• 「がんでも働く」はムリなのか 国は「直ちに辞める必要はない」と周知方針

    前内閣法制局長官・小松一郎氏が、2014年6月23日に死去した。享年63。今年1月、腹部に腫瘍が見つかり抗がん剤治療を受け、2月の退院後は通院治療をしながら、5月に辞任するまで公務を続けていた。

    法制局長官時代には「集団的自衛権行使」を容認する必要性を指摘。国会答弁の矢面に立っていたが、抗がん剤投与のために国会に出席できない曜日もあり、野党議員から「職務を果たしていない」「辞任して病気療養に専念すべきだ」といった声もあがっていた。

    「罹患後も仕事したい」8割にのぼるが…

    がんは日本人の死因のトップで、その3割を占める重病だ。治療を続けながら職務を全うすることは困難とする見方も根強い。2004年の厚労省研究班の調査によると、がんと診断された後に仕事を失った勤務者は3人に1人にのぼる。理由は「依願退職」が30%で、「解雇」も4%いる。

    一方で、がんに罹ってからも治療しながら働きたいというニーズは非常に高い。罹患者の3割は就労可能年齢で、働けるうちは生きがいを全うしたいと考える人も少なくない。さらに、治療に高額の費用がかかる場合も多いからだ。

    2014年の東京都の調査によると、「罹患後も仕事をしたい」と回答したがん患者は80.5%を占め、「家庭の生計を維持するため」(72.5%)という理由が最多だ。ネットにも、仕事との両立はがん治療の死活問題と訴える書き込みが見られる。

    「ガンになるだけでも大変なことなのに、おまけに仕事を失うことになれば新たな悲劇が生まれる」
    「病気の人をこき使うのか!って意見もあると思うけど、人として生きがいを持つことも病気治療のひとつだと思う」

    さらに、がん医療の進歩にも目覚ましいものがある。国立がん研究センターの最新調査(2010年推計)によると、がんの5年相対生存率は年々上昇し、いまでは6割近くにまで上がっている。収入を得ながら十分な治療を続けていけば、がんは必ずしも即座に死に至る病ではないということだ。

    「がんは治りにくい」と誤解されている部分も

    しかし現実は厳しく、「がん発病」で収入面の影響を受けた人はかなりの数にのぼる。2011年のソニー生命の調査でも、発病で収入が減少した人が42.0%にのぼり、年収の平均減少率も39.2%と大きい。

    こうした現状を受けて、国は「働きながらがんの治療が可能な場合もある」という啓発に乗り出そうとしている。厚生労働省の「がん患者・経験者の就労支援のあり方」に関する検討会が6月23日にまとめた報告書案には、主治医に対し、がんの告知に際してこう求めている部分がある。

    「患者は今すぐ辞めて治療に専念する必要があると考えてしまうこともあるため、病状を考慮した上で、『今すぐ仕事を辞める必要はない』旨の一言を伝える必要がある」

    報告書案では、がんが現実よりも「治りにくい病気」と認識されていると指摘。乳がんの例を挙げ、実際の5年生存率は約85%にもかかわらず、一般には40~50%程度と誤解されているとする。

    そのため、患者も周囲も必要以上に、「就労の可能性を実際よりも低く評価している」という。働きながら治療できるのに、会社が患者を解雇してしまうことがあっては、病気による不当な差別と批判されても仕方がない。

    「病気になっても安心して暮らせる社会」へ

    報告書案では、就労可能ながん患者が希望すれば働ける環境をつくるために、病院と企業、ハローワークなどが連携し、がん患者・経験者の継続就労や復職、新規就労などを支援すべきとする。

    また、患者自身が企業に対し、治療方針や副作用について正確に伝えることができるよう、主治医が明確な説明をすることを求めている。平日に来院できない患者のために、地域の医療機関と連携し夜間や土休日に外来受診が受けられるような連携も求める。

    現状では、がん患者への支援を行っている企業は多いとはいえない。厚労省の調査によると、負担の少ない職場への異動や、通院日を有給扱いにするなどの施策によって、がん患者の就労支援に取り組んでいる企業は全体の10%にすぎない。

    厚労省の報告書案は、さらに「時間単位や半日単位の休暇制度」や「短時間勤務制度」の導入検討が望ましいとし、最後をこう締めくくっている。

    「生存率も確実に改善してきていることから、がんを経験しながらも、いかに自分らしく誇りをもって働ける社会を構築できるかが問われている」
    「がん患者・経験者の就労支援対策を進めていくことにより、ひいては病気になっても安心して暮らせる社会の構築につなげていくことが期待される」

    がんだから仕事を辞めて、治療に専念すべき、という杓子定規な対応だけでなく、病状や職務に応じた柔軟な対応が可能な社会となることを期待したい。

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