• 「官製ワーキングプア」の実態 国や市町村の臨時職員の給料

     正社員なみにフルタイムで働いても、収入が生活保護の水準にさえ達せず、最低限の生活さえおぼつかない人たちがいる。いわゆる「ワーキングプア」と呼ばれる就労層で、日本語にするなら「働く貧困層」だ。

     このワーキングプアが、民間企業に限らず、公共部門にまで広がっている。自治体や省庁などで非正規職員として働く人たちが、著しい低賃金労働に置かれているのだ。

     こうした「官製ワーキングプア」の実態について、学問的なアプローチで実態解明に取り組んだ研究書が出版された。それが「国・地方自治体の非正規職員」(早川征一郞・松尾孝一著、旬報社)だ。

     早川氏は法政大学の名誉教授で、公務員の賃金に関する研究者。「公務員の賃金」「公務員の制度と賃金」などの著書がある。また、松尾氏は青山学院大学経済学部の教授で、公共部門の労使関係などを研究してきた。2人は言う。

     「国の非常勤職員の賃金に関しては、実はいかなる政府統計も存在しない」

     つまり、公共部門の非常勤職員が置かれている労働条件の厳しさについて、しっかりとして資料がないのである。本書は、この問題を、独自調査や各種の資料で克服しようと試みている。そこで明らかになった非正規職員の賃金や手当の実態はどんなものなのか、見てみよう。


    1年間フル出勤しても年収は238万円

     まずは非正規職員の賃金の実態だ。著者らが例としてあげるのは、国土交通省における事務補助職員のケースだ。

     基本賃金は、人事院「給与指針」が規定する日額表によって定められる。地域手当を考慮しない場合の日額は、最低6080円だ。

     そして、1カ月に22日をフル出勤したとして、月額は13万3760円。ほかに、期末手当(1.75カ月×0.8)があり、これが18万7260円。年収にすると180万円になる。

     また、勤務地が東京になると、これに地域手当が付いて日額は7930円に上がる。しかし、フル出勤をしても月額17万4460円だ。期末手当が24万4240円としても、年収は238万円にしかならない。

     実際は、1年間を通じてフルに22日間を出勤することは難しいだろう。そうなると、年収はこれよりも少なくなる。

     ほかの省でも同様だ。著者たちは法務省のデータもあげているが、地方勤務の場合は年収158万円。公務員の同様の勤務をしていながら、年収200万円に満たないケースが普通に存在するわけだ。


    150団体が時給700円以下 臨時職員の給与は正規の半分

     一方で地方自治体はどうだろうか。これについては総務省の「臨時・非常勤職員に関する調査」(2008年)がある。

     この調査によると、全国の自治体で臨時的任用職員の時給は平均808円。フルタイムで働いて、平均月額は14万0056円だ。しかも、時給700円以下という低賃金の自治体が、1212団体中150団体あるという。

     労働組合側のデータもある。自治労の「臨時・非常勤職員の実態調査」(2009年)によると、月給は14~16万円がもっとも多い一方で、12万円未満の割合が15.9%もある。

     ちなみに一般行政職の正規職員の平均給与は月額31万1580円。つまり、臨時職員の給与はこの半分以下に抑えられていることになるのだ。

     自治体職員や研究者でつくる民間団体「官製ワーキングプア研究会」は、こうした厳しい状況の改善運動に取り組んでいる。同会はこう訴えている。

     「国に約15万人、地方自治体に約60万人の非正規公務員が働いているが、その多くが『働いてもなお貧しい』ワーキングプア層だ。国、自治体自らがワーキングプアを生み出している」

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