• 天皇陛下の侍医からマッキンゼーへ 異色の医師が臨む「自宅で最期を迎えるための医療」

    日本の「2030年問題」が懸念されている。65歳以上の高齢者の割合が3割を超え、病院のベッド数の不足などから、死に場所に困る人が50万人にものぼると予想される。

    2014年3月6日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)は、異色の経歴をもつ医師、武藤真祐氏(42歳)が「在宅医療」に奮闘する様子を紹介していた。

    IT化で「24時間365日」の在宅サービス体制構築

    武藤氏は埼玉県の一般家庭に生まれ、6歳の時に「野口英世展」を見て医師になることを決意。東大医学部卒業後、循環器内科の専門医として腕を認められ、一時は天皇陛下の侍医までつとめた。

    しかし武藤氏は、自ら大きくキャリアの舵を切った。まずは外資系コンサルタント会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに転職し、これまで無縁だった企業経営のノウハウを学ぶ。そして2010年、在宅医療専門の佑ホームクリニックの開業に至った。

    「医師としてできることの限界も分かってきて、もっと大きく社会を見ていこうと(考えた)。それにはマネジメント・問題解決能力が必要だと考え、それを学べるのがマッキンゼーだった」

    病院で死ねないなら、家で死ねばいいのでは、と考えるところだが、現状では家で死ねないから病院で亡くなる人が増えている。その病院ですら奪い合いになるという現実に、武藤氏は立ち向かっているというわけだ。

    在宅医療というと、医師一人が地域をかけずり周るというイメージだが、武藤氏のクリニックは皮膚科・外科・呼吸器・循環器内科など30人の専門医のほか、看護師やアシスタントなど16人のスタッフが常駐し、随時訪問診療を行っている。

    抱える患者は、設立4年で450人にものぼる。患者のケアに時間を多くあてるため、IT化で徹底した事務作業の効率と情報共有を行い、24時間365日、総合病院にもひけをとらない医療サービスを組織的に提供している。

    高齢の患者が病院に行く負担がなくなり、家族も自宅で看取れる安心感と満足を得られている様子だった。

    村上龍「日本人の死生観を守る文化的事業だ」

    武藤氏は、東日本大震災の半年後に宮城県石巻市に分院を立ち上げ、いまも週の半分は石巻で訪問診療を行っている。物腰の柔らかい武藤氏の診療は高齢者に好評で、患者・家族・訪問ヘルパー・介護施設などと情報を共有する「高齢者ケアクラウド」を富士通と共同で作り上げていた。

    男性の3人に1人、女性の4人に1人が生涯未婚で、老後に身寄りがなくなるという深刻な事態が訪れる日は遠くない。既婚者であっても、少子化で子どもやご近所が面倒見てくれるとは限らない。「孤立する老後」は誰にも他人事ではないのだ。

    武藤氏は他の先進国よりも早く進む高齢化に対応するため、高齢者の生活を様々な民間企業が支える「高齢者先進国モデル」作りに取り組みたいという。

    番組編集長の村上龍は、武藤氏の取り組みについて、

    「単に高齢者の孤立を防ぐため、だけではない。日本固有の、暖かで、優しい『死生観』を守るという、貴重な、文化的事業でもある」

    と評していた。「人生の最期を、安心して家で迎えたい」という日本人の死生観と、9割の人が病院で死ぬ現実のギャップはあまりに大きい。これをボランティアではなく、ビジネスを通じて埋めていこうとする医師がいたことが大きな驚きだった。(ライター:okei)

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