• 居酒屋ワタミの「離職率」 前向きな「卒業」はそんなに多くないのでは?

    今年の3月18日、ワタミグループの創業者である渡邉美樹さんのFacebookにこんなことが書かれていました。ワタミの元社員(渡邉さんは「卒業生」と呼びます)が、自分の居酒屋をオープンし、渡邉さんがお祝いに駆けつけたのだそうです。

    渡邉さんは、このオーナーとの思い出を振り返りながら、店の神棚に「この子のお店が、浅草橋で一番のお店になりますように…」と手を合わせ、こう考えたそうです。

    「こうした『ワタミの卒業生』を全員、離職率と表現されるのもどうなんでしょう」

    勤務経験者の感覚では「せいぜい5~6%」

    現在、ワタミグループをはじめとする外食企業の労働環境の悪さを指摘する声は、やむ気配がありません。「サービス残業当たり前」「従業員の使い捨て」など、厳しい批判にさらされています。そんな中での、この書き込みです。

    渡邉さんの「独立・開業などで、結果としてワタミを離職した人も、一口に離職率に加えてしまうのはいかがなものか」といった主張は、同じ業界で働いてきた私としては、納得できる部分もあります。

    しかし、そもそも独立・開業した人の割合はどのくらいなのか。この数字が不透明です。現在、外食企業をはじめとしたサービス業の離職率の平均は、新卒で50%前後といわれています。この中の何%の人が、渡邉さんの言う「卒業」にあたるのか。

    私も、外食チェーンに4年ほど勤めました。私の周りにも、独立・開業を目指している人も多く、実際にそれを達成した人もいました。ただ、これも私の体感で恐縮ですが、渡邉さんのいう「卒業」に当たる人は、退職した人のせいぜい5%前後かなという感覚です。

    100人の退職者がいたなら、いても5~6人ほどでしょうか。末端の社員であった私よりも、責任ある経営者の渡邉さんなら、正直こういった感覚は、ある程度目安がついているのではないでしょうか。目安どころか、正確に知っている可能性も否定できません。

    ワタミは「労働環境改善」の流れを先導すべきだ

    確かに、独立・開業や寿退社などといった前向きな退職理由も、一口に離職率に加えてしまうのは私もどうかと思います。ただ、それを言うなら、離職率の公開とともに、退職理由も合わせて公開するべきだと思います。

    「独立・開業した人は、会社全体の離職率の何%」「寿退社は何%」といったようにすると、こういったコメントの説得力も増すだろうと思います。渡邉さんも国会議員であるなら、世間の注目度も高いですから、もう少ししっかりとした形で投稿して欲しかったです。

    ワタミグループは社員の過労自殺問題を受け、3月27日に労働環境改善策を発表しています。そこでは「所定労働時間を超える長時間労働が存在している」「労働時間を正しく記録していなかったことがある、そのように指示されたことがある」といったことを認めていました。

    「卒業」による前向きな離職だけを、バランスを欠いた形で強調することは、真摯に改善を進めて行こうとする会社の姿勢に反することになるのではないでしょうか。

    これから外食企業に限らず、少子高齢社会の突入で、人員の確保や教育が企業でも至上命題になるときがくるでしょう。ワタミの取り組みが、外食企業、引いては日本社会全体の労働環境改善の一歩となることを願ってやみません。

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    【プロフィール】ナイン
    北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と退社。現在求職中。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。TwitterFacebookブログ

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