• 社員を「完全社畜化」する方法 働く時間を「自由」にしちゃえばいい?

    仕事のやり方について上司から細かい指示を受けず、働く時間も比較的自由に任されているはずの「裁量労働制」。しかし現状では、会社が適切な残業代を支払わないために悪用されているケースも少なくないのが実態だ。

    形式的に「労働者に裁量を与えている」としながら、実際には長時間労働を強制しているものだが、実はこれよりもっと働かせる方法がある。それは「本当に裁量を与えてしまうことだ」という研究結果がアメリカで発表されたという。

    強制されると「仕事量を減らす」米エリート

    米ペンシルベニア大学のアレクサンドラ・ミシェル教授の研究によると、労働時間や休日・休暇について「自由裁量」を与えると、人は勤務時間が決められた場合よりも「社畜化」することが判明したという。米ブルームバーグが報じた。

    ミシェル教授は12年もの間、大手投資銀行2社の若手幹部の働き方を研究していた。彼らは「いつ働いてもよく、いつ休んでもよい」という自由裁量を与えられると、差し迫った仕事がなくても「1週間に100時間以上」も働くようになったという。

    健康やプライベートが犠牲になっても省みることはないというから、完全なる社畜状態と言っていいだろう。ミシェル教授によると若手バンカーの職場では、

    「真夜中より前に帰ると、『今日は半休を取るのかい?』という声が聞こえる」

    といった声まで飛び交っているという。かなりの重症だ。

    こうした傾向はバンカーの他、ソフトウェアエンジニアや弁護士といった知識労働者に多いという。理由は「誰よりも一生懸命働いて、誰よりも長くオフィスにいることを証明したい」という動機が働くためだ。

    一方で「もっと働け」と強制されていると感じると、彼らは「仕事量を減らそう」と思う傾向にあるという。普通の人間の感覚では、成果を上げさせるためには一定の強制は必要と思いきや、エリートたちには逆効果のようだ。

    彼らが「誰よりも一生懸命働く」ことを証明したがる理由は何なのか。単に上司の評価や報酬のためなのか、仕事の成果を追求しているのか、それとも自己実現のためなのかは、記事からは分からない。ただし強制が逆効果ということを考えると、他人より自分の中の評価軸を重視しているように思われる。

    「社員の責任感」を利用すれば労働時間は延びる

    実際、日本のベンチャー企業の中にも、このようなメカニズムを巧みに使って社員たちを過剰労働に駆り立てているところもあるようだ。

    都内のあるベンチャー広告代理店は、月160時間(平日が20日の場合)働けば、いつ出勤し、いつ休暇を取ってもよいという制度を導入しているというので、キャリコネ編集部が取材を行った。

    彼らは一見、自由な働き方を実現しているようにも見えるが、実際に働く中堅社員からは意外な不満が聞かれた。労働時間はなぜか月240時間を大きく超えているという。30代前半の男性は、

    「就業時間が自由になった分、働く時間が増えてしまった。求められる業績は変わらないし、クライアントにより良い提案書を、などと考えていると、つい仕事の質にこだわりすぎてしまう」

    と、こんなはずではなかったといった様子。20代後半の男性も、

    「新制度の導入とともに若手の社員が増えたため、部の目標も上がってしまった。中堅は若手の教育をしながら、彼らが上げられない実績のカバーもしなきゃならないから、休むヒマもないです」

    と嘆いている。この社員はさらに、決まった時間しか働かない若手に対して「自由を履き違えている」と憤っている。社員の責任感を、会社がうまく利用して「社畜化」させているように見えてしまう。

    4年程度で「燃え尽き」慢性疲労や不眠症に

    個人の裁量を拡大することで、仕事の生産性が上がる場合があるということは理解できる。ただ、悲劇的なのは「自由裁量」を与えておいた場合の行く末だ。

    冒頭の研究では、若手バンカーがハードワークを続けた結果、4年程度で慢性疲労や不眠症などを発症し、35歳までに銀行業界を去るのが典型的なケースだとミシェル教授はまとめている。

    産業競争力会議で議論されている「働き方改革」でも、就業時間に裁量を持たせる代わりに、労働時間の「量的上限」を導入することが議論されている。

    部下が働きすぎで健康を害さないようにすることは、管理者の重要な役目だ。しかし裁量拡大によって、それがおざなりにされるおそれがあるならば、国が法で上限を厳しく守らせることも必要になるのではないか。

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