• 企業が「残業ゼロ」を実現する方法 「スタッフとラインの役割を明確に切り分けよ」

    産業競争力会議が安倍政権に「残業代ゼロ」を提案し、波紋を呼んでいる。ただ、検討段階でさまざまな反対意見を取り込んだため、適用対象を「年収1000万円以上」に限るなど、意味不明な内容になってしまったことも否めない。

    人事コンサルタントの深大寺翔氏は、法制度を変える前に、各企業がマネジメントの方法を変えることで「生産性の向上」や「残業および残業代ゼロ」を実現する方法があるのではないかと指摘する。国の方向を先取りしておけば、対応への苦労も軽くなるという。

    日本企業は「What」を考えるスタッフが弱すぎる

    ――日本企業のサラリーマンは、「スタッフ」と「ライン」の境目をわざとあいまいにして仕事を進めてきました。ものづくり全盛の時代は、何をやるか(What)が重視されず、どうやるか(How)レベルを現場で工夫すればよかったからかもしれません。

    しかし産業構造の変化が進み、日本企業が「What」を構想し意思決定する力の弱さが問題になっています。iPhoneの部品は日本製が多いのに、最終製品と利益は米国アップルに持っていかれている、というのは象徴的なできごとです。

    「What」を決めるのはスタッフの役割ですが、彼らがまるでラインのように時給で働いている――あるいは働いているとも言えず、ただ机の前に座っているだけで給料をもらっている――という状況が、日本企業の弱さといえるでしょう。

    この問題を解決するためには、スタッフの働き方を根本的に変え、ラインとの切り分けを明確にする必要があります。それによって企業全体の仕事の生産性があがり、ワークライフバランスも実現できるというのが私の考えです。

    ラインの役割は、「スタッフの指示を忠実にこなすこと」に尽きます。スタッフとともに「How」の研究ができれば理想です。給与は厳格に時給で支払われ、残業した分も必ず支払われなければなりません。仕事の負担に応じて、生産性を落とさないために労働時間の上限を設けることも望ましいです。

    一方、スタッフの役割は「What」を構想し、それに沿って「ラインの人材を調達・育成すること」と「ラインに指示・命令をして動かすこと」「ラインを含む部門全体の成果を評価・管理すること」が中心となります。給与は年俸制とし、労働時間は自分で自由に決められます。

    飲食店長とSEは完全に「ライン」扱いすべきである

    いうまでもなく、成果で評価されるスタッフには残業の概念がなく、残業代もありません。その代わり成果を上げていれば、いつどこで働いてもかまいません。その代わり、部署の成果が上がらない責任は、すべてスタッフが負うことになります。

    一方、ラインの残業時間は厳格に制限されているので、仕事が増えた分は残業ではなく、人を増やすことで対応することになるでしょう。これをうまく組み合わせると「残業ゼロ」および「残業代ゼロ」体制を作ることができるわけです。

    ここで懸念されるのは、ライン的な働き方が求められる人に対し、スタッフ的な働き方や給料の支払われ方がされることで「搾取」が行われることです。これは厳しく取り締まるべきです。

    例えば、居酒屋やファストフード、小売などサービス業の現場で働く人は、肩書きに「長」がついていても明確に「ライン」と定義すべきです。なぜなら彼らは、いつどこで働いてもいい、ということはできないからです。

    IT業界における「名ばかりSE」のプログラマも、指示されたことをこなすだけであれば「ライン」と定義すべきです。決まった作業をしていて「What」の決定権がないなら時給で働くラインと解すべきで、決して「企画型裁量労働制」など適用してはいけないのです。

    まとめると、仕事の「What」の決定権がなく、あったとしても「いつどこで働いてもいい」という自由が実質的にない人は、肩書きを問わず「ライン」とすべきということです。

    「誰もが頑張れば出世できる」という希望はなくなる

    一方で、これまで時給で働いてきた人たちの中には、「ライン」から「スタッフ」に切り替えることによって、自由な働き方と多くの報酬を得ることができる人もいるでしょう。

    例えば、ウェブプロデューサーに、ページビューと広告売り上げの目標、それを達成するための予算と権限を渡し、いつどこで働いてもいいとする方法が考えられます。あわせて副業を解禁すれば、やり方によっては収入も増やせます。

    重要なのは、スタッフが成果を上げている限り、細かい仕事のやり方や労働時間について、他人があれこれ指示することができないということです。

    このような切り分けを徹底させようとすると、古典的な「社畜」サラリーマンからは強い不満が出ることでしょう。スタッフは何もせずふんぞり返っていることを許されず、ラインは勝手な居残り残業ができなくなってしまいます。

    スタッフはラインに対し「指示待ちじゃなく自分の頭で考えろ!」と叱ることができなくなります(考えるのはスタッフの仕事だから)。また、スタッフの部下に対して、上司は成果に関係ない髪型や服装の口出しができなくなります。

    スタッフとラインの壁を薄くし、「誰もが頑張れば出世できるかも」という希望を持たせることで、従業員のモチベーションを維持できた面がありました。しかしそれによって、スタッフが「What」を考える責任をあいまいにしてきたきらいがあります。

    国がどういう制度を導入しようとも、日本企業に求められるのは、このような発想の転換だと思います。いまから自分の会社を例に「どこまでがラインなのか」「誰がスタッフの役割を果たすべきなのか」ということをシミュレートしておいた方がいいでしょう。

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