正社員をお金でクビに 「金銭解雇」の時代は来るか? 2014年2月24日 仕事のエコノミクス ツイート 日本ではいったん正社員として雇われてしまえば、クビになりにくい。しかし、安倍政権はその「聖域」に手をつけようとしている。その案のひとつが、正社員に退職金以外のお金を支払って解雇できるようにする「金銭解雇」だ。 規制改革会議雇用ワーキング・グループ座長の鶴 光太郎氏は、解雇規制緩和の議論は「まだ続いています」とプレジデント14年3月3日号で明かしている。同グループでは「労使双方が納得する雇用終了のあり方」についてヒアリングや論点整理を行っている。 勤続年数などによって「支払い」を決めておく 金銭解雇ルールは、実は第1次安倍政権での労働契約法制定(2007年)の際に盛り込まれる方針だった。報道などによると「年収の2倍以上の補償金を支払うことで、労働者を解雇できる」といった規定だったようだが、自民党の参院選敗北でお流れになった経緯がある。 安倍晋三氏が首相に返り咲いてからの昨13年3月の産業競争力会議でも、金銭解雇ルールを創設しようと議論が交わされた。しかし10月には、解雇規制緩和自体がいったん見送られたとも報じられている。厚労省や労働組合、さらには産業界からの反発が強かったようだ。 これによってマスコミなどの議論はいったん下火になったものの、鶴氏によると、水面下では検討が続けられているということになる。 記事で同氏が提案しているのも、「予測可能性の高い紛争解決システム」という名の金銭解雇だ。不当解雇と思われる事案が起きた場合、EU諸国ではほとんどが「金銭解決」を行う。 EUの場合は勤続年数などによって、会社が支払う金額も法律で決まっているという。労使双方が納得した「仕組み」があれば、ある程度スピーディーに紛争が解決できるというのだ。 「泣き寝入り」や「ごね得」が減る? 日本でもあっせんや労働審判など、労使間の紛争を解決する仕組みはあるが、実際に解雇をめぐって労使が争う場合には、相当な時間や労力、費用が必要になる。 大企業の社員の場合には労働組合が代行してくれる場合もあるが、中小企業にはそれがない分、泣き寝入りをしやすい構図になっている。 これが導入されれば、労組に守られた大企業の社員だけが得をする構図は崩れる。反面、いままで解雇されて泣き寝入りしていた中小企業の社員は、補償金が受け取れるようになる。大企業の経営者にとっても「働かない社員」を流動化させる口実になる。 「泣き寝入りする人やごね得する人が減り、納得性の高い解決の仕方は明らかに増えると思われます」 鶴氏はこう指摘している。金銭による解決ができれば、労働者も一旦敵対した元の職場に戻る必要はなく、次のステップに進みやすい。 「クビ切り法案」などと揶揄されると、労働者も身構えてしまう。しかし内容によっては、大企業の労働者が得をして、中小企業の労働者が損をする状況を是正することにつながるかもしれない。 あわせてよみたい:「絶望的なぬるさ」で働くあの大企業
正社員をお金でクビに 「金銭解雇」の時代は来るか?
日本ではいったん正社員として雇われてしまえば、クビになりにくい。しかし、安倍政権はその「聖域」に手をつけようとしている。その案のひとつが、正社員に退職金以外のお金を支払って解雇できるようにする「金銭解雇」だ。
規制改革会議雇用ワーキング・グループ座長の鶴 光太郎氏は、解雇規制緩和の議論は「まだ続いています」とプレジデント14年3月3日号で明かしている。同グループでは「労使双方が納得する雇用終了のあり方」についてヒアリングや論点整理を行っている。
勤続年数などによって「支払い」を決めておく
金銭解雇ルールは、実は第1次安倍政権での労働契約法制定(2007年)の際に盛り込まれる方針だった。報道などによると「年収の2倍以上の補償金を支払うことで、労働者を解雇できる」といった規定だったようだが、自民党の参院選敗北でお流れになった経緯がある。
安倍晋三氏が首相に返り咲いてからの昨13年3月の産業競争力会議でも、金銭解雇ルールを創設しようと議論が交わされた。しかし10月には、解雇規制緩和自体がいったん見送られたとも報じられている。厚労省や労働組合、さらには産業界からの反発が強かったようだ。
これによってマスコミなどの議論はいったん下火になったものの、鶴氏によると、水面下では検討が続けられているということになる。
記事で同氏が提案しているのも、「予測可能性の高い紛争解決システム」という名の金銭解雇だ。不当解雇と思われる事案が起きた場合、EU諸国ではほとんどが「金銭解決」を行う。
EUの場合は勤続年数などによって、会社が支払う金額も法律で決まっているという。労使双方が納得した「仕組み」があれば、ある程度スピーディーに紛争が解決できるというのだ。
「泣き寝入り」や「ごね得」が減る?
日本でもあっせんや労働審判など、労使間の紛争を解決する仕組みはあるが、実際に解雇をめぐって労使が争う場合には、相当な時間や労力、費用が必要になる。
大企業の社員の場合には労働組合が代行してくれる場合もあるが、中小企業にはそれがない分、泣き寝入りをしやすい構図になっている。
これが導入されれば、労組に守られた大企業の社員だけが得をする構図は崩れる。反面、いままで解雇されて泣き寝入りしていた中小企業の社員は、補償金が受け取れるようになる。大企業の経営者にとっても「働かない社員」を流動化させる口実になる。
鶴氏はこう指摘している。金銭による解決ができれば、労働者も一旦敵対した元の職場に戻る必要はなく、次のステップに進みやすい。
「クビ切り法案」などと揶揄されると、労働者も身構えてしまう。しかし内容によっては、大企業の労働者が得をして、中小企業の労働者が損をする状況を是正することにつながるかもしれない。
あわせてよみたい:「絶望的なぬるさ」で働くあの大企業