内定辞退者続出で採用担当者が悲鳴 伊藤忠前会長の「改善案」は実現可能か 2014年5月22日 仕事のエコノミクス ツイート 景気回復によって就活生の内定率が上がる中、企業側が頭を悩ませているのが内定辞退者の増加だ。採用計画が予定通り行かなくなってしまった企業もあり、この事態に伊藤忠商事前会長の丹羽宇一郎氏が「改善案」を提言している。 学生に有利な「売り手市場」になったとはいえ、内定が一つもない学生もいる。一握りの学生が内定を複数獲得した後、本命以外を次々と内定辞退することは、他の学生のチャンスを奪うことにもなる。学生と企業双方にとって問題だというわけだ。 内定が1つでも出たら「大学は成績証明書を出さない」 これは5月21日付けの日経新聞(電子版)に、「増える内定辞退 私の改善案」というタイトルで語ったもの。丹羽氏は対策として、企業が「成績証明書を使った採用枠」を設けることを提言する。 丹羽氏が就活をした1960年代は、「1社内定をもらったらほかは受けない」というのが暗黙のルールだったという。就活解禁は4年生の7月1日で、3年生までの成績を志望企業に伝えて面接すれば就職先が決まっていた。 大学に内定を報告すると、「もう他の企業は受けないでいいですね」と言われ、それ以上の就職活動をしなかった。丹羽氏の案は、そうした昔の慣例を一部取り入れたものだ。 就活生は筆記試験に合格し、次は面接という段階になったら、学校に成績証明書を出してもらって企業に提出する。その企業から内定を貰ったら、大学は2枚目の成績証明書を出さないようにする仕組みだ。証明書は、ハンコなどを使ってコピーできないようにする。 企業が「成績証明書が必須」の採用枠を設けた上で、大学が最初の内定先にしか証明書を発行しなければ、学生は複数の内定を得られなくなる。ただし丹羽氏は「(成績証明書を)使わない従来通りの採用枠が併存してもいいと思います」としている。 第一志望の選考時期が遅かったらどうなる? 内定辞退が多発する原因の一つには、学生が就職情報サイトを使って、何十社も手当たり次第にエントリーするから、と言われる。企業と大学が「成績証明書」のしくみを導入すれば、学生の「本気度」が測りやすくなるかもしれない。 だが、そこまでうまくいくのだろうか。仮に、成績証明書のない学生の採用ハードルを上げたとしても、実際に優秀な学生が来たら、多くの企業は思わず内定を出してしまうのではないか。それでは従来の就活と変わらない。 また、学生から見た場合、志望度が同じくらいの企業の選考時期がずれた場合、選考の早い会社に証明書を使うことになる。優秀な学生を集めたい企業は選考を早めてくるだろう。学生はあえて遅い会社に証明書を使うこともできるが、一か八かのギャンブル要素が強くなり、落ちたころには一面焼け野原で「就職留年」を増やすことにもなりかねない。 そもそも、成績証明書を出さないと採用しないというのは、伊藤忠を始めとした学生に人気のある大手有名企業だけではないか。現在、中小企業を中心に「求人を出しているけど応募がない」という状況が起きているが、そうした企業では成績証明書の有無など気にすることはできない。 そして、成績証明書を使った採用を仕組みとして根付かせるためには、大学側の協力が不可欠である。しかし、企業にとっては都合のいい仕組みなのかも知れないが、学生の自由な企業選びに制限をかけるような仕組みを大学側が承諾するとは想像できない。 とはいえ、現状のしくみにも問題はないとはいえない。やはり優秀な学生のモラルに訴えて、「1社内定をもらったらほかは受けない」としてもらうしかないのだろうか。 あわせて読みたい:人事激怒「謝りに来たら骨折させる!」 最新記事は@kigyo_insiderをフォロー/キャリコネ編集部Facebookに「いいね!」をお願いします
内定辞退者続出で採用担当者が悲鳴 伊藤忠前会長の「改善案」は実現可能か
景気回復によって就活生の内定率が上がる中、企業側が頭を悩ませているのが内定辞退者の増加だ。採用計画が予定通り行かなくなってしまった企業もあり、この事態に伊藤忠商事前会長の丹羽宇一郎氏が「改善案」を提言している。
学生に有利な「売り手市場」になったとはいえ、内定が一つもない学生もいる。一握りの学生が内定を複数獲得した後、本命以外を次々と内定辞退することは、他の学生のチャンスを奪うことにもなる。学生と企業双方にとって問題だというわけだ。
内定が1つでも出たら「大学は成績証明書を出さない」
これは5月21日付けの日経新聞(電子版)に、「増える内定辞退 私の改善案」というタイトルで語ったもの。丹羽氏は対策として、企業が「成績証明書を使った採用枠」を設けることを提言する。
丹羽氏が就活をした1960年代は、「1社内定をもらったらほかは受けない」というのが暗黙のルールだったという。就活解禁は4年生の7月1日で、3年生までの成績を志望企業に伝えて面接すれば就職先が決まっていた。
大学に内定を報告すると、「もう他の企業は受けないでいいですね」と言われ、それ以上の就職活動をしなかった。丹羽氏の案は、そうした昔の慣例を一部取り入れたものだ。
就活生は筆記試験に合格し、次は面接という段階になったら、学校に成績証明書を出してもらって企業に提出する。その企業から内定を貰ったら、大学は2枚目の成績証明書を出さないようにする仕組みだ。証明書は、ハンコなどを使ってコピーできないようにする。
企業が「成績証明書が必須」の採用枠を設けた上で、大学が最初の内定先にしか証明書を発行しなければ、学生は複数の内定を得られなくなる。ただし丹羽氏は「(成績証明書を)使わない従来通りの採用枠が併存してもいいと思います」としている。
第一志望の選考時期が遅かったらどうなる?
内定辞退が多発する原因の一つには、学生が就職情報サイトを使って、何十社も手当たり次第にエントリーするから、と言われる。企業と大学が「成績証明書」のしくみを導入すれば、学生の「本気度」が測りやすくなるかもしれない。
だが、そこまでうまくいくのだろうか。仮に、成績証明書のない学生の採用ハードルを上げたとしても、実際に優秀な学生が来たら、多くの企業は思わず内定を出してしまうのではないか。それでは従来の就活と変わらない。
また、学生から見た場合、志望度が同じくらいの企業の選考時期がずれた場合、選考の早い会社に証明書を使うことになる。優秀な学生を集めたい企業は選考を早めてくるだろう。学生はあえて遅い会社に証明書を使うこともできるが、一か八かのギャンブル要素が強くなり、落ちたころには一面焼け野原で「就職留年」を増やすことにもなりかねない。
そもそも、成績証明書を出さないと採用しないというのは、伊藤忠を始めとした学生に人気のある大手有名企業だけではないか。現在、中小企業を中心に「求人を出しているけど応募がない」という状況が起きているが、そうした企業では成績証明書の有無など気にすることはできない。
そして、成績証明書を使った採用を仕組みとして根付かせるためには、大学側の協力が不可欠である。しかし、企業にとっては都合のいい仕組みなのかも知れないが、学生の自由な企業選びに制限をかけるような仕組みを大学側が承諾するとは想像できない。
とはいえ、現状のしくみにも問題はないとはいえない。やはり優秀な学生のモラルに訴えて、「1社内定をもらったらほかは受けない」としてもらうしかないのだろうか。
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