこう。 もちろん、紹介する内容に当てはまる会社が、すべてブラック企業というわけではない。あくまで兆候に気づくための参考情報として活用してもらえれば幸いだ。 ◇ 求人広告から見抜く4つのポイント 今回は、求人広告から、“ブラック企業”見抜く方法について話していこう。ポイントは4つある。最初のポイントは、これだ。 ポイント(1) 「社風の良さ」ばかりを強調している これは、「アピールできる強みがない会社」である可能性が高いということを示している。 例えば、ネットの求人広告の場合で会社説明画面をよ~く見てみよう。そこに「楽しそうな社員の写真」しか掲載してない会社は要注意だ。 笑顔をふりまき、ガッツポーズをした社員。社員旅行の集合写真…。社員の仲がよいのは素晴らしいことだ。しかし、これはあくまで「会社説明画面」なのだ。 自社の製品なり、サービスに何かしらの“強み”がある会社なら、その点をアピールするはずである。しかし、“強み”が何もない場合、アピールできるのは「仲の良さ」や「いい雰囲気」だけ、ということになる。 このような求人広告を見かけたら、社風以外で、よりどころにできる強みがある会社かどうか、じっくり確認しておく必要がある。 次のポイントは「給与」についてだ。 ポイント(2) 初任給が高い この場合は、何かしら“ブラック”な内幕がある可能性が高い。 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、2011年度の新卒大卒者の初任給平均額は20万2000円だった。 目安として、その金額から3割を超えた高い初任給の設定をしている会社は故意に「額面を高く見せている」。つまり、裏があると考えてよいだろう。 こうした企業に入社した場合、まず覚悟しておかねばならないのは「ハードワーク」だ。平均年収が高い業界や会社は基本的にハードワークであることは周知の事実となっている。 ただ、そうした業界、会社で残業代が支払われるならまだ良いほうに入る。初任給が高く見える会社は「年俸制」を採用していたり、「みなし残業代」が何十時間分かが含まれていたりする。そのため、額面としては高くても、“残業代がゼロ”という場合がある。 この仕組みでは、労働時間で割ると、社員にとって、結局はかなり賃金が割安になってしまう会社が少なくない。額面が高く感じた場合は、まずそれが「基本給」なのか「総額」なのか、そして、「なぜ高い設定なのか」を、じっくり吟味して選ばなければならない。 3つめのポイントは、次のような内容だ。 ポイント(3) 求人広告を常に掲載している これは、退職者が多いという可能性があることを示している。 採用活動というものは通常、必要な人が採用できて、充足したら終了する。ところが、求人情報誌や転職サイトを見ると、一部の業界や会社では年がら年中の間、採用を行っている会社を見かけることがある。 そして、そのような企業に限って常に「急募!」「業績好調のため追加募集!!」と告知していたりするのだ。 おそらく、このような会社は何かしら人が辞めていく要素があり、常に人員を補充していないと間に合わないような内部環境であることが想像される。 それは、「研修が厳しい」「仕事が辛い」「社風がよくない」、あるいは、その全部ということが考えられる。こうした会社の求人に出会ったら、要注意しておくに越したことはないだろう。 ◇ 数字だけではなく要因分析や多角的な見方も必要 最後のポイントは、求人人数に関してだ。 ポイント(4) 全体の社員数に対して、求人人数が多い これも退職者が多い可能性があることを示している。 まずは、その会社の現時点での社員数と、新卒での採用予定数を比べてもらいたい。「社員数の割に、やたら採用人数が多いな」と感じたら要注意だ。 目安としては、全社員数の30%を超える程度なら多い部類に入る。その場合は、「入社後に何らかの理由で辞める人が多く、それを見積もった上で採用している」という可能性がある。 また、バランスが悪いほどの大量採用を行う会社の場合は、入社後にしわ寄せがくる可能性が高い。なぜなら、「入社してきた社員を十分に管理し、教育できる人が相対的に少ない」状況になってしまうからだ。 そうなると、社員一人当たりの仕事のフォローやマネジメントが薄くなってしまうことにつながる。結果、個々の社員が成長のチャンスを逃してしまうばかりか、きちんと評価できる人が少ないことで、「評価」「昇進」「昇給」の機会まで逃がしてしまうかもしれないのだ。 ただし、割合が高いからといって一概に、その会社が悪いとは限らない。注意して見なくてはならないのは「数字の意味」だ。例えば、以下のような場合ではどうだろうか。 「社員数15名のネットベンチャー企業。業績が非常に好調で、今後も成長の可能性が高まったことから、新たに5名採用することにした」 「社員数1000人の老舗企業。業績悪化のため、7年間採用をストップしている。今回、定年退職者が多くなったため、補充人員として10名採用することにした」 前者は、社員数に対し、業績好調での「30%」、後者は業績低迷での「1%」の採用だ。入社後の活躍や給料の伸びなどさまざまな要素を考えると、単純に数字だけでは計れないことがわかるだろう。 このように、表面的な数字だけでは計れないことは多くある。 その数字が現れている理由は何なのか。「会社を取り巻く環境」「将来の見通し」「同業種との相対的な比較」など、背景となる要因や多角的な見方によるバランスを考えた判断も必要になるのだ。 (新田龍・ブラック企業アナリスト)
“ブラック企業”は、こう見抜け!(1) 求人広告編
「会社なんて、入ってみないと分からないよ」
こう言われることがある。確かに正論だ。しかし、会社は入る人にとっては、人生の多くを過ごすことになる大切な場所だ。だからこそ、入社後に、「こんなはずじゃなかった!」と後悔することだけは避けたい。
求人情報には“美辞麗句”が並ぶ。しかし、今や多くの学生が、それらが企業側のプロパガンダ(宣伝)であることに気づき始めている。
その裏にあるのは、「果たして応募先は、労働環境が劣悪で違法行為も辞さない“ブラック企業”なのかどうか、できることなら入社前の段階で見抜きたい」という気持ちだ。
結論から言うと、企業と接触する前に、その会社がブラック企業なのかを高確率で見分ける方法は存在する。
そこで、“ブラック企業”の見抜き方について、これから6回に渡って、段階別に紹介していこう。
もちろん、紹介する内容に当てはまる会社が、すべてブラック企業というわけではない。あくまで兆候に気づくための参考情報として活用してもらえれば幸いだ。
◇
求人広告から見抜く4つのポイント
今回は、求人広告から、“ブラック企業”見抜く方法について話していこう。ポイントは4つある。最初のポイントは、これだ。
ポイント(1) 「社風の良さ」ばかりを強調している
これは、「アピールできる強みがない会社」である可能性が高いということを示している。
例えば、ネットの求人広告の場合で会社説明画面をよ~く見てみよう。そこに「楽しそうな社員の写真」しか掲載してない会社は要注意だ。
笑顔をふりまき、ガッツポーズをした社員。社員旅行の集合写真…。社員の仲がよいのは素晴らしいことだ。しかし、これはあくまで「会社説明画面」なのだ。
自社の製品なり、サービスに何かしらの“強み”がある会社なら、その点をアピールするはずである。しかし、“強み”が何もない場合、アピールできるのは「仲の良さ」や「いい雰囲気」だけ、ということになる。
このような求人広告を見かけたら、社風以外で、よりどころにできる強みがある会社かどうか、じっくり確認しておく必要がある。
次のポイントは「給与」についてだ。
ポイント(2) 初任給が高い
この場合は、何かしら“ブラック”な内幕がある可能性が高い。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、2011年度の新卒大卒者の初任給平均額は20万2000円だった。
目安として、その金額から3割を超えた高い初任給の設定をしている会社は故意に「額面を高く見せている」。つまり、裏があると考えてよいだろう。
こうした企業に入社した場合、まず覚悟しておかねばならないのは「ハードワーク」だ。平均年収が高い業界や会社は基本的にハードワークであることは周知の事実となっている。
ただ、そうした業界、会社で残業代が支払われるならまだ良いほうに入る。初任給が高く見える会社は「年俸制」を採用していたり、「みなし残業代」が何十時間分かが含まれていたりする。そのため、額面としては高くても、“残業代がゼロ”という場合がある。
この仕組みでは、労働時間で割ると、社員にとって、結局はかなり賃金が割安になってしまう会社が少なくない。額面が高く感じた場合は、まずそれが「基本給」なのか「総額」なのか、そして、「なぜ高い設定なのか」を、じっくり吟味して選ばなければならない。
3つめのポイントは、次のような内容だ。
ポイント(3) 求人広告を常に掲載している
これは、退職者が多いという可能性があることを示している。
採用活動というものは通常、必要な人が採用できて、充足したら終了する。ところが、求人情報誌や転職サイトを見ると、一部の業界や会社では年がら年中の間、採用を行っている会社を見かけることがある。
そして、そのような企業に限って常に「急募!」「業績好調のため追加募集!!」と告知していたりするのだ。
おそらく、このような会社は何かしら人が辞めていく要素があり、常に人員を補充していないと間に合わないような内部環境であることが想像される。
それは、「研修が厳しい」「仕事が辛い」「社風がよくない」、あるいは、その全部ということが考えられる。こうした会社の求人に出会ったら、要注意しておくに越したことはないだろう。
◇
数字だけではなく要因分析や多角的な見方も必要
最後のポイントは、求人人数に関してだ。
ポイント(4) 全体の社員数に対して、求人人数が多い
これも退職者が多い可能性があることを示している。
まずは、その会社の現時点での社員数と、新卒での採用予定数を比べてもらいたい。「社員数の割に、やたら採用人数が多いな」と感じたら要注意だ。
目安としては、全社員数の30%を超える程度なら多い部類に入る。その場合は、「入社後に何らかの理由で辞める人が多く、それを見積もった上で採用している」という可能性がある。
また、バランスが悪いほどの大量採用を行う会社の場合は、入社後にしわ寄せがくる可能性が高い。なぜなら、「入社してきた社員を十分に管理し、教育できる人が相対的に少ない」状況になってしまうからだ。
そうなると、社員一人当たりの仕事のフォローやマネジメントが薄くなってしまうことにつながる。結果、個々の社員が成長のチャンスを逃してしまうばかりか、きちんと評価できる人が少ないことで、「評価」「昇進」「昇給」の機会まで逃がしてしまうかもしれないのだ。
ただし、割合が高いからといって一概に、その会社が悪いとは限らない。注意して見なくてはならないのは「数字の意味」だ。例えば、以下のような場合ではどうだろうか。
「社員数15名のネットベンチャー企業。業績が非常に好調で、今後も成長の可能性が高まったことから、新たに5名採用することにした」
「社員数1000人の老舗企業。業績悪化のため、7年間採用をストップしている。今回、定年退職者が多くなったため、補充人員として10名採用することにした」
前者は、社員数に対し、業績好調での「30%」、後者は業績低迷での「1%」の採用だ。入社後の活躍や給料の伸びなどさまざまな要素を考えると、単純に数字だけでは計れないことがわかるだろう。
このように、表面的な数字だけでは計れないことは多くある。
その数字が現れている理由は何なのか。「会社を取り巻く環境」「将来の見通し」「同業種との相対的な比較」など、背景となる要因や多角的な見方によるバランスを考えた判断も必要になるのだ。
(新田龍・ブラック企業アナリスト)