• 無給でポスター貼り、投票も促され… 都知事選のころの「ワタミ」の思い出

    ワタミグループ創業者の渡邉美樹さんが、現在国会議員であることは皆さんご存じだと思います。しかし2011年の東京都知事選に出馬していたことを、覚えている方はいるでしょうか。当時は石原慎太郎氏と東国原英夫氏に敗れ、政界進出はなりませんでした。

    実はこのとき、ワタミグループの社員たちは渡邉氏の選挙準備のために、サービス残業ならぬ「サービス選挙活動」を余儀なくされました。私は都内のあるワタミの店舗で働いており、この状況を目の当たりにしたのです。(ライター:ナイン)

    本社から人づてに伝わった「個人的に応援」の声

    渡邉さんが東京都知事選に出馬するとき、ワタミの運営で培ってきた経営能力を、企業を超えた枠組みで生かしたいと表明していました。高齢者が安心して歳を取れる社会の実現や、高校生の10人に1人を1年間留学させる教育改革の構想を掲げました。

    選挙出馬のニュースを聞いたとき、私は「また社長が変なことやってるな」くらいにしか思いませんでした。ただ、社員たちの間には何となく「嫌な予感」がありました。

    数日後、予感は的中します。「渡邉さんの選挙の応援」として、東京都内のワタミ店舗勤務の社員が、渡邉さんの選挙のポスター貼りを行うことになったのです。

    対価をもって選挙運動をするよう依頼する行為は法律に違反するので、業務命令として「選挙の手伝いをしろ」ということはできません。また会社は社員に対し「誰々に投票しなさい」といったことも言えません(昔はどの会社にもあったようですが)。

    そんな中、会社はどうやって社員にポスター貼りをさせたかというと、本社から人づてに「私は渡邉さんを応援します。皆さんどうですか」といった趣旨の内容の意見が回ってきたのです。強制でも命令でもない、あいまいなものです。

    あくまでも店舗で働く社員やアルバイトが、その意見に賛同し、皆が自主的に動いたという流れであったのです。こうした「あくまで個人的に応援する」という建前により、結果として無給で、渡邉さんの選挙ポスター貼りは行われました。

    ワタミの社員から見れば、自分の上司に「俺は渡邉さんを応援するぞ」と言われれば、それを拒みにくいことは容易に想像できます。渡邉さん本人がどの程度関与したかは分かりませんが、この流れを作った人はそのことをよく理解していたはずです。

    上司も研修で「今回は選挙に行こうと思う」

    社員たちが実際に誰に投票するかについても、当然ワタミの管理職の人たちは公に「誰々に投票しなさい」とは言えないので、社内研修でこういった発言をしていました。

    「俺は渡邉さんを個人的に応援している。今回はちゃんと選挙に行こうと思う」

    渡邉さんへの投票を命ずることははっきりと言えないものの、促す発言をしていたといっていいと思います。この「応援している」という言い方が選挙の抜け道だそうで、こういった間接的な示唆しかできないのですね。

    正直に明かすと、私はワタミで働いていたときには、渡邉さんのことを尊敬していました。お世話になっている会社の創業者ですし、グループをここまでにしたのはすごい人だなと率直に思っていました。

    ただ、こういったことがあると、渡邉さんは我々ワタミ社員のことを「体(てい)の良い労働力」くらいにしか思っていなかったのかもしれない、と感じました。無給で選挙の「応援」をさせられ、それを断れない空気があるならサービス残業と変わりません。

    皆さんはこの事をどう思いますか。渡邉さんの卓抜した経営力、先見の明は素晴らしいと思いますが、肝心の渡邉さんの活動や本音の部分には、かなりグレーなものがあったのではないかと思うのです。

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    【プロフィール】ナイン
    北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と転職。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。TwitterFacebookブログ

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