パワハラ裁判で4000万円の和解 なぜこんなに高額なのか 2013年12月18日 仕事のエコノミクス ツイート 上司のパワハラでうつ病になり退職せざるを得なかったとして、50代の女性が住友生命と元上司を相手取り、約6300万円の賠償を求めた裁判があった。元上司が謝罪し、会社側が4000万円の解決金を支払うことで和解していたことが、今月分かった。 報道によると、女性は2003年に出張所の所長になってから、自分が獲得した保険契約を他の契約社員の成績にするよう上司から求められ、拒むと「あほちゃうか」「所長を降りろ」と言われた。また、契約成績が悪いとして「組織を潰すんか」と言われたという。 この結果、女性はうつ病で07年7月に休職し、その後復職したが体調が回復せず09年6月に退職した。国の労働保険審査会は女性の申請を受け、10年6月に「長時間の上司の感情的な叱責は、指導の範囲を超えている」として労災を認定していた。 和解額は「逸失利益」を考慮した可能性 パワハラ裁判はこれまで何度も報道されてきた。最近では、違法な医療行為を止めさせようとした麻酔科医が逆に担当を外された裁判で今月、病院に50万円の賠償命令が下された。しかし、今回の住友生命の裁判は、和解金額が4000万円とかなり高額だ。 この点について、労働問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士は、キャリコネ編集部の取材に対し「和解交渉は公開ではないため、あくまで推測になりますが」と前置きした上で、こう指摘する。 「女性のうつ病の深刻さと勤務当時の収入が考慮されて、女性側が主張した『逸失利益』を含む高額な和解金額になったかもしれません」 「逸失利益」というのは、「もし、パワハラがなかったら女性が得られていたはずの利益」のことだ。原告の女性は、現在50代だが2009年に退職している。勤務当時、所長であったことも考えると、パワハラでうつにならなければ、定年までに住友生命で相当額の収入を得ていたといえる。女性は逸失利益も含め約6300万円の損害を被ったと訴えていた。 刈谷弁護士によると、パワハラで社員が自殺した裁判で、逸失利益を含む6900万円の賠償が会社側に命じられたことがあったという。今回は自殺ではないが、復職できない程うつが深刻だったことも、逸失利益も含む高額な和解金額になった理由の一つといえるそうだ。 裁判所が和解を促した可能性も また、会社側が4000万円という和解金額を受け入れた事情について、こう推測する。 「今回の和解は、女性側の約6300万円という請求に対して解決金4000万円という、会社側にとってほぼ敗訴に近い内容です。ここまで会社が譲歩するのは、裁判所が会社側に何らかの心証を示した可能性があるのではないでしょうか」 つまり、裁判官が「和解を拒んで判決に持ち込めば、逸失利益が認められる可能性がありますよ」と会社側に示唆したかもしれないということだ。 2009年に厚労省は、パワハラによるうつ病などの精神疾患が原因で労災申請する件数が増えているのを受け、労災認定基準を緩和した。 この基準緩和と高額な金額による今回の和解を併せて考えると、企業と部下を持つ上司は今後、社員がパワハラによるうつなどで退職すれば、以前にも増してリスクを負うことになるかもしれない。 あわせてよみたい:職場復帰後の「うつ再発」を防ぐには?
パワハラ裁判で4000万円の和解 なぜこんなに高額なのか
上司のパワハラでうつ病になり退職せざるを得なかったとして、50代の女性が住友生命と元上司を相手取り、約6300万円の賠償を求めた裁判があった。元上司が謝罪し、会社側が4000万円の解決金を支払うことで和解していたことが、今月分かった。
報道によると、女性は2003年に出張所の所長になってから、自分が獲得した保険契約を他の契約社員の成績にするよう上司から求められ、拒むと「あほちゃうか」「所長を降りろ」と言われた。また、契約成績が悪いとして「組織を潰すんか」と言われたという。
この結果、女性はうつ病で07年7月に休職し、その後復職したが体調が回復せず09年6月に退職した。国の労働保険審査会は女性の申請を受け、10年6月に「長時間の上司の感情的な叱責は、指導の範囲を超えている」として労災を認定していた。
和解額は「逸失利益」を考慮した可能性
パワハラ裁判はこれまで何度も報道されてきた。最近では、違法な医療行為を止めさせようとした麻酔科医が逆に担当を外された裁判で今月、病院に50万円の賠償命令が下された。しかし、今回の住友生命の裁判は、和解金額が4000万円とかなり高額だ。
この点について、労働問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士は、キャリコネ編集部の取材に対し「和解交渉は公開ではないため、あくまで推測になりますが」と前置きした上で、こう指摘する。
「逸失利益」というのは、「もし、パワハラがなかったら女性が得られていたはずの利益」のことだ。原告の女性は、現在50代だが2009年に退職している。勤務当時、所長であったことも考えると、パワハラでうつにならなければ、定年までに住友生命で相当額の収入を得ていたといえる。女性は逸失利益も含め約6300万円の損害を被ったと訴えていた。
刈谷弁護士によると、パワハラで社員が自殺した裁判で、逸失利益を含む6900万円の賠償が会社側に命じられたことがあったという。今回は自殺ではないが、復職できない程うつが深刻だったことも、逸失利益も含む高額な和解金額になった理由の一つといえるそうだ。
裁判所が和解を促した可能性も
また、会社側が4000万円という和解金額を受け入れた事情について、こう推測する。
つまり、裁判官が「和解を拒んで判決に持ち込めば、逸失利益が認められる可能性がありますよ」と会社側に示唆したかもしれないということだ。
2009年に厚労省は、パワハラによるうつ病などの精神疾患が原因で労災申請する件数が増えているのを受け、労災認定基準を緩和した。
この基準緩和と高額な金額による今回の和解を併せて考えると、企業と部下を持つ上司は今後、社員がパワハラによるうつなどで退職すれば、以前にも増してリスクを負うことになるかもしれない。
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