• 「教育が大事」と言い出した上司は「成長の限界」か?

    WebディレクターのAさんは、毎週上司の「飲みニケーション」に付き合わされる。話す内容は決まって、上司からの一方的な説教だ。

    「期待されるのは嬉しいんですけど、なんとなく暑苦しいっていうか…」

    繰り返される「オレの若いころ」の話と、「お前はこうなるべき」という話。周囲にも、上司は事あるごとに「若いヤツを育てないと」と言っているらしい。目をかけられているAさんはありがたいと思いつつ、「自分はどうなんだ」と違和感を抱いている。

    会社組織の存続と成長に、教育は欠かせない。マネージャーにとって後進の育成は必須だ。だが、「教育は大事」と急に言いだした上司には、どこか衰えを感じないだろうか。

    人気ブロガーのちきりん氏も9月16日のTwitterで、「『教育に関心がある』とか言い出したら、その人自身の成長は終わり」であり、いわばすごろくの「アガリ」だと指摘する。

    ビジネスパーソンとしての可能性や将来性が「過去ほどはなくなった」人ほど、後輩の指導に熱を入れたがる。自分自身の可能性に限界を感じた人が、「教育教育!」と声高になるというのだ。

     北野武氏が「口を裂けても言わない」ことは…

    人事畑出身と言われるちきりん氏は、教育の必要性を強く認識していると思われるが、それでも「アガリ」の人は「全然おもしろくない」と断言する。その人の持つビジョンや将来性、エネルギーが枯渇していると感じるからだろう。

    これにはLINEで大勢の部下を担う執行役員の田端信太郎氏も、ツイッターで「さすが!」と賛同した。たけし軍団における北野武氏は「結果的に後進の教育的機能を果たしている」のであって、教育に関心を示しているとは「口が裂けても言わない」と田端氏は例示する。

    もちろん、ちきりん氏の意見には反論もある。「教育というフィールドでも常に自分を進化させ、真剣勝負している人はたくさんいる」と、教育へ関心を寄せることが必ずしも「成長の限界」につながらない、というわけだ。

    「背中で語る」「オレについて来い」型の上司の分かりにくさに不満を持つ若者も少なくない。自分も走りながら、ときには部下と併走しながらアドバイスをし、組織を引っ張っていくことを求められる時代なのだろう。

    教育者としての成長という別のフェイズもありうる。本人が「おもしろい」人から降りた後、部下の育成に必要な仕事があるかもしれない。

    ただ、過去の経営者に目を向けると、確かに彼らが「教育」に乗り出すのは気力体力が衰えた晩年であることが多かった。パナソニックの創業者・松下幸之助氏が松下政経塾を創立したのは84歳(1979年6月)のときだ。

    経営コンサルタントの大前研一氏は、51歳で「新しいネクストリーダー養成学校」として一新塾を設立(1994年)している。比較的若いといえるかもしれないが、都知事選への出馬や敗北などを経て、第一線を退く決意をした後ということには違いない。

    これらの例から見ると、ワタミ創業者の渡邉美樹氏が学校法人郁文館の理事長に就任したのは43歳(2003年3月)と非常に若い。支援者を探していた学校側と、豊富な資金を持っていた渡邉氏を引き合わせた人がいるのだろうが、彼がどういう心境で「教育」に手を伸ばしたのか興味深い。

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